メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byokinawa_omiyage

第9章 担保通貨と国家②

    第2節 担保供給主体としての国家

    1 流動性供給の再定義

    危機時の流動性確保は、これまで主として決済流動性の供給という観点から理解されてきた。すなわち、中央銀行が当座預金残高を拡張することにより、金融機関間の決済を安定させることが政策の中心とされてきたのである。

    量的緩和政策(QE)は、この枠組みを極限まで拡張したものであった。QEは中央銀行による国債の大量購入を手段として、当座預金残高を増加させる政策として理解される。しかしこの過程は、中央銀行のみで完結するものではない。中央銀行が国債を購入するためには、同時に政府による国債の発行が必要であり、QEは政府と中央銀行のバランスシートが一体として拡張された結果である。

    この意味において、国家はこれまでも、間接的にではあるが、決済流動性の供給に関与してきたといえる。すなわち、政府は国債発行を通じて中央銀行の資産形成を可能とし、その結果として当座預金の供給が実現されてきたのである。

    もっとも、この枠組みは決済流動性に偏ったものであり、担保を基盤とする資金調達流動性については十分に考慮されてこなかった。量的緩和の進展に伴い、安全資産が中央銀行のバランスシートに吸収される一方で、市場における担保供給は制約を受けるようになった。

    したがって、今後の金融政策においては、決済流動性と資金調達流動性という二つの側面を統合的に捉え、両者を同時に確保する枠組みが必要となる。


    2 担保資産供給という国家の責務

    前節で確認したとおり、担保通貨の供給能力は、担保資産量と担保回転率によって規定される。このうち担保資産量は、資金調達流動性の基盤を形成する要素である。

    しかし、担保資産は市場内部から無限に創出されるものではない。民間部門による資産供給は、信用力や流動性の制約を受けるため、特に危機時においては担保としての機能が不安定となる。

    このため、広範な市場参加者に受け入れられる担保資産を安定的に供給し得る主体は、最終的には国家に限定される。とりわけ国債は、その信用力と流動性により、担保市場における基盤資産として機能する。

    したがって、担保通貨の枠組みにおいては、国家は単なる財政資金の調達主体ではなく、市場が必要とする担保資産の供給主体として位置付けられる。


    3 永久変動利付国債と担保供給構造

    本書が提案する永久変動利付国債は、この担保供給責務を制度的に担うための中核的な手段である。

    従来の固定利付国債は、満期構造や回号の分散、価格変動といった特性により、担保としての利用に一定の制約を持っていた。これに対し、永久変動利付国債は、満期を持たず、金利が市場に連動することにより価格の安定性を確保しつつ、単一回号として供給されることを前提とする。

    このような設計により、永久変動利付国債は担保利用に最適化した資産となり、市場における基盤的な担保資産として機能する。すなわち、国債は単なる負債ではなく、資金調達流動性を支えるインフラとしての性格を持つことになる。

    この観点に立てば、国家の担保供給責務は、永久変動利付国債という制度的に最適化された国債を通じて実現される。永久変動利付国債は、担保通貨の供給基盤を支える中核的インフラとして位置付けられる。


    4 金融政策との接続

    担保資産の供給が国家の役割である一方で、その流通と利用のあり方は金融政策と密接に関係する。

    第7章で述べたとおり、危機時の金融政策は、当座預金の供給量と担保資産の供給量を同時に制御する問題として把握されるべきである。この枠組みにおいては、決済流動性と資金調達流動性が統合的に管理される。

    この枠組みの下で、中央銀行は、資金調達流動性を確保する観点から、担保の循環の調整主体として機能する。

    しかしながら、中央銀行は担保そのものを創出する主体ではない。その役割を担うのは国家である。

    したがって、担保通貨の供給構造は、
    ・国家による担保資産の供給
    ・中央銀行による担保循環の調整
    という二つの機能の組み合わせによって成立する。


    5 危機時における担保供給の二層構造

    危機時には、市場全体で担保需要が急増し、市場に流通している担保ストックとその回転だけでは十分な担保供給力を確保できない場合がある。この場合、担保供給そのものを拡張する対応が必要となる。

    本書では、このような状況に対応する担保供給を、次の二層構造として設計することを提案している。

    第一に、中央銀行による売現先オペレーションを通じて、既発の永久変動利付国債を担保として市場に循環させる。この段階では、既存の担保資産の配置を調整することにより、流動性の回復を図る。

    第二に、それでも担保供給が不足する場合には、政府による永久変動利付国債の追加発行と中央銀行とのスワップを通じて、新たな担保資産を供給する。この段階では、担保資産の総量を拡張することにより、流動性の基盤そのものを強化する。

    このように、危機時の担保供給は、「循環」と「供給」の二つの手段を段階的に組み合わせる構造として理解される。


    6 担保供給主体としての国家

    以上のように、担保通貨の供給構造においては、担保資産量の確保が決定的な意味を持ち、その最終的な供給主体は国家である。

    この供給責務は、財政政策と金融政策の境界を横断する性格を持つ。すなわち、政府による永久変動利付国債の発行は財政の領域に属する一方で、その流通と利用の調整は金融政策の領域に属する。この両者が結び付くことにより、資金調達流動性を支える担保供給構造が成立する。

    したがって、担保通貨の枠組みにおける国家は、担保供給主体として、資金調達流動性を最終的に支える役割を担うものとして理解されるべきである。


    ◎マガジンはこちら

    この記事はnoteマネーにピックアップされました

    noteマネーのバナー
     
     
    量的緩和(QE)後の金融システムを再設計する。永久変動利付国債(PFRGBs)を核に、通貨・担保・金融政策の関係を再定義し、「担保通貨」の時代を構想する。

    あなたへのおすすめ