
月曜日、おいで。
「今日、登校班で行く」
ソファでTVを見ながら息子が言った。
小学校に入学した4月。
一緒に集合場所まで行った。
黄色い帽子が3つ並んでいた。
「ママ、隣きて。」
小さい手のひらは温かく、柔らかかった。
班長さんのペースに合わせながら、進む。
だんだん、小さい足音がいくつも重なってきた。
聞き取れない声が頭で混ざり合った。
「行ってらっしゃい。」
そうやって、行けたのは、
1週間と少しだった。
「行くよ。」
小さな手を引っ張るも、
集合場所から動かなかった。
縁石に小さく座る息子は、足元をみて、
目が合うことはなかった。
「先に行ってください。」
頭を下げた。
班長さんのとーまくんの顔が見れなかった。
集団で歩いて行く、みんなの後ろ姿を朝日が照らしていた。
その背中が見えなくなるまで、
目が離せなかった。
足元をみると息子の靴のつま先があった。
いつもより、汚れて見えた。
その日から、親子での車登校が始まった。
集合時間を気にした。
みんな歩く時間。
声をかけるが、返事はない。
動かない息子に声をかけることすらやめた。
時計すら見なくなった。
いつの間にか、一年が経っていた。
「明日、歩いて行くよ!」
少しだけ空気が止まった気がした。
「どうして、急に行く気持ちになったの?」
台所の片づけをしながら視線を送った。
「あのね、とーまくんが『月曜日、おいで。』って言ってくれたの」
口元が笑っているように見えた。
「よかったね。え。登校班で行くの?」
自分の声が弾んでいるのがわかった。
「うん、たぶん行ける」
TVでは普段みないニュースが流れていた。
8時になった。「行く?」
時計に視線を送った。
「あ、そうだね。行かなきゃ。」
ランドセルを片手で背負うと、靴の踵を強く踏んずけていた。
「踵!ちゃんと歩けないよ。」
「はーい」
玄関を片手で開けるが、いつもより重そうに見えた。
でも、玄関前のオリーブの木の朝露がきらきらしていた。
庭に砂利の音がザクザク大きく響いた。
庭を出るころには、それも消えていた。
息子は立ち止まってしまった。
集合場所を見つめていた。
低いコンクリート壁によじ登り、ジャンプ。
もう一度、さらにもう一度。
私も砂利を踏み、足を運ぶ。
息子は私がたどり着く前に、走り出した。
視線は背中のランドセルを追っていた。
遠くに見えたのは、とーまくん。
息子の肩を2回叩いていた。
そのあと、肩を組み、集合場所まで歩いていた。
車も通っていたはずなのに、二人の姿だけが、目に焼きついた。
集団の中に紛れた息子を、いつまでも目で追っていた。