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補助金の死神小説

    あらすじ

    新型コロナの圱響で経営難に陥った゚ステサロン経営者・劂月由矎子は、起死回生を懞けお巚額の補助金制床に挑む。䞍採択、悪質なコンサルタントずの出䌚いを経お、信頌できる䞭小䌁業蚺断士の支揎により、぀いに補助金の採択を勝ち取る。しかし、補助金は埌払い、建蚭費は高隰し、銀行は融資を拒絶する。制床、金融機関、取匕先、それぞれの論理が亀錯するなか、資金繰りは急速に悪化し、十二幎間積み䞊げおきた䌚瀟は厩れ始める。そしお由矎子が最埌に䞋した決断は、自らだけでなく、倚くの関係者の運呜をも倧きく倉えおいく。


    ç Š


    劂月きさらぎ由矎子は、皎理士から来たメヌルの資料を芋ながら深い溜息を぀いた。
    新型コロナパンデミックは由矎子のようなサヌビス業、飲食業、宿泊業などに経営を盎撃した。このたたでは、せっかく築いおきたこの小さな砊を倱うのは時間の問題だった。
    初めは、そんなに倧げさな話じゃないず思っおいた。ただのむンフル゚ンザのようなものかず。それも、どこか遠い海倖の出来事だず。2020幎2月3日にダむダモンド・プリンセス号が暪浜枯ぞ入枯するず、メディアが連日そのニュヌスに持ち切りになった。あっずいう間に街からマスクず消毒アルコヌルが消えた。そしお、店からはお客が消えた。
    小さな賃貞店舗からスタヌトしお、地道に、それでも必死に働いお、やっず手に入れた居堎所。賃貞だが立地も悪くないし、それなりの広さもある。誰が来おも臆するこずのない、自分の砊だった。
    これたで無颚だったわけではなかった。リヌマンショックもあったし、東日本倧震灜、新型むンフル゚ンザの流行もあった。それでも、なんずか続けお来られた。
    開業圓初は、斜術ベッドひず぀ず手技から始めお。ワックス脱毛など蚭備の䞍芁なサヌビスで利益ずお客を増やしおきた。この店舗ぞ匕っ越すタむミングで、レヌザヌ脱毛、EMS高呚波痩身装眮、高呚波ピヌラヌなどの蚭備を䞀匏導入しお、スタッフも2名加え、オヌナヌ゚ステティシャンである由矎子も入れれば3人の䜓制になった。倧手でなければ個人での自宅営業が圧倒的に倚い゚ステ業界では、莔屓目なしに成功事䟋だず思う。誰もが矚むメルセデスのSUVもリヌスできるたでになっおいた。
    そんな砊が目の前で音を立おお厩れようずしおいた。皎理士から四半期で送られおくる決算資料では、売䞊高が前幎同時期比で30たで萜ち蟌んでいる。緊急事態宣蚀が出ようが解陀されようが、そもそも䞍芁䞍急であり、顧客ずの距離感の近い゚ステは、䞀番初めに圱響が出始めたような気がする。
    テレビでは飲食店や芳光宿泊業の圱響を連日報じおいるが、そもそも、リモヌトワヌクになり人々の接觊が枛れば、自然ず矎容は疎かになる。脱毛はもちろん痩身も人に䌚わなければ、差し迫った需芁には繋がりにくい。しかも、リモヌトワヌクでも優秀なフィルタヌを䜿えば、実物はどうであれ画面内では矎顔に映っおしたう。
    由矎子ずお、手をこたねおいいたわけではなかった。他の顧客ず接觊しない完党時間予玄制の導入、セルフ脱毛噚の導入、新芏顧客獲埗のためのWeb集玄プラットフォヌムでの初回栌安チケットの導入。だが、党おは効率を悪くする方向ぞしか動かなかった。完党時間予玄制は、広い店舗のキャパを十分に掻かしきれないし、セルフ脱毛噚はサヌビスの付加䟡倀が䜎い。さらに初回栌安チケットで来店する客は総じおリピヌト率が䜎かった。
    幞い、2名のスタッフは正瀟員雇甚だったので、コロナ枠の雇甚調敎助成金を掻甚するこずができた。それでも、経営者である自分自身の絊料は皌がなければいけないし、パンデミックが終わった時に備えお、顧客を぀なぎ留めおおかなければいけない。
    皎理士からのメヌルには、2020幎12月期の決算は1000䞇円皋床の売䞊になりそうだずも曞かれおいた。確か、2019幎の12月期が2500䞇円だから、40ずいうずころだ。月に80䞇ちょっずの売䞊じゃあ、家賃、通信費、光熱費、リヌス料、瀟䌚保険料、広告宣䌝費を払ったら、かなりダバい氎準だった。

    「い぀たで続くんだろう」
    自分以倖に誰もいない事務所に由矎子の声が響いた。デスクは3぀あるが、他のスタッフはもう䜕ヶ月も出瀟しおいない。こんな状態がい぀たで続くのだろうかずいう䞍安ず、店をい぀たで続けられるのだろうかずいう䞍安に、䞡偎から挟たれお溜息が出た。
    事務所もカりンセリングルヌムも、斜術スペヌスも、灯はなく薄暗い。なんの足しにもならないかもしれないが、節玄しないよりはマシな気がした。ただ、薄暗い空間に独りきりは、ネガティブな考えばかりを生み出す。
    ワクチンは賛吊䞡論あっお、由矎子も正盎いいのか悪いのかもわからなかった。そんなワクチンでも、医療埓事者ぞの先行接皮が今月始たったばかりで、䞀般たで回っおくるにはただただ時間がかかりそうだった。
    新型コロナ自䜓だっお、ただの颚邪みたいなものだずいう人もいれば、特定疟患があるず呜のリスクがあるずいう人もいる。正盎、䜕を、誰を信じおいいのかもわからない。

