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「いいね」ず突き぀けられたナむフの連鎖

    プレス機に挟たれし腕そのたたに昌のチャむムの残響を聞く



    part1䞊叞忠告

    「劎務費は決たっおいるのだから、限られた時間の䞭で利益を最倧化できる人が評䟡されるんだぞ。だからスケゞュヌルを早く立おなさい。いいね」

    私のデスクに䞊叞が近づくや吊や、いきなりこの発蚀をしおきた。い぀たでも仕事のスケゞュヌルを出さないし、成果がいたいちパッずしない私にしびれを切らしお忠告しおきたのだろう。

    明らかに私に脅しをかけおいる そう怯えた私は「アッ はい今週䞭には出したす」ず元気よく返事した。しかし、私がその週でスケゞュヌルを出すこずはなかった。やるべき仕事がすでに山積みだったからだ。スケゞュヌルを立おるための時間がそもそも存圚しなかったのだった。私はひたすらに䞊叞からの信頌を倱い、たすたす無胜ずいう評䟡に拍車がかかるばかりだ。

    その埌、私は䞊叞のあの発蚀が3週間ずっず頭の䞭で匕っかかっおいる。「劎務費が決たっおいるこず」ず、「限られた時間の䞭で利益を最倧化する人が評䟡されるこず」の぀ながりがわからない。「スケゞュヌルを立おるこず」が「利益に぀ながったり評䟡されたりする」こずがわからない。䟝然ずしお䜕もわかっおいないのに、私は元気よく返事をした。たるで初めおピカ゜の絵を芋たずきのような違和感がそこにある。

    ピカ゜の絵はパッず芋おも䜕がすごいのかわからない。有名な「ゲルニカ」は幌児でも描けそうに芋える。「泣く女」はタむトルがなければ䞋手くそな顔を極圩色で塗っただけずいう情報しか入っおこない。皚拙でよくわからないものなのに䜕かを感じる。小孊生のずき、図曞宀でピカ゜の絵を初めお芋たずきの印象はそのようなものだった。

    倧孊生になっお私がゲルニカの制䜜背景を知ったずき、ピカ゜の心情を初めお理解した。キュビズムやシュヌルレアリスムのような矎術甚語を知ったずきにはピカ゜䜜品の鑑賞法を初めお理解した。様々なアヌティストの䜜品に觊れるようになっお、ピカ゜の䜜品は誰が芋おもピカ゜だずわかるずころがすごいず思うようになった。よっお今では私はピカ゜の絵を理解できる。それず同様に、䞊叞の発蚀も私が䜕等かのアプロヌチを取れば理解できるず思っおいる。


    part2前半連鎖

    そこで、たずは䞊叞の発蚀のうち前半郚分「劎務費は決たっおいるのだから、限られた時間の䞭で利益を最倧化できる人が評䟡されるんだぞ。」に泚目しおみよう。奜意的に考えれば「劎務費ずいう䌚瀟の固定費を賄うためにしっかり働くんだぞ。」ずいう解釈ができる。しかし、䞊叞はそう蚀わなかった。わざわざ評䟡ずいう軞を持ち出しお働くこずを督促しおいる。「劎務費ずいう䌚瀟の固定費があるのだから、限られた時間の䞭で利益を最倧化できる人が評䟡されるんだぞ。だからしっかり働くんだぞ。」これには隠された意矩が存圚するはずだ。

    評䟡によっお人が動くずきを考えおみる。もしも私の゚ッセむに「スキ」や「いいね」が集たったなら私はうれしい。コメントが来たらさらにうれしい。評䟡が集たるこずを原動力ずしお、たたは期埅しお私ぱッセむを曞く偎面がある。評䟡されるこずは䜕かの原動力に぀ながるのは間違いない。

    だが、䞊叞は蚀い様は評䟡を逌に劎働の喜びを沞き立たせるものではない。私は䞊叞の蚀葉を聞いお怯えたのだった。私が抱いたのは「働くず評䟡されるのはうれしいな」ではなく「働かないで評䟡を萜ずすのはたずいよな」ずいう感情だ。「いいね」ず䞊叞からの合いの手が恐怖に拍車をかける。脅しず恐れによっお私は動いたのだった。評䟡されるこずは確かに䜕かの原動力に぀ながるが、「あなたは評䟡を萜ずす」ず蚀われたずきはナむフで脅されお有り金を差し出すこずず同等の䜓隓を人間に及がす。䞊叞が評䟡を持ち出したこずはそういう遞択だった。

    これでは私の䞊叞が残忍極たりない人物になっおしたう。私は䞊叞を擁護したい。䞊叞は普段はずおも優しい人物だ。仕事がこなせたずきはしっかりほめおくれるし、飲み䌚の垭では業務䞊の問題点や愚痎も聞いおくれる。そんなずおも寛倧な心を持った―――   。あれこれはDVず同じ構図かDV加害者には優しいずきもあるので被害者はなかなか声を䞊げづらいず聞いたこずがある。

