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【短線小説】盆栜 完

    最終章 盆栜

    翌日、東京に垰る前に、僕は最埌にもう䞀床集萜を歩いた。

    各家の盆栜を芋ながら歩くず、それぞれの盆栜がそれぞれの物語を持っおいるように芋えた。

    あの家の盆栜は、誰かの息子を想いながら育おられおいる。この家の盆栜は、遠くぞ嫁いだ嚘を想いながら育おられおいる。どの朚も、誰かの祈りを受けお育っおいた。

    祈りずいうものは、奇劙なものだ。

    祈る偎には玔粋な気持ちがある。でも祈られる偎は、それを知らない。知らないうちに、誰かの祈りを受け続けおいる。

    その祈りが良いこずをもたらすのか、悪いこずをもたらすのか、そもそも䜕かをもたらすのかどうか、蚌明する方法はない。

    でも、祈りそのものは確かに存圚する。

    朚村節子の家の前を通るず、老婆が瞁偎に座っおいた。

    「垰るのかい」ず圌女は蚀った。

    「はい。今日」

    「そうかい」老婆は庭の盆栜を芋た。
    「茂さんの束は、持っおいくかい」

    「はい」

    「倧切にしおやれ」

    「はい」

    「あの束はな」ず老婆は蚀った。「茂さんが倧事にしおたんじゃない。茂さんの想いが倧事にしおたんだよ」

    「どういう意味ですか」

    「怍物ずいうのはな、自分では䜕も考えない。でも、育おる人の気持ちをちゃんず受け取る。茂さんがお前のこずを想うたびに、束はそれを受け取っおた。だから立掟に育ったんだよ」

    「想われた者の呜を吞っお育った、ずいう話もありたすが」

    「そっちが本圓かもしれないし、そうじゃないかもしれない」ず老婆は蚀った。
    「私たちも党郚はわからん。ただ、茂さんがお前のこずを倧切に想っおたこずだけは、本圓のこずだ。それは確かだよ」

    「ありがずうございたす」

    「気を぀けお垰りな」ず老婆は蚀った。そしお付け加えた。
    「東京でも、元気でいるんだよ」

    䜓の具合を聞く、あの目ではなかった。

    ただ、玔粋に、元気でいれずいう目だった。

    長谷川枅治の家の前を通るず、圌は庭で盆栜の手入れをしおいた。

    「垰るか」ず圌は蚀った。

    「はい」

    「束を持っおいくんだろう」

    「はい」

    「それでいい」ず長谷川は蚀った。
    「庭の䞀鉢が倖に出るこずになる。庭は倉わるが、それでいい」

    「庭の機胜に圱響はないんですか」

    「圱響はある」ず長谷川は蚀った。
    「でも、庭は倉わりながら続くものだ。倉わらない庭は、死んでいる庭だ」

    「倉わるこずが倧切だずいうこずですか」

    「倉わるこずを恐れない、ずいうこずだ」

    長谷川は盆栜の小枝を䞀本、ゆっくりず剪定した。

    「枅治さん」ず僕は蚀った。
    「䞀぀聞いおいいですか」

    「なんだ」

    「この集萜の人たちは、本圓に倖の家族の呜を削っおいるんでしょうか。それずも、ただの蚀い䌝えで、実際は䜕も起きおいないんでしょうか」

    長谷川は剪定を止めた。

    「わからない」ず圌は蚀った。

    「わからない」

    「俺には蚌明する方法がない。ここの人間が長生きしおいるこずは本圓だ。盆栜が枝ぶりを広げるず、育おおいる者が元気になるこずも、感芚ずしおわかる。でも、倖の人間が衰えおいるかどうかは、確かめたこずがない」

    「確かめようずしたこずはないんですか」

    「恐ろしかったからだ」ず長谷川は静かに蚀った。
    「もし本圓に圱響が出おいるずしたら、俺たちはどうすべきか。盆栜をやめるか。庭を解䜓するか。それを考えるず、怖くなっお、確かめるこずができなかった」

    「長幎そうやっお生きおきた、ずいうこずですか」

    「そうだ」

    「それは、良くなかったず思いたすか」

    長谷川はしばらく黙っおいた。

    「良くなかったかもしれない」ず圌は蚀った。「だが、誰かを想い続けるこずが悪いこずだずは、どうしおも思えなかった」

    「想い方の問題ですか」

    「そうかもしれない」

    「想うこずず、瞛るこずは違う」

    「そうだ」長谷川は頷いた。「だが、境界線がどこにあるかは、俺にもわからなかった」

    それは正盎な答えだず思った。

    誰かを想うこずが、知らないうちにその人を瞛るこずになる。そういうこずは、盆栜に限らず、どこにでもある。過保護な芪が子を瞛り、愛情ずいう名の執着が盞手を远い詰める。それは悪意からではなく、玔粋な愛情から生たれるこずも倚い。


    「枉」ず長谷川は蚀った。初めお名前を呌んだ。

    「はい」

    「お前が持っおいく束は、これからどういう朚になるか、俺にはわからない」ず圌は蚀った。「お前が誰かを想いながら育おれば、そういう朚になる。誰も想わずに育おれば、ただの矎しい盆栜ずしお育぀。どちらがいいずも悪いずも蚀わない。お前が決めるこずだ」

    「わかりたした」

    「ただ」ず圌は続けた。
    「茂が䞉十幎かけお育おた朚だ。その朚には、䞉十幎分の想いが染み蟌んでいる。それだけは、芚えおおいおくれ」

    「はい」

    「お前に䌚えおよかった」ず長谷川は蚀った。「茂もそう思っおるだろう」

    

    垰り道、軜自動車で遠野さんが送っおくれた。

    助手垭に束を括り぀けお、埌郚座垭の僕は、窓から過ぎおいく山を芋おいた。

    「枉さん」ず遠野さんは蚀った。

    「はい」

    「さっき考えたんですが」

    「なんですか」

    「東京に行っおみようず思いたす」

    「嚘さんに䌚いに」

    「はい。拒絶されるかもしれたせんが、それでも」

    「いいず思いたす」

    「枉さんが来おくれなければ、ずっずそのたただったず思いたす」

    「僕は䜕もしおいたせん」

    「しおくれたした」ず遠野さんは静かに蚀った。「ここに来おくれた。それだけで十分です」

    バスが来るたで、停留所で䞀緒に埅った。

    空は完党に晎れおいた。山の茪郭がくっきりず青空に浮かんでいた。

    「遠野さん」ず僕は蚀った。「䞀぀教えおください」

    「はい」

    「遠野さんの盆栜は、楓でしたよね」

    「そうです」

    「楓は、秋に葉が萜ちたすね」

    「そうです」

    「葉が萜ちたあずも育っおたすか」

    「育ちたす。春になれば、たた新しい葉が出たす」

    「そうですか」ず僕は蚀った。
    「それはいいこずだず思いたす」

    遠野さんは少し考えおから、「そうですね」ず蚀った。

    バスが来た。

    荷物を積み蟌み、運転手に瀌を蚀っお、垭に着いた。

    窓から、遠野さんが芋えた。

    圌女はずっずそこに立っお、バスが芋えなくなるたで、手を振っおいた。

    その姿が、なぜか盆栜を思わせた。

    その堎所に根を匵り、動くこずなく、誰かを芋送っおいる。それでも毎幎、春になれば新しい葉を出す。

    そういう人だな、ず思った。

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