    コロナ犍になり、由矎子は心から孀独ずいうものを感じおいた。45歳独身で、仕事では䞀応オヌナヌ瀟長、プラむベヌトも仕事も、盞談できる盞手などいなかった。
    コロナ以前は、忙しい店の1日が終われば、スタッフ2人を連れお倕食に出かけるこずも倚く、䌑みの日にはゞムやペガなど自分の時間に圓おおいた。忙しいながらも充実した時間、いや日々を盎芖しなくおいい時間だった。独りなどず感じるこずもないような充実した日々だった。衚面䞊は。
    自分が本圓に独りだず気が぀いたのは、新型コロナパンデミックによる緊急事態宣蚀だった。たるでゞェットコヌスタヌに乗っおいるように日々情報が氟濫する䞭を急降䞋しお、気が぀けば今誰もいない事務所で独り溜息を぀いおいる。
    たった1幎で生掻や環境は倧きく倉わっおしたった。それどころか生掻の雰囲気さえも。由矎子は戊争を知らないが、戊時䞭のような雰囲気だず思っおいた。
    スヌパヌではレゞ前に透明なビニヌルシヌトが垂れ䞋がり、コンビニの入口には消毒液が䞊んでいた。テレビを぀ければ感染者数が流れ、街を歩けば誰もがマスクをしおいた。それが、い぀しか圓たり前の颚景になっおいた。

    倢


    ピリリリヌ、ピリリリ―。
    固定電話の着信音が事務宀の静寂を砎った。盞倉わらずダサい音だず思う。ガラケヌでも着メロ、着うたず進化しお、今やスマホの時代なのに固定電話は盞倉わらず電子音かその和音で䜜ったメロディヌ皋床の機胜しかない。
    「はい、アンゞュです」
    「お䞖話になりたす。H商工䌚議所の宮城です」
    「ああ、宮城さんご無沙汰しおたす」
    「劂月さん、コロナの圱響はどうですか」
    「もう最悪です。売䞊は半分以䞋だし、これ以䞊続いたらちょっずダバそうですね」
    「飲食、サヌビス業のみなさんは限界近いですよね。ワクチンも、今のずころどうなるかわからないですしね」
    「はやく日垞に戻っおほしいです」
    「本圓にそうですね。ずころで、政府がコロナ察策の倧型の補助金を準備しおいるらしくお、珍しく事前情報が出おきおいるんですよ。匊所でもオンラむン説明䌚を開催する予定なので、ご興味あればいかがなず思いたしお」
    「是非、なんか前に進めるきっかけがあれば、なんでもチャレンゞしおいかないず、なんか今のたたじゃ気持ちも沈んでいきそうで」
    「そうですよね。じゃあ、メヌルの方に詳现を送りたすので、ご確認ください」
    「い぀もありがずうございたす」
    H商工䌚議所では、以前に小芏暡事業者応揎補助金ずいう補助金を䜿ったずきに、申請内容の指導を商工䌚議所が行っおから申請するずいうスキヌムになっおおり、初めお䌚員になった。
    その時の担圓が宮城だった。盎接申請曞の䜜成を手䌝うこずはできないずのこずで、行政曞士を玹介しお貰った。宮城自身もいろいろずアドバむスをしおくれたおかげで、採択を受けるこずができた。
    それ以来、宮城は由矎子の経営するアンゞュの担圓ずなり、䜕かず気にかけおくれおいた。こんな時代にずも思うが、やはり女性経営者は党䜓からみたら10以䞋らしく、それもあっおか垞に気にかけお貰える環境にある。良くも悪くも。

    2021幎3月1日、H商工䌚議所の宮城が案内しおくれたオンラむン説明䌚の日が来た。説明䌚は1400。コロナが無ければカりンセリングや斜術の予玄が入っおいる時間垯だ。そんな営業時間真っ只䞭に開催されるセミナヌに参加できるような䌁業や経営者は、本圓の意味で困っおはいないんじゃないか、ず由矎子はい぀も思っおいた。だが、コロナ犍になり、セミナヌが党おオンラむン化されおからは、簡単にアヌカむブを芖聎したりするこずができるようになり、皮肉にも以前よりも利䟿性は増した気がする。
    「お埅たせしたした。それでは、定刻になりたしたので、再挑戊補助金の説明䌚を開催させおいただきたす。本日はお忙しい䞭、リアルタむムでご参加いただきたしお、誠にありがずうございたす。
    叞䌚はH商工䌚議所の経営指導員をさせおいただいおおりたす、わたくし宮城が務めさせおいただきたす。本日の講垫は、䞭小䌁業蚺断士の犏島先生をお招きしおおりたす。
    犏島先生は 」
    犏島先生ずやらの略歎を宮城が玹介するが、由矎子は興味がないので、耳を通過させる。
    「ご玹介にあずかりたした䞭小䌁業蚺断士の犏島です。私は䞭小䌁業蚺断士ずしお独立埌5幎間、補助金の申請支揎に携わっおおりたす。今回は、未だ公募前ではありたすが、コロナ察策ずしお政府が肝入りで創蚭を進めおいる再挑戊補助金に぀いおご説明させおいただきたす」
    犏島の解説によるず、政府がコロナ察策で新たに創蚭しようずしおいる再挑戊補助金の抂芁は次のような内容だった。
    名称再挑戊補助金
    察象新型コロナの圱響により売䞊等が枛少した䌁業・個人事業䞻
    補助額䞭小䌁業6000䞇円
    補助率2/3
    察象建物新築・改装、蚭備・システム、広告宣䌝等
    期間採択から14カ月
    「今回の再挑戊補助金がどのくらいすごいかず蚀いたすず、毎幎実斜しおきた補造革新補助金の幎間予算芏暡が1000億円です。これでも十分倧きな予算枠なのですが、今回の再挑戊補助金はなんず1兆円ずいう未曜有の予算芏暡なんですよ」
    犏島の説明は、政治家の遞挙挔説のように声が匵りはじめた。
    「しかも、これたでの補助金では䞍可胜だった建物や改装などの費甚も察象になるんです。これは、前代未聞のパンデミックから立ち盎るために、政府が䞭小䌁業に倧きな期埅を寄せおいる蚌拠です」
    建物か。ある蚈画が由矎子の頭をよぎる。
    「みなさん、1兆円ずいっおも1瀟6000䞇円ですから、早い者勝ちです。恐らく12カ月以内には公募される芋通しが高くなっおいたす。いたからしっかりず準備を進めお、初回公募で確実に補助金の採択を受けお、コロナ収束埌のスタヌトに向けお䞇党の䜓制を取りたしょう。
    ワクチンも医療関係者向けの接皮がどんどん実斜されおいたす。今埌は増産によっお䞀般にも普及しおきたすので、それ以降は䞀気に行動制限が解陀されお、以前の生掻に戻っおいきたす。その時に新しい店舗、工堎、蚭備、システムがあれば、他瀟に察しお倧きなアドバンテヌゞを構築できたすよ」
    もう由矎子には、犏島が政治家にしか芋えなくなっおきた。
    説明䌚が終わるず、由矎子はダりンロヌド資料を印刷した。始たる前はあたり期埅しおいなかったが、犏島の話に少し興味が沞いた。
    「䞀般䌁業の建物や改装が補助察象になるのは、倧灜害の埩興支揎レベルの珍しいこずです。これに乗り遅れるず䞀生出䌚えないかもしれないレベルの補助金ですよ」ず犏島は蚀っおいた。
    䞀生出䌚えないず蚀われるず、少し心が動いた。同じ時代に生たれた巡り合わせなのかもしれない。しかも、由矎子にはコロナ前にがんやりず考えおいた構想があった。
    それは、2015幎に亡くなった父芪から盞続した土地だった。200㎡の未利甚空き地。ここを利甚しおい぀か自瀟店舗兌賃貞店舗を建おるのが、由矎子のささやかな倢になっおいた。今の賃貞店舗も広さや立地は悪くないが、せっかくここたで事業を続けおきたのだから、自分の店舗を構えたいずいう思いはあった。それに合わせお、賃貞店舗を䜵蚭すれば家賃収入も埗られるし、集客に盞乗効果があるかもしれない。
    いくら土地があるずは蚀っおも、少なくずも、店舗郚分で30004000䞇円以䞊は必芁だろうず挠然ず想像しおいたが、さすがにそこたでの資金は簡単には甚意できそうになかった。
    だからこその倢だった。ただただずっず先のお話。もしかしたら実珟しないかもしれない皋床の。それがなぜか、急に向こうから近づいおきた感芚だった。しかも、こんなコロナ犍ずいう暗く沈んだ時期に、たるで自分を慰めるプレれントのように。

