掌編|読書家の恋愛遍歴|シロクマ文芸部
借りた本を彼女にするのはよそう。
僕、個人の意見としてはそう思う。
返却期限があるからと、軽い気持ちで一、二冊お持ち帰りする輩がいると聞く。だが、そういうのに限って、だいたい翌日の早朝、こっそり返却ポストにやってくる。
出会ってすぐは楽しい。
恋愛ってそういうものだ。
表紙に一目惚れして借りた本なら尚更、見つめあっているだけで酒が進む。
いい具合に酔いが回って、いよいよめくってみようとワクワクしながら中を覗くときの高揚感はたまらない。始まりの一文に心をつかまれ、深みにはまる。
そうなると当然、ぱらぱらめくるだけじゃ物足りなくて、じっくり腰を据えて読みたくなる。
彼女の意外な部分に驚いたり、感動したり。知的好奇心を満たしながら楽しい時を過ごす。
けれど、途中からどうにも理屈臭くて読み飽きてしまったり、暗く救いようのない展開についていけなくなって、相性が悪いのかもしれないと疑い始める。
そして、本を閉じてしまう。
翌朝、息苦しさで目を覚ますと、彼女が体を開いて顔の上に跨っている。払い落とそうかと思うが、借りた本だ。図書館のブラックリストに乗るわけにいかなくて、そっと彼女を持ち上げ、顔から離す。
癖なんだ。
開いているページをなんとなく読んでしまう。
するとそこには、こちらの古傷を抉るような言葉が太字ではっきり書かれている。朝からため息が漏れる。
直後、顔面に落下されるのもお決まりのパターンだ。
眼球を狙ってくるあたり、嫉妬深くて角張った彼女の性格が表れている。別の本を読ませないようにって。実際、その嫌がらせは成功している。
青痣を隠す眼帯をして、僕は返却ポストに向かう。
――いかにも読書家のふりをして。
よろしくお願いします✨
本日、創作大賞の中間発表がありました。
通過作品を書かれた皆様、おめでとうございます。今後もドキドキですね!
私が書いたものは通過ならずでしたが、小説を書く癖は止められないので今後ともnoteとTALESにはお世話になります。
読んでくださった皆様、今年も本当にありがとうございました!
