
第1章 QEが残した金融システムの歪み④
第4節 出口問題の再定義
1 出口という発想の限界
本章では、量的緩和(QE)が金融システムにもたらした変化を、中央銀行のバランスシート、金融市場の構造、そして金融政策の制約という観点から整理してきた。
これらの分析から明らかになるのは、量的緩和の問題が単なる中央銀行のバランスシートの問題ではないという点である。
一般に、量的緩和の「出口」とは、中央銀行のバランスシートを縮小し、政策を従来の状態に戻すことと理解されてきた。しかし、この発想自体に限界がある。
2 元に戻らない金融システム
第2節で見たように、量的緩和は金融市場における担保資産の供給構造を変化させた。また第3節で見たように、中央銀行が保有する国債は、規模の大きさゆえに容易に市場へ戻すことができない。
すなわち、量的緩和によって形成された金融システムは、単純に元の状態へと戻すことができない構造となっている。
この意味で、「出口」とは、過去の状態への回帰を前提とする概念であるが、現実の金融システムはすでにその前提を失っている。
3 問題の本質
ここで改めて確認すべきは、何が問題なのかという点である。
問題は、中央銀行のバランスシートが大きいことそのものではない。また、中央銀行が国債を大量に保有していること自体が直ちに不安定性をもたらすわけでもない。
本章で明らかになった問題の本質は、金融市場において担保として利用される資産の流通環境が変化し、それに対応する制度設計が十分に整備されていない点にある。
量的緩和は、資金を供給する政策であると同時に、担保資産の供給を変化させる政策でもあった。しかし、その結果として生じた「担保の不足」という問題に対しては、従来の金融政策の枠組みは十分な解答を持っていない。
4 発想の転換
このように考えると、量的緩和の出口を「どのように日本銀行が保有する国債を減らすか」という問題として捉えることは適切ではない。
むしろ必要なのは、中央銀行が保有する国債をどのように金融システムの中で活用するかという視点である。
すなわち、国債を単に処分すべき資産としてではなく、金融市場における担保資産としてどのように再設計するかという問題として捉え直す必要がある。
5 本書の出発点
本書では、この問題に対する一つの制度的解決策として「永久変動利付国債」という構想を検討する。
中央銀行が保有する国債を単に市場に戻すのではなく、金融市場における担保資産として再設計することができれば、量的緩和後の金融システムをより安定的に運営することが可能となる。
量的緩和の出口とは、バランスシートを縮小することではない。それは、金融システムの構造そのものを再設計することである。
本書の議論は、この認識から出発する。