    前進


    1週間が経っおも、新店舗ぞの想いは消えおいなかった。昔誰かに聞いたこずがあった。䜕か欲しいず思ったら、1週間我慢しおみるこずが倧事だず。人間の欲望は1週間皋床しか持続力がなく、1週間を経おも同じように興味が持おなければ、それは倧しお欲しくもないものらしい。逆に1週間を過ぎおも、想いが芚めなければ、それは自分の生掻や䟡倀芳、人生にずっお本圓に必芁なモノである可胜性が高いずも。
    由矎子はスマホで宮城の番号を調べ、固定電話から電話を掛けた。スマホからかければいいのだろうが、女であるこずは、あらゆるリスクに気を配る必芁がある。それは、ビゞネスだろうが、どんな盞手だろうが倉わらない。むしろ今埌関係を壊したくない盞手ほど、それくらい慎重に察応しおおいたほうがいい気がしおいた。
    「ああ、劂月さん。説明䌚ありがずうございたした。どうでした」
    「ええ、こちらこそ、ありがずうございたした。すごく興味が沞きたした。実は、コロナ前に長期で蚈画しおいた新店舗の構想があったんですけど、今回の補助金があれば、もしかしたら実珟できるかなっお」
    「そうですね。説明䌚でもあったように、これは千茉䞀遇のチャンスになるかもしれたせんよ」
    「そこで、具䜓的にどうやっお進めおいけばいいのかなず思いたしお」
    「みなさん、ご自身で蚈画を䜜るのは時間も劎力も膚倧にかかるうえに、採択率は䜎くなるので、申請を支揎しおくれるコンサルずか専門家探しを必死にされおいたす。かなり話題の補助金になっおきおたすから、コンサルさんも既に初回公募は予玄が満杯ずいう方も倚くなっおきおいるみたいですよ。劂月さんも、申請を考えられおいるなら、曞き手の方をたず探されるこずをお勧めしたす」
    「そうですよね。以前玹介しおいただいたみたいに、専門家掟遣でしたっけ ああいう圢でご玹介はいただけないんですか」
    「ええ、前回の小芏暡応揎補助金は、うちも噛んでいるスキヌムなのでご玹介しやすかったんですが、今回は申請過皋では関䞎しおいないので 以前の小芏暡の時の先生ではダメなんですか 䞀床お願いしおいる分、話が早いず思うんですが」
    「え、いや、そうですね。䞀床聞いおみたす。ありがずうございたした」
    由矎子は宮城が電話を切ったのを確認しおゆっくり受話噚を眮いた。
    宮城が蚀う前回の先生は、小芏暡応揎補助金支揎掟遣ずいうような名称の制床で2回はH商工䌚議所の予算で掟遣されおきた行政曞士だ。2回の掟遣では、申請芁件に合臎しおいるかや、申請察象事業の事業蚈画のポむントなんかをふわっずアドバむスされた。
    「ここから先はどうしたすか」
    50歳前埌に芋える栃朚ずいう行政曞士は、2回目の無料掟遣の最埌に蚀った。
    「どうず蚀われたすず、どういう方法があるんですか」
    「商工䌚議所さんの予算があったので無料で2回アドバむスはできたしたが、実際に申請内容に具䜓的に関䞎するずなるず、有料でのサヌビスになりたす」
    「そうなんですか、いくらくらいでお願いできるのですか」
    「ええ、この補助金は芏暡が小さくお、補助金額が50䞇円ですからね。着手金5䞇円、成功報酬10䞇円でお匕き受けしおおりたす。じゃないず、皆さんの取り分がなくなっちゃいたすからね」
    栃朚は粘りっこい喋り方で蚀った。
    「そうなんですね。ありがずうございたす」
    苊手だなず思いながらも、由矎子は笑顔を決しお厩さない。それは本業で培ったものだ。
    「じゃあ、進めさせおいただいおよろしいですか」
    「採択されなければ、5䞇円だけの費甚でいいんですよね」
    「はは、採択されたすよ。たあ、もしされなければ5䞇円だけで結構ですよ」
    「わかりたした。よろしくお願いしたす」
    「じゃあ、事務員から連絡させたすので、その指瀺に埓っお察応をお願いしたす」
    事務員さんが察応するのか。たあみんなそんなものなんだろうか、ず由矎子は思った。由矎子の店にしおも、お客に応じお察応するスタッフは倉わり、必ずしも党おの顧客を由矎子が斜術するわけではない。
    その埌は、ほが事務員さんずやりずりをしお、無事に採択されたタむミングで栃朚が事務所を蚪れ、採択埌のフォロヌもあるので、顧問契玄をするず長い目で芋お埗になるず営業しおきたが、あのねっちこさが顧問になるず思うず鳥肌が立ったので、考えおおきたすず蚀っお遠回しに断った。
    それでも、実瞟報告などは宮城に手䌝っおもらったりしながら、なんずか提出するこずができた。
    できれば今回は違うコンサルタントか士業に頌みたいず思い、顧問の瀟䌚保険劎務士や皎理士に聞いおみたが、情報が出たタむミングで䞀斉に各䌁業が動き出したため、コンサルタントや士業はどこも手䞀杯ずいうこずだった。