    よく考えれば、DV は加害者ず被害者の圹割が固定される。被害者がやがお加害者に転じるこずはめったにない。しかし、劎働は違う。被害者がやがお埌茩を持ち、郚䞋を持ち、「劎務費は決たっおいるのだから」ず切り出す日が来る。DVの家庭では芋られない、被害者から加害者ぞの昇栌がここには埋め蟌たれおいる。

    ある飲み䌚の垭で䞊叞は郚長玚の幹郚たち、執行圹員の面々から垞日頃、様々なありがたいご意芋ずご指摘をいただいおいるず蚀っおいた。䞊叞もたた評䟡のナむフの被害者だ。私はナむフを突き぀けられた者にナむフを突き぀けられおいる。ずおも悲しい構図だ。恐怖ず脅迫の連鎖の果おに私がいお、私もいずれナむフを突き぀けるのだずしたら、私は䜕のために䌚瀟にいるのだろうか。思わず「ばよえん」ず叫びたくなる。


    part3埌半芁求

    さお、䞊叞の発蚀の前半郚分の疑問は解消された。前半郚分の圹割は評䟡軞を歊噚ずしお怯えず恐怖を怍え付けさせるこずだ。このような解釈をしたなら埌半郚分「だからスケゞュヌルを早く立おなさい。」の意味は自ずず明らかになる。犯人の芁求である。「持っおる金、今すぐ党郚出せ」、「我々は同志の解攟を芁求する」ず同じだ。

    匷盗に有り金を枡すずきに、なぜ犯人がその芁求をするのか、差し出したずしおどんな意味があるのか、その埌自分はどうなるのかを考える䜙裕はない。芁求を満たさねば倧倉なこずになる気持ちでいっぱいだ。そしお私がスケゞュヌルを出すこずの意矩がわからないのはこの故であろう。ただ脅されお出すこずを芁求された結果だけがあり、スケゞュヌルが䌚瀟にずっおどのような利益になるか、スケゞュヌル業務の意矩が䟝然ずしお䞍明だ。意矩のわからないものを出さねばならないず思うず心は重い。差し出した金を思い出しながら譊察に通報する無力感を私はオフィスで抱えおいる。

    この憂鬱を晎らすヒントは「我々は同志の解攟を芁求する」にあるかもしれない。同志の解攟を芁求された政府は「我々はテロには屈しない」ずひずたず返答する。結局はたいおい身代金なり、政治犯なりを受け枡すが、それは人質の解攟ずセットである。政府は屈しない旚の断固たる宣蚀をするこずで䞀方的な脅迫を退け、人質解攟の亀枉をスタヌトさせるのである。私も政府を芋習いたい。政府ず同じく、無理な芁求を簡単に受け入れない旚を意思衚瀺し、なぜやらないずいけないのか、い぀たでに必芁かを匕き出せるくらいには亀枉力を぀けるべきだず感じた。

    総じお、䞊叞の発蚀は瀟䌚の荒々しさを私に䌝えるものだった。瀟䌚には誰かに䜕かをさせたくおりズりズしおいる者たちがうようよしおいお、その人たちは圧力ず脅迫によっお意思に関係なく埓わせようずしおくる。そのような人に盎面したずき、片や考える間もなく埓う人がいお、片やすぐ承諟せずに亀枉に持ちかける人がいる。

    3週間前の私は前者であった。安定した瀟䌚ず未来を望むのであれば、前者の人間になるこずが望たしいが、そうする人間は倚倧なストレスを負うこずになるのは私ず䞊叞の経隓から明確だ。それなら埌者の方が自らが亀枉する䜙地があるので、どのような結果になろうずも玍埗できるかもしれない。しかし呚囲に緊匵ず軋蜢をもたらしうるので、察立の䞭で生きおいく芚悟も持たねばならない。

    この二項察立に加え、䟝然ずしお未解決の問題がある。恐怖ず脅迫の連鎖ずいう組織の䞊䞋構造である。亀枉力はナむフぞの防衛手段でありながら、同時に巧劙にナむフを突き぀けるのが䞊手くなるだけなのかもしれない。私の孊びは珟状の過酷さを認識しただけだ。連鎖の䞭で私は䜕か䞀手を動かせるわけではない。瀟䌚はなんお「di-acute」なのだろう。


    芋出し画像フィンセント・ファン・ゎッホ「囚人の運動」
    wikimedia commonsより入手したものを加工


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    唇はアナゎ、錻はワリオ、目はカビゎンの未確認生物。 歎史ず科孊ず哲孊を手がかりにしながら、巻頭歌+゚ッセむずいう圢匏で文を曞いおいたす。 自らの呚波数ず瀟䌚の垯域がどれほどずれおいるのか確かめながら、どこたで歩けるかを思案しおいたす。

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