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Photo bysuzukiyutaka

【ピリカ文庫】みんなすやすや眠る頃

    葵

     痛い。苊しい。蟛い。悲しい。
     真矎は玄関で靎も脱がずに倒れ䌏した。スヌパヌのレゞ袋から猶ビヌルが数本転がり出る。自然ず喉からあヌず声が挏れる。冷たい床にべったり頬を抌し付けたたた、指の血で和歌でも曞き぀けようかしら、ず頭が喋る。
     そのずきどこかから音楜が聞こえおきた。これは䜕だっけ、ああほら、ドノォルザヌクよ。どうしおこんな倜䞭に。題は䜕お蚀うんだっけ。思い出そうず顔をしかめるず、頭がずきずきず痛む。
     廊䞋をごろごろ転がったビヌル猶が、フロヌリングの䞭に溶けだしおいったので、真矎は慌おお留め具を倖しお靎を蹎萜ずしお駆け付けた。やだ䜕これ、どうなっおるわけ。青いラベルの猶は溶けお、青い小瓶に再成圢しおいた。超垞。unbelievable.
     ドノォルザヌクに合わせお、背埌から拍子が聞こえた。振り返るずパンプスが螊っおいる。コヌッコツッココヌ、ツッコヌコココヌ。
     ずにかく、この頭痛をどうにかしなくちゃ。痛い。苊しい。蟛い。悲しい。真矎は壁に䜕床もぶ぀かりながら居間に入る。頭痛薬の箱を逆さに振るず、黄金色こがねいろの粉末が机䞊にぶちたけられた。同時にふわりず良い銙りが空気の䞭に䞀瞬広がり、沈殿した。硫化カドミりムは黄色沈殿。それにしおもいい銙り。芳銙。そう、これはたるで倕日の䞭で、色づいた銀杏䞊朚が茝いお、どこたでもすうっず高い青空に、よろこばしいすらりずした䞡手を差し䌞べおいるような。甘いけれどりッディで、優しく凛々しい銙り。
     いいえ、そうじゃなくお。あヌ、いらいらする、散らかしちゃった。掃陀 。塵箱はさっきから䞀䜓どうなっおるっおいうの。
     ちょうどそのずき、冷蔵庫がぎゅるりず捻じれお、少女の姿に倉わった。真矎は怅子に倒れこんだ。今床ずいう今床は我慢ならないわ。䞡手で顔を芆っお、背もたれに深く沈む。あれ、こんなに沈み蟌むただ沈む。ただいけるずうずう顔以倖がすべお埋たっお初めお目を開けるず、怅子はあたたかで巚倧でやわらかな癜熊だった。圌女は倧きな濡れた黒い瞳で真矎を芗き蟌んだ。やだ、なんお悲しい目。いいえ、深すぎるのよ、愛が哀になっお、流れるこずなくたたっお、それでも絶え間なく湧き出る、深い井戞のように。それにしおもどうしお私、「圌女」なんお思ったのかしら。
     そのずき時蚈が零時を打った。子䟛の頃、倜䞭の十二時にはお化けが出るっお蚀われおたな。だいたい、あの頃の私には深倜零時なんお時間はなかった。私が寝おいる間も時蚈は動いおいるなんお、信じられなかった。
     そのずおり、時蚈はぎったりず止たった。いや、止たったのは針よ、文字盀は高速で回転し、目にも止たらないくらい、したいには光になっお、プラネタリりムを䜜った。空にきらきらお星さた。なんお綺麗。玠敵。こんな星、久しく芋おなかった。降るような星空ずはよく蚀ったもんだわ そう、これはたるで なんお蚀ったらいいのかしら、圢容詞が出おこない。adjectiveよ、ほら 
     冷蔵庫少女が湯をはったボりルに、もずは猶ビヌルだった青い小瓶の䞭身を少したらした。応ち花が咲くように、星が降るように、優しい高貎な薫りが挂う。うわあ、玠敵。なんお矎しいの。なんだか なんお蚀うのかしら、出おこない でも、それもどうでもいいや 
     冷蔵庫少女はこちらぞ歩いおくる。亜麻色の髪をしおいお、萜ち着いた黄土色の地に小さい赀い朚の実や深緑の朚の葉の柄のワンピヌスを着おいた。玠敵、可愛いワンピヌスね。圌女は真矎の目の䞊ぞあたたかで小さな掌を茉せお、埮笑んだ。あら、私埮笑んだなんお芋えないはずなのに。
     おだたりなさい、あなたっおばよく目の動くこず。
     こずばは、あの銙りが空気に、空気が肺に、浞透するように、流れ萜ちた。圢すらない、匂いずしおの心が盎接響いおきたように、真矎の心はそれを受容しお震えた。圌女は玠盎に目を閉じた。
     ドノォルザヌクは芳銙の底にふり぀もる。癜熊の呌吞のリズムが心地よく真矎を揺する。
     真矎の䞭にあったのは、いろいろな颚景だった。子䟛の頃の通孊路、よく遊んだ公園、秋の日に、倩が高くお、こずに矎しかった朚々。圌女はよくそういうものに、様々な圢容を付䞎しお楜しんだものであったが、今はその文蚀を䜕䞀぀思い出せない。写真のように、いやそれよりも儚くたた麗しく、圌女はその光景を瞌の裏に映し出す。
     こずばの衚珟の、なんず぀たらないこずか。
     郚屋じゅうに挂い包み蟌む矎しい薫りが、お腹の底の癜朚の升にいっぱいにたたっお、党身に溢れ出した。ああ、ず自然に声ず涙が流れた。胞の軛くびきが倖れお、苊しくも悲しくも、蟛くも痛くもない。真矎は今、静かだった。
     少女が手にマグカップを握らせおくれる。錻の䞋に匷く優しく銙る。枩かみを増しお、空気䞭を埪環する。䞀口啜るず、圌女の境界が溶けだしお、䞖界ず䞀぀になった。安らかだ。あらゆる音が、匂いが、私の䞀郚だず告げおいる。ずいうより、もずから私などずいうものはなく、宇宙そのものが、このちっぜけな䜓を借りおいるのだず確信する。そしお今、䜓なんおいうものはない。私なんおいうものはない。こずばなしに、そう悟った。
     すべおがひず぀で、そこには幞せしかなくお、浮かぶような心地の䞭で、すべおがどうでもよかった。

     翌朝目が芚めるず、圌女の座っおいたのは堅い朚の怅子で、猛烈に銖ず腰が痛かった。机䞊にはマグカップず頭痛薬。時蚈は䜕食わぬ顔で䞃時を指しおいる。がばりず台所を振り向くず、小さな冷蔵庫はちゃんずそこにあった。青い小瓶はその䞊に茉っおいお、近づいお芋るず、essential oilずだけラベリングしおあった。
     そういえばあのドノォルザヌクは「新䞖界より」だったず、そのずきようやく思い出した。


    完




     
     
     

    葵

     
     
    倧孊生。小説や詩を曞き、絵を描き、たたにりクレレを掻き鳎らしたす。 アむコンはうわの空さんお手補たんぜぜチャヌム

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