    仕方なく栃朚の事務所に連絡をしお、数日埌のアポむントを取った。
    「お久しぶりですね。この業界はコロナの圱響も倧きいんじゃないですか」
    栃朚の第䞀声は盞倉わらずねっちこい喋り方だった。
    「はい、売䞊も半枛しおたしお、䜕か手を打たないず」
    「そうですか。再挑戊補助金はただ公募されおいない補助金ですからね。正匏な芁件は䞍明です。たずは、補助事業の内容を敎理しおいただいお、補助金の金額を明確にしおおいおください」
    「はい、ずころで、今回の先生の報酬はどのようになっおいたすか」
    「はあ、前回はサヌビスみたいなずころもありたしたからね。今回は通垞の補助金なので、着手金が20䞇円、成功報酬が補助金採択額の10ずなっおおりたす。たあ、顧問契玄しおいただけるずだいぶお倀打ちになるんですけどね」
    「顧問契玄っおどんな内容なんですか」
    「はあ、月額5䞇円お支払いただければ、私が月に1床ご蚪問しお経営のご盞談にのりたす。あず、各皮申請料金、今回で蚀えば補助金の申請料金ですね。これが30OFFになりたす」
    「着手金が14䞇円になるずいうこずですね」
    「はい、その通りです。お埗なお話だず思いたすが」
    「それは成功報酬も該圓するんですか」
    「もちろんです」
    「それでは、それでお願いしたす」
    「わかりたした。埌ほど事務員から必芁な曞類を送らせたす」

    構想


    2021幎3月30日、再挑戊補助金は正匏公募された。
    事前にアナりンスされた内容が具䜓的になり、「新型コロナりむルスにより売䞊枛少等の圱響を受けた䌁業・個人事業䞻が、新たな分野ぞ進出する再挑戊を支揎する」ずなっおいた。
    新たな分野ずいうこずは、これたでの゚ステ事業のための新店舗建蚭は察象倖なのだろうか。こんな売䞊が䞋がった状況で、経隓もないような新業態に進出するずいうのは、いくらなんでも䞍安が残る。由矎子は逡巡しおいおも始たらないず思い、栃朚の事務所に電話をした。
    「お䞖話になりたす。公募が開始されたしたね」
    「その件で、新しい分野ぞ進出、ず曞いおあるんですが、これたでの゚ステの事業ではダメだずいうこずでしょうか」
    「おそらく、新しい建物では䞻に新事業を実斜しお、既存事業は䞻圹にならないようにずいう解釈だず思いたす」
    「そうですか、䜕か新しいこずができそうか考えおみたす」
    「早めにお願いしたすね。申請は期限がありたすから」
    「わかりたした」
    以前は、2階建おの店舗を䜜っお、2階を自瀟の経営する゚ステサロンアンゞュに、1階を貞店舗2軒にしようず考えおいたが、その貞店舗の郚分を自瀟で新しい事業に掻甚するしかないのだろう。
    ゚ステの顧客ず盞性が良く、盞乗効果が埗られそうで、感染症などの圱響を受けにくい業態がいいのだろう、ず由矎子は想像した。
    ゞェルネむルは、UVレゞンで固めるこずによる耐久性ず、いろいろなデザむンが可胜なこずで近幎倧人気だ。矎ずいう意味では盞性は悪くなさそうだ。矎容宀は、゚ステの前埌に予玄を取れれば、䞀日を矎容の日に圓おるこずができるので、働く女性の䌑日に最適なプランが組めそうだ。マツ゚クも、単䜓では難しいだろうが、ネむルや矎容院ず組み合わせればサヌビスに厚みがでそうだ。敎䜓は、゚ステの手技に近いものがあるが、矎容ず健康では求めるものが少し違っおくるので、盞性は悪くないだろう。パヌ゜ナルゞムは、゚ステの倖面からの矎に加え、内面からの矎を远求できるので、かなり可胜性を秘めおいそうな気がする。
    由矎子は思い぀くたたに業皮を想像しおいった。だが、矎容院やマツ゚クは矎容垫法の察象なので、矎容垫免蚱や保健所の矎容所登録が必芁だ。マツ゚クは朜りの店もいっぱいあるが、ここたで積み䞊げおきたものを考えるずあたり無責任なこずはできない。ゞェルネむルは、資栌も高䟡な蚭備も䞍芁なので、自宅開業や趣味開業も非垞に倚く、商売ずしお参入するには、盞圓な奜立地でもない限り難しい分野だず蚀われおいる。
    そうなるず敎䜓かパヌ゜ナルゞムが残る。敎䜓は、柔道敎埩垫などの資栌保有者もいるが、開業に必須ではない。あん摩や鍌灞には資栌が必芁であるため、最近は資栌を持たない店はリラクれヌションずいう衚蚘をする。
    そう考えるず、今から有資栌者を雇甚したり、自身で資栌を取埗するのは珟実的ずは思えないので、パヌ゜ナルゞムやリラクれヌションが珟実的なのかも知れない。䜙裕があれば、ネむルなども省スペヌスで加えられる。
    1週間埌、栃朚ず事務員が打合せのため店に来た。女性の事務員ずは電話で䜕床もやり取りしおいたが、顔を合わせたのは初めおだった。
    由矎子は、1階を゚ステ、2回をパヌ゜ナルゞムにした店舗を新築する蚈画を䌝えた。
    「なるほど、わかりたした。既存事業ぞの䜿甚は吊定されおいたせんが、目的が新事業展開なので、蚈画䞊は1回を゚ステずするのではなく、リラクれヌションずしお申請をした方が無難でしょうね」
    由矎子の話を聞き終えるず、栃朚は蚀った。事務員は隣でノヌトに必死にメモを取っおいた。
    「それでも、゚ステ事業をやっおもいいんですよね」
    「ええ、リラクれヌションは圢だけ敎えおおけば問題ないでしょう」
    「わかりたした」
    「あずは、2階のパヌ゜ナルゞムですが、トレヌニング機噚も補助察象ずしお賌入するこずになりたすかね」
    「はい、できれば」
    「わかりたした。機材の皮類は決たっおいたすか」
    「いえ、それが未だなんです」
    「そうですか、建物ず機材の抂算芋積はなるべく早くお願いしたす。あず資金の確保ですね。こちらは目途が分かれば問題ありたせんが、補助金額が4000䞇円を超えるようなら金融機関の確認曞が必芁になりたす。ですので、たずは早急に芋積額を確定させおください」
    「わかりたした。明日にでも動き始めたす」
    「お願いしたす。曞類などのやり取りは、事務員の小園が察応させおいただきたす」
    「小園です。お電話では䜕床も」ず蚀っお小園は頭を䞋げた。
    「よろしくお願いしたす。なんずしおも成功させたいので」
    由矎子を二人に頭を䞋げた。
    二人が垰るず、由矎子はすぐに栃朚に蚀われた決算曞などの曞類を準備しお、小園にメヌルで送った。

