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自分らしさがわからなくなったときに読む話

    数年前、私の文章講座に、ある受講生さんがいらっしゃいました。
    彼女はある病気を患い、入退院を繰り返してきた方でした。現在は病状が落ち着き、穏やかな日々を過ごしているとのこと。
    壮絶な時期を乗り越えて私の前に現れた彼女は、澄んだ瞳と凛とした言葉をもつ、魅力的な方でした。

    なぜ、文章講座に参加されたのかたずねると、こんなふうに話してくれました。
    「自分と同じような病気で苦しんでいる方やご家族を励まし、背中を押してあげられるような文章を書きたいんです」

    つらく苦しかった闘病生活では、起き上がることすら難しい日も多かった、とふり返る彼女。
    闘病が始まったときから、ふと心に浮かんだ気持ちを、小さなノートに手書きで綴っていたそうです。
    「つらい」「もういやだ」「こんな生活、いつまで続くのか」
    そんな心の叫びをはじめ、主治医との対話の内容、家族への感謝の気持ち、未来への想い……。
    気がつくと、書き綴ったノートは10冊を超えていました。

    「でも、ノートを読み返すのが、怖いんです」
    彼女はぽつりと言いました。

    「いま、ようやく体調が落ち着いて、穏やかに過ごしているのに、ノートを読み返すと、つらかった日々に戻ってしまいそうな気がするんです。”元気だったころの自分にはもう戻れない”という恐怖に襲われるんじゃないかって……」

    じつは彼女、病気を患う前は、旅行や食べ歩きが大好きで、アクティブな日々を送っていた方でした。
    だからこそ、病に倒れ、体が思うように動かなくなっていく自分を、なかなか受け入れることができなかったのでしょう。

    過去の自分とゆっくり向き合い、対話する

    ある日、彼女は決心したように、こう語りました。
    「病気のことを誰かに向けて綴るなら、やっぱり、当時の自分とちゃんと向き合う必要があると思うんです。だから、勇気を出してノートを開いてみます」

    私はただ一言、こう伝えました。
    「無理しなくて大丈夫。でも、ゆっくり、当時のあなたと話してみてくださいね」

    しばらくして、また彼女は講座にやってきました。
    そのとき彼女は、やわらかな微笑みを浮かべながら、こう言ったのです。

    「過去のノートを読んだら、つらくなると思っていました。でも、そうじゃなかった。読んでみたら、むしろ、あの頃の自分の言葉に、すごく励まされました。
    “よくここまで頑張ったね”って、まるで当時の自分が今の自分の背中を押してくれているようで……。
    読み返してみて、本当に良かったと思いました」

    その言葉を聞いて、私ははっとしました。
    彼女は、病気になる前の人生と、闘病中の人生、そして今の自分自身を、
    ようやく1本の物語(ナラティブ)として、自分自身で紡ぎなおすことができた
    のだ、と。


    ナラティブ(物語)を見失ったとき、人は語れなくなっていく

    これまで私は、新聞記者やコピーライターとして5000人以上の言葉と向き合ってきた中で、人が「自分らしさ」を見失う場面をたくさん目撃しました。

    たとえば、病気や怪我、災害、別れ、転職、子育ての終わり、家族との関係の変化……。
    人生の「これまで」と「これから」のあいだで、ふと立ち止まり、考えるのです。
    「これからどう生きていけばいいのだろう」「こんなはずじゃなかった」「自分のことがわからない」と。

    アメリカの心理学者ダン・マクアダムスは、こう語っています。
    「アイデンティティとは、人生にまとまりと意味を与える“個人的な神話”である」

    また、心理学者の河合隼雄氏もこう述べています。
    「人間は、自分の経験を心に収めるために、それを自分の人生観に組み込む必要がある。
    そこに“筋道(プロット)”があること、それが物語の力だ」


    「自分らしさがわからない」と感じるとき、
    私たちは、自分の物語(ナラティブ)を見失っているのかもしれません。

    その物語は、誰かに与えられるものではなく、
    自分自身でつなぎ直し、語り直すものなのです。


    “物語を語りなおすこと”で、人生は動き出す

    2025年の4月から、ずっと温めていた「青猫ナラティブ」という
    新しいプログラムをスタートしました。
    (➡くわしくは、こちらの記事をお読みください。
    https://note.com/aonekoworks/n/n41c8115a95e4)

    青猫ナラティブで大切にしているのは、
    「過去を美化すること」でも、「理想の自分を演じること」でもありません。

    “いまの自分が納得できるストーリーを、再編集すること”です。

    今この瞬間のあなたが、自分の言葉で「こう語りたい」と思えるなら、
    それがきっと、あなた自身の物語のはじまりです。

    青猫ナラティブでは、
    “まだ言葉になっていない想い”や”置き去りにしてしまった気持ち”を、絵や色で可視化するところから始めます。
    言葉にしづらかったモヤモヤした気持ちをイメージとして表現することで、
    納得のできる「自分の物語」が語れるようになっていきます。

    自分らしさは、誰かが決めるものではなく、自分で編みなおしていくもの。
    あなたの「今」が、あなたの「これまで」と「これから」をつなぎなおすカギになります。



    🎤小川こころのプロフィールとサイトマップを解説した、総合案内所(2026年2月更新)はこちらです!



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