
第4章 永久変動利付国債による国際担保市場と円の役割の再編 ①
第1節 国際レポ市場の構造と円担保の位置
前章では、永久変動利付国債が国内レポ市場において担保資産として機能し得ることを検討した。そこでは、永久変動利付国債が一般担保として広く利用されるならば、金融機関の資産構成は日銀当座預金から市場で運用される担保資産へと転換し、量的緩和政策の出口が市場メカニズムを通じて進行することが示された。
もっとも、この資産転換は国内市場だけで完結するものではない。量的緩和政策の出口の完成は、国内市場における資産転換に加えて、永久変動利付国債が国際的な担保市場に組み込まれることによって達成される。担保資産の価値は、その安全性や流動性だけでなく、どの範囲の市場で利用可能であるかによって規定されるからである。
本章では、視点を国内市場から国際市場へと拡張し、永久変動利付国債が国際担保市場においてどのような位置を占め得るのかを検討する。その前提として、本節ではまず、国際レポ市場の構造と、その中での円担保の位置を整理する。
1 国際レポ市場の規模と資金循環
国際金融市場において、レポ取引は最も重要な短期資金調達手段の一つである。金融機関は国債などの安全資産を担保として資金を調達し、その担保は市場において反復的に利用される。この仕組みによって、安全資産は単なる投資対象ではなく、資金循環の基盤として機能している。
主要国のレポ市場残高は合計でおおむね1,000兆円を超える規模に達しており、前章で見たように、担保市場は国内金融システムにおいても極めて大きな役割を担っている。
これに対して、国際レポ市場に目を向けると、その規模はさらに大きい。ニューヨーク市場とロンドン市場を中心とするグローバルなレポ取引は、概ね20兆ドル程度、すなわち3,000兆円規模に達すると推計されている。
ここで注意すべきは、両者が同一の概念ではない点である。前者は各国の国内レポ市場の残高を集計したものであるのに対し、後者は国際金融センターを中心としたクロスボーダー取引を含む広義の市場規模を示している。レポ取引は担保の再利用を通じて連鎖的に拡大するため、国際市場においては同一の担保が複数の取引に用いられ、市場規模がより大きく観測される傾向がある。
ここで重要なのは、国際レポ市場が各国の個別市場の集合ではなく、それらを接続するネットワークとして機能している点である。ニューヨーク、ロンドン、アジアの金融センターは時間帯ごとに連続し、担保資産は国境を越えて移動しながら、ほぼ24時間にわたり利用されている。
2 担保資産の国際的階層構造
この国際レポ市場において中心的な役割を果たしているのは米国債である。米国債は流動性と信用力の双方において最も高い評価を受けており、グローバルな担保資産として広く利用されている。
欧州においてはドイツ国債などが主要な担保資産として機能しており、これらの資産が国際担保市場の中核を構成している。
このような状況は、担保資産において明確な階層構造が存在することを示している。すなわち、国際市場において広く受け入れられる資産と、主として国内市場において利用される資産とが分かれているのである。
担保資産としての価値は、この階層構造の中でどの位置に置かれるかによって大きく左右される。
3 円担保の位置と制約
これに対して、日本国債は残高規模では世界最大級であるにもかかわらず、国際レポ市場においては必ずしも中心的な役割を果たしていない。
この背景には、日本国債市場が国内投資家中心の構造を持っていることに加え、円レポ市場の国際化が十分に進んでいないという問題がある。現在の円レポ市場は主として国内金融機関によって構成されており、市場インフラや決済システムも国内市場を前提として設計されている。
この結果、円担保を用いた取引は実質的に日本の市場時間に依存することとなり、24時間連続で稼働する国際金融市場の中では利用の柔軟性が相対的に低くなっている。
ここで重要なのは、この制約が市場構造の問題であるという点である。すなわち、日本国債は供給量の観点では十分であるにもかかわらず、その利用可能性が制度的・インフラ的制約によって限定されているのである。
4 国際市場への接続
以上を踏まえると、担保資産としての価値は、その資産がどの市場で利用可能であるかによって決定されることが分かる。
国内市場において十分に機能する資産であっても、それが国際市場に接続されなければ、その需要は限定的なものにとどまる。他方で、国際市場において広く利用される資産は、その流動性と利用可能性の高さから、より大きな需要を持つことになる。
したがって、永久変動利付国債の意義を評価するためには、それが国内市場にとどまらず、国際担保市場においてどのように位置づけられるのかを検討することが不可欠である。
次節では、既存の国際担保資産の構造とその制約を整理し、永久変動利付国債の位置づけを明確にする。