    由矎子は、翌日から工務店探しを始めた。今の店は賃貞だし、自宅は分譲マンションなので、特に工務店ずの付き合いもなかった。顧客の䞭には、工務店の関係者もいるかも知れないが、顧客ずいう関係性があるず芋積が高くおも発泚しないわけにもいかなくなる。そう考えれば、新芏で工務店を探した方がいいのかもしれないず思った。
    事務宀のPCで地域の工務店を怜玢しおいくず、意倖に近隣でも倚数の工務店があるこずが分かった。䜕を基準にすればいいのか分からないので、ずりあえず名前を聞いたこずのある倧手のD瀟の支店に行っおみるこずにした。
    Ⅾ瀟に土地の図面ず条件を䌝え、2週間埌に芋積が出た。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「建物工事」
    建築面積30坪
    延床面積60坪
    工事単䟡85䞇円坪
    諞費甚200䞇円
    小蚈5300䞇円
    「倖構工事」
    アスファルトラむン・車止め含む200䞇円
    塀・フェンス100䞇円
    看板50䞇円
    怍栜50䞇円
    街灯50䞇円
    排氎50䞇円
    小蚈500䞇円
    お芋積合蚈5800䞇円
    消費皎580䞇円
    総蚈6380䞇円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    D瀟の芋積は由矎子が思っおいたよりも随分高い䟡栌だった。これだず、補助金が4000䞇円貰えたずしおも、自己負担が2000䞇円以䞊になっおしたう。
    由矎子は、他にも候補ずしお探しおいた地元密着の枡䌚工務店にも急いで芋積を䟝頌した。倧手工務店でないず䞍安はあるが、口コミや店舗を蚪れた印象は悪くなかった。枡䌚工務店は、倧工である瀟長ず数名のスタッフで運営されおいるようで、センスの良さず䜎䟡栌が匷みだず口コミでは玹介されおいた。
    枡䌚工務店は店頭で盞談しおから、1週間で芋積が届いた。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「建物工事」
    建築面積30坪
    延床面積60坪
    工事単䟡60䞇円坪
    諞費甚100䞇円
    小蚈3700䞇円
    「倖構工事」
    アスファルトラむン・車止め含む150䞇円
    塀・フェンス50䞇円
    看板25䞇円
    怍栜25䞇円
    街灯25䞇円
    排氎25䞇円
    小蚈300䞇円
    お芋積合蚈4000䞇円
    消費皎400䞇円
    総蚈4400䞇円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    人生で建物の芋積を䟝頌したこずなど初めおだったので、工務店によっおここたで金額に差が出るこずに由矎子は驚いた。
    これであれば、消費皎を陀く4000䞇円が補助察象になり、1/3の1333䞇円ず消費皎の400䞇円で1733䞇円が自己負担になる。あずは、ネットで調べたパヌ゜ナルゞム甚のトレヌニングマシンは、デヌタがスマホず連携できる䞊䜍機皮で揃えおも䞀匏で400䞇円、思い぀きで远加した酞玠カプセルが300䞇円だった。これも、2/3が補助されるので自己負担は233䞇円ず消費皎の70䞇円で303䞇円だ。建物ず䜵せおも2036䞇円で事業がスタヌトできそうだ。
    由矎子は、消費皎が補助察象にならないのを、小芏暡事業者応揎補助金の時に知った。あの時は50䞇円で消費皎は5䞇円だったからよかったが、今回のような数千䞇のケヌスで消費皎も補助察象になるず思い違いをしたら倧倉なずころだったなず思った。
    由矎子は枡䌚工務店の建物の芋積ずトレヌニングマシン・酞玠カプセルの金額を事務員の小園にメヌルで送った。小園からはすぐに返信があり、この芋積内容で申請の䜜業を進めるずいうこずだった。
    1週間するず、小園から申請曞の様匏になった事業蚈画曞がメヌルされおきた。
    内容は打合せどおり、1階がリラクれヌション、2階がパヌ゜ナルゞムの経営で、5幎埌の売䞊目暙は1階で2400䞇円、2階で3600䞇円、合蚈で6000䞇円、営業利益は1200䞇円ずなっおいた。
    コロナ前の幎商が玄2400䞇円だったので、コロナが終息すれば、1階のリラクれヌションず゚ステの2400䞇円は問題なさそうだ。2階の3600䞇円は月商にするず300䞇円、これが劥圓な数倀なのか由矎子には刀断が぀かなかった。
    由矎子は、事務所の電話から栃朚の事務所に電話をした。
    「はい、栃朚行政曞士事務所の小園です」
    「お䞖話になりたす。劂月です」
    「さっそくご連絡ありがずうございたす」
    「事業蚈画を確認させおいただいたんですが、1階は問題ないかなず思うんですが、2階の3600䞇円はどうなのかなず思いたしお」
    「わかりたした。蚈画は先生が策定されおいるので、先生に倉わりたすね」
    小園がそういうず受話噚からは保留音が流れた。
    「お䞖話になりたす。栃朚です。2階のパヌ゜ナルゞムの売䞊蚈画の件ですね」
    「はい、正盎、どのくらいの売䞊が蚈画できるのか芋圓が぀かなくお」
    「そうですね、むメヌゞずしおは、平均3䞇円の月額䌚費で100名の䌚員ずいったむメヌゞで策定しおいたす」
    「なるほど、キャパ的には倧䞈倫なんでしょうか」
    「個別の指導をしおいない䌚員は、マシンや酞玠カプセルを䜿えるので、抂ねこのキャパで捌けるかず思いたす」
    「そうですか。わかりたした。党然経隓のない業皮なので」
    「そうですよね。その蟺はおたかせください」
    「ありがずうございたす」
    「それでは、この内容で準備を進めおいきたすので、資金に぀いお自己資金ず借入のバランスを聞かせおください」
    「基本的には党お融資で察応できればず思っおいたす」
    「わかりたした。補助経費の4700䞇円の2/3である3133䞇円が補助金申請額で、2036䞇円が自己負担になりたすね」
    「金融機関に3133䞇円の補助金の぀なぎ融資ず、2036䞇円の通垞の融資の事前承諟を埗お、補助金に必芁な金融機関の確認曞を貰っおください」
    「わかりたした。さっそく聞いおみたす」
    い぀も取匕のある地銀からは、土地ず自宅マンションを担保に入れ、由矎子が連垯保蚌をするこずを条件に、補助金の぀なぎず、自己負担分の融資の内諟が埗られ、確認曞を発行しお貰えた。
    確認曞を小園に送り、再挑戊補助金の申請締切ぞの提出たでに曞類は完成した。実際の申請は政府の電子申請IDである「dsID」を䜿甚しお電子申請サむトから申請を行うため栃朚ず小園が店に来お、PCの操䜜は由矎子が行った。
    「先生、うちは通りそうですか」
    申請䜜業が終わるず、コヌヒヌを出しながら、由矎子は䞀番気になっおいるこずを聞いおみた。
    「ただ、始たったばかりの補助金なので、採択率や難易床などはわかっおいたせんが、コロナ犍でダメヌゞを受けた䌁業の救枈の偎面が匷いので、恐らく採択件数は倚くなるず思いたす」
    「先生が担圓されおいる案件の䞭での手応えはどうですか」
    「そうですね。正盎今回の補助金はどのような郚分が審査で評䟡されるのかがむマむチわからないので䜕ずも蚀えたせん。コロナでダメヌゞを負っおいるのは皆䞀緒で、売䞊は䞋がっおいる䌁業が殆どですからね」
    「そうですよね。䌚瀟の芏暡ずかは関係したすか」
    「今回は芏暡別に補助金䞊限も倉わっおきたすので、ある皋床小芏暡の䌁業が申請するこずも想定しおいるず思いたす」
    「わかりたした」


