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空壺のあるところ | 第21話(完)

    エピローグ

    翌朝。

    窓から差し込む光で、
    菜木は目を覚ました。

    荷物をまとめながら、
    部屋をゆっくり見渡す。

    少し長く過ごしたこの部屋も、
    今日でひとまずお別れだ。

    寂しさはあった。

    けれど、
    それ以上に満たされた気持ちだった。

    荷物を持って階段を下りる。

    「おはよう」

    花がいつもの笑顔で迎える。

    「おはようございます」

    食堂には、
    修と花、悠がいた。

    ほどなくして、
    美空たちも眠そうな顔で集まってくる。

    「もう帰っちゃうの?」

    美空が口を尖らせる。

    「うん、仕事があるから」

    「そっかぁ……」

    「また来るよ」


    菜木がそう言うと、

    「うん!」

    美空は満面の笑みになった。

    修は静かにうなずく。

    「いつでも、おいで」

    その一言だけだった。

    けれど、
    菜木には十分だった。

    「はい」

    自然と笑顔になる。

    空壺を出る時、
    みんなが外まで見送りに来てくれた。

    「いってらっしゃい!」

    花が大きく手を振る。

    「またねー!」

    美空も思い切り手を振る。

    その横で、
    悠も両手を振って笑っていた。

    凛子は静かに微笑み、

    晴海も「気をつけて」と軽く手を上げる。

    咲江も、
    やわらかな笑顔で見送ってくれていた。

    修はいつものように、
    静かに手を上げた。

    菜木も振り返り、
    何度も手を振る。

    「いってきます」

    その言葉が、

    自然と口をついて出た。

    電車に揺られながら、
    菜木は窓の外を眺めていた。

    少しずつ、
    湖上湖が遠ざかっていく。

    また来よう。

    そんな思いが、
    自然と胸に浮かんでいた。

    その時、
    携帯が震えた。

    朱珠からのメッセージだった。

    『なーちゃん。
    実緒さん、
    目を覚ましたよ』

    菜木は思わず息をのんだ。

    続けて、
    もう一通届く。

    『修さん、
    泣いてたらしい』

    菜木は、
    ゆっくり画面を閉じた。

    「実緒さん……」

    滝の中で見た光景が、
    静かによみがえる。

    「会いに行かなくちゃ」

    その言葉は、
    自然と心に浮かんだ。
     
    再び携帯が震える。

    今度は、
    空壺へ一緒に来るはずだった、
    ひよりからだった。 

    『退院したよー!』

    その一文に、
    菜木は思わず笑ってしまう。

    すぐに続きが届く。

    『空壺どうだった?』

    菜木は窓の外を見る。

    遠くなっていく山。

    空。

    流れていく景色。

    少し考えてから、
    返信を打った。

    『また帰りたくなる場所だったよ』

    送信ボタンを押す。

    電車は静かに走り続ける。

    また帰ろう。

    空壺へ。

    そう思える場所があることを、
    菜木は幸せに思った。

    完。


     
     
    自然の中にある静けさや、 人と人との“縁”を大切にしながら物語を書いています。 人の心の動きや、 言葉にならない想いに惹かれています。 少し不思議で、 どこか懐かしい世界を綴っています。 フィクションです。

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