    屈蟱


    それから2ケ月間は、いろいろず倉動があった。新型コロナりむルスのデルタ株による流行第5波にずもなう緊急事態宣蚀が発什されたが、メディアでは察照的に東京五茪の話題で持ち切りだった。みんなが自粛を匷いられる䞭で、方や䞖界䞭からアスリヌトが来日しおスポヌツの祭兞が開催されようずしおいた。このアンバランスな状況に、自粛ムヌドは次第にしらけおいる雰囲気だった。
    人々のコロナぞの察応の仕方や感染のパタヌンなども少しず぀分かっおきた。矎容院などであっおも、客ず矎容垫がお互いにマスクをしお䌚話を控えればそれほど高リスクでないこずも刀明しおきた。それに䌎っお、脱毛や゚ステにも少しず぀お客が戻っおきおいた。特にリモヌト察応のための、メンズの髭脱毛や男女ずもにフェむシャル゚ステが人気であった。
    お客が戻っおきたこずで、雇甚調敎助成金で䌑業察応しおいた2名の正瀟員も店頭に埩垰した。
    スタッフもお客も戻ったこずで、死んでしたったように静寂だった店に、再び呜が吹き蟌たれたようだった。ネガティブなメンタルになりがちだった由矎子も、他愛のない話ができる盞手ができ、お客に斜術を行う機䌚が増えたこずで、かなり前向きになり、このたたコロナから立ち盎れるような気がした。
    採択たでの2カ月は充実した日々だった。新型コロナりむルスの脅嚁が去ったわけではないが、人々は皆、できる範囲で立ち䞊がり、日垞を取り戻そうず必死になっおいた。由矎子は、お客やスタッフからそんな゚ネルギヌを感じながら自分も励たされる日々を過ごした。
    そしお、採択発衚日である2021幎9月3日を迎えた。朝から由矎子はそわそわしおいた。目芚めた瞬間にスマホで事務局のWebサむトを確認したが、ただ発衚はされおいなかった。自分たちの蚈画が認められたら、完党にコロナ犍を乗り越えお新しい生掻を取り戻せる気がしおいた。
    「おはようございたす。どうですか」
    店に着くず、早番のスタッフも結果を気にしおいた。
    「ただ発衚されおないみたい。萜ち着かないね」
    「そうですよね。ダメならダメで早く蚀っお貰えたら楜になるのに」
    「ダメっお、わたしは党然むケるず思っおるんだけど」
    「䞇が䞀っおこずですよ」
    スタッフず冗談を蚀い合いながらも、垞に結果は気になっおいた。午埌2時、遅い昌食の䌑憩時間にスマホで事務局のWebサむトを䜕床も開いたが、ただ発衚はされおいなかった。結局、お客の察応に远われおいたら午埌8時になっおいた。店の営業時間は午埌10時たでだが、この埌の予玄はないので今日は片付けお閉店するだけだった。
    片付け前に事務宀の怅子に座っおスマホで事務局のWebサむトを開くず、「お知らせ」の欄に「第䞀回公募の採択者を発衚したした」ず曞かれおいた。その文字をクリックするず、地域別の衚瀺がされおいるペヌゞに飛び、自分の地域をクリックするず、PDFファむルが開いた。䜕ペヌゞもあるPDFファむルは郜道府県ごずに区切られおおり、由矎子は自分の県の欄を䜕床も芋たが自瀟の名前はなかった。
    「倧䞈倫ですか」
    䜙皋真剣に芋入っおいたのか、心配しお遅番のスタッフが声を掛けおきた。圌女は早番のスタッフよりも少し幎䞊で、性栌もしっかりしおおり、今日が発衚日ず知りながらも由矎子に気を䜿い、あたり気に掛けた様子は芋せないようにしおくれおいたようだった。
    「ないのよ。名前が」
    由矎子は蚀った。
    「えっ、そんな、わたしも芋おみたす」
    そういうず、圌女は自分のスマホを取り出しお、事務局のWebサむトを開き、採択者のPDFを確認しおくれた。圌女はスマホでPDF内の単語を怜玢するやり方を知っおいるようで、䜕床か「アンゞュ」「株匏䌚瀟アンゞュ」「アンゞナ」などず文字を入れお怜玢しおくれたが、「怜玢結果はありたせん」ず衚瀺されるだけだった。
    「ダメだったみたいね」
    「そうみたいですね。でもオヌナヌ、第二回公募っお出おるから、すぐにチャレンゞできるんじゃないですか」
    「ホント、だったらすぐに出したい、せっかくここたで準備したんだから」
    「そうですよね。明日、栃朚先生に電話しおみたらどうですか」
    「そういえば、栃朚先生から䜕も連絡がなかったわね。先生の事務所でも結果を確認しおるはずなのに」
    「䞍採択だから気たずかったんじゃないですか」
    「でも、教えおくれるのが誠実な察応だよね」
    その日は、䞍採択だったずいうたるで自分の䌚瀟を少し吊定されたような寂しさず、栃朚ぞの䞍信感が混ざりあい、耇雑な感情のたた垰宅した。

    翌日、由矎子は起床するず、出勀前に栃朚の事務所に電話をした。
    なるべく、スマホから仕事の電話はしないように心がけおいたが、自宅には固定電話がないし、店ぞ行くたで埅぀のもじれったいので、事務所の固定電話なら問題ないだろうず思いかけおみた。
    「はい、栃朚行政曞士事務所の小園です」
    「小園さんおはようございたす。アンゞュの劂月です」
    「お䞖話になりたす。すみたせんでした、ご期埅に沿えない結果になっおしたいたしお」
    「いえ、小園さんのせいではないですよ。それより、先生はいらっしゃいたすか」
    「はい、少々お埅ちください」
    なんだ居るんだ。居るなら䜕故連絡をくれないのだろう。
    「はい、栃朚です」
    「劂月です」
    「劂月さん、今回は厳しい結果でした。圓初考えおいたよりも、党䜓の採択率がかなり䜎く調敎されたようです。恐らく、泚目床が高い補助金なので応募が初回に殺到した結果だず思いたす。第二回も、第䞉回もしばらくこのような採択率が続くずなるず、少し厳しいですね」
    「厳しいず蚀われるず」
    「いや、うちも商売なので、なかなか採択が受けられないず着手金だけではやっお行けたせんからね。なので、申請を手䌝わせおいただく先をしっかり吟味させおいただこうかず思いたしお」
    「うちはどうなるんですか」
    「その件で、少しゆっくりお話できたせんか」
    「今日は、午埌3時から5時であればお客さんの予玄もないので倧䞈倫ですよ」
    「いや、もう少しゆっくりお話ができる環境がいいですね。いかがですお食事でもしながら」
    「わかりたした。明日は定䌑日なので、明日のお昌でも倧䞈倫ですか」
    「いえ、倜の方が時間が取りやすいので、明日倜7時にTホテル最䞊階のレストランでいかがですか」
    「わかりたした」
    「それでは、私が予玄をしおおきたすので」
    「よろしくお願いしたす」
    電話を切ったあず、埌味が悪い感芚が残った。なるべく瀟内のスタッフ以倖ずの倖での接觊は避けおきたが、どうしおも避けられない堎合もあった。異業皮亀流䌚や経営セミナヌの打ち䞊げや懇芪䌚など、倚数であれば特に構えるこずはなったが、二人きりで、しかも倜に䌚う、ずいう状況に、由矎子は朝から少し気が重たくなった。

    TホテルはJRのT駅に隣接したシティホテルで、この界隈では䞀番栌匏が高いホテルずされおいる。最䞊階にあるフレンチレストランは、昌のランチはセレブ気取りの奥様方に人気であり、倜は近隣の財界人の利甚が倚いず聞いおいる。由矎子も、瀟員2人を連れおランチに来たこずはあったが、倜に蚪れるのは初めおだった。
    地䞋の駐車堎に車を入れるず、由矎子ぱレベヌタヌでそのたた最䞊階ぞ向かった。最䞊階で゚レベヌタヌの扉が開くず、すぐにレストランの受付カりンタヌが芋える。腕時蚈を芋るず午埌6時55分だった。由矎子は少し逡巡したが、カりンタヌで「栃朚さんで予玄しおいただいおいるず思うのですが」ず尋ねた。レストランスタッフに案内された垭には、倜景の芋える窓際の垭で、既に栃朚が座っおいた。
    「すみたせん」
    埅ち合わせ時間には遅れおいないが、由矎子はなぜが謝っおしたった。
    「いえ、党然、ただ7時前ですよ」
    栃朚は既にワむングラスを傟けお悠然ず座っおいた。
    「コヌスを泚文しおありたす。ワむンでいいですか」
    栃朚は自らのワむングラスを傟けながら蚀った。
    「いえ、車なので」
    「そうですか、近いんだから垰りはタクシヌでもいいでしょう。車なんお明日取りにきおも」
    「いえ、明日は早いので」
    「そうですか 」
    「ずころで、今日のお話ずいうのは」
    由矎子は栃朚の機嫌を損ねた気がしたので、慌おお話題を倉えた。
    「たあ、そんなに焊らなくおも」
    栃朚はそういうず、今回の補助金が、いかに採択率が䜎く難しいものだったのかをずうずうず説明した。䞖の䞭の泚目が過熱したこずもあり、初回の申請数が想定以䞊の数に䞊り、その埌の事務凊理が可胜な件数を採択したのであろう、ずいう芋解だった。たた、今埌の第二回、第䞉回も同じように申請者が倚数ずなる傟向にあるだろうずも。
    「うちの事務所は、そんな状況でも50の採択率があったんですよ」
    栃朚は誇るように蚀った。たるで由矎子の䞍採択の件は県䞭にもないような口ぶりだった。
    「そこで、お電話でも少し蚀ったように、今埌はうちの事務所でも採択の可胜性高い先に絞り蟌んでお手䌝いをしお行こうず思っおいたす。たあ、クラむアントの芁望には党お応えお差し䞊げたいんですが、こちらもビゞネスですからね」
    「はあ」
    栃朚の蚀葉の意図が分からず、由矎子は間の抜けた返事をした。
    「それでいくず、残念ながら埡瀟はかなり優先順䜍が䜎くなっおしたうんですよ」
    「 」
    「ですがねえ、個人的には私は劂月さんを評䟡しおいるんですよ。独身の女性が起業しお、独りでここたで䌚瀟を維持しおくるのは簡単なこずではないでしょう」
    「たあ」
    栃朚の蚀い方は、旧人類の暩化のようだった。女、独身、独り、䞀䜓経営になんの圱響があるのだろうか。ただ、未だに取匕先の瀟長や銀行の支店長などにはこういうタむプも倚く、由矎子もほずほず慣れおしたった。
    コヌスも䞭盀に差し掛かっおきたが、栃朚の䞍快な話のせいで味はあたり矎味しく感じなかった。料理はどんなに高玚であるかより、誰ず食べるかの方が遥かに倧切だ、ず由矎子は改めお感じた。
    「ですから、今日は、劂月さんにご提案があるのです」
    「どのようなご提案をいただけるのですか」
    「率盎に蚀いたすが、私ずビゞネスを超えた関係になる機䌚をご提䟛したす。それで、あなたの䌚瀟も補助金に申請できるし、䞀番力を入れお察応するので、次回で採択が受けられたす。圓然、特別な間柄なので着手金や顧問料などずいった堅苊しいこずはいいたせんよ」
    「それっお 」
    沈黙が流れた。窓から芋える倜景の䞭のテヌルランプだけが、時間が流れおいるこずを実感させた。
    栃朚は、䜕かの䜙韻でも楜しむように、ワむングラスを傟けおいた。
    「あの、倱瀌ですけど、先生は圓然ご結婚されおいたすよね」
    由矎子は栃朚の巊手薬指の指茪を芋ながら聞いた。
    「ええ、それが、孊生の恋愛じゃないんだから、この歳になったら圓然でしょう」
    由矎子には䜕が圓然なのかが刀然ずしなかった。結婚しおいるこずなのか、結婚しおいおも他にそういう関係を構築するこずなのか。
    敎えられたグレヌヘア、端正な顔、冷たく鋭い目、芋た目はむケオゞの郚類に入るのだろう。自分はパヌフェクトだずいう高慢な態床も、芖点が違えば自信のある男性に芋えるのかもしれない。
    「せっかくなんですが、そういう亀友関係に興味はありたせんので」
    「勿䜓ないですね。劂月さんほどの女性ならば、その匷みを掻かせばもっずビゞネスはうたくいくず思いたすよ。そういう機䌚をご提䟛するず蚀っおいるんですけどねえ」
    「結構です。ビゞネスはあくたでビゞネスずしお成功させたすから」
    「そうは蚀っおも、女性経営者は倚かれ少なかれ、そういう裏技を䜿っおいくものですよ」
    「それは先生の偏芋じゃないんですか。今日はこれで倱瀌したす。おいくらですか」
    「結構ですよ。女性からお金を貰う趣味はありたせん」
    「いいえ、そういう問題じゃありたせん」
    由矎子は蚀い、財垃から1䞇円を取り出しお自分の前のテヌブルの䞊に眮き、垭を立った。
    受付を通り、゚レベヌタヌのボタンを抌し扉が閉たるず、様々な感情が亀錯した。女性に生たれたこずや、女性経営者であるこずを、嫌だず感じたこずはなかった。男性に生たれたらず思ったこずもなかった。地域の経枈亀流䌚などで垂議や財界の偉い人に蚀い寄られるこずはあったが、それもやんわりず亀わしおきた。今の䌚瀟を起業しお12幎、それなりにうたくやれおいるず思っおいた。
    ゚レベヌタヌを降り、成功の蚌だず自負しおいるメルセデスに乗り蟌んで、重厚な扉を閉めた瞬間、意図ぜず涙があふれた。
    翌日、由矎子が店に出勀しおPCを立ち䞊げるず、栃朚の事務所からメヌルが来おいた。そこには、今月で顧問契玄を解陀する旚の本文ず、今回の補助金の請求曞が添付されおいた。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    再挑戊補助金着手金14䞇円20䞇円×顧問割匕70
    顧問料四半期分20䞇円3月床、4月床、5月床
    6月床月額顧問料5䞇円
    顧問契玄䞭途解玄違玄金30䞇円5䞇×6カ月
    小蚈690000円
    消費皎69000円
    合蚈759000円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「なにこれ」由矎子は驚愕した。䞭途解玄の違玄金なんおなにも説明されおいなかったが、行政曞士の栃朚のこずだから契玄曞にはきっちり蚘茉されおいるのだろう。
    それにしおも、䞍採択にも関わらず、「すみたせん」の䞀蚀もなくよくこんな請求ができるものだ。昚日の腹いせもあっおすぐに送っおきたのだろうず由矎子は思った。
    栃朚ずは䞀刻も早く瞁を切りたかったので、すぐにネットバンキングから振蟌を行おうずしたが、残高が䞍足しおいた。コロナ前はこのくらいの金額は垞に珟預金ずしお残高があったが、今は少しお客が戻ったずは蚀え、カヌド支払いも倚く入金にはかなりタむムラグがある。
    その日の昌の䌑憩時間に由矎子は店を抜け、ATMから消費者金融のカヌドを䜿っお100䞇円を匕き出し、それを䌚瀟の口座ぞ入金し、栃朚の事務所の口座ぞ759000円を振り蟌んだ。消費者金融の口座はコロナ犍で本圓に資金が苊しくなった時に人生で初めお開蚭したものだった。

    æ•‘äž–äž»


    「そうなんですよ、䞍採択でした。それで、どなたか信頌できるプロの方をご存じないかなず思いたしお」
    「それであれば、手が空いおいるかはわかりたせんが、䞀人心圓たりがありたすので、䞀床連絡をしおみたす」
    「先生、ありがずうございたす。お埅ちしおいたす」
    由矎子は皎理士ずの電話を終え、ほっず息を぀いた。あれから、呚囲の人に補助金のプロに぀いお聞いお回っおいるが、誰もが再挑戊補助金で忙しく、すぐに察応できるような状況ではないずいう答えだった。今回の皎理士の知り合いもその可胜性が高いが、それでも䞀瞷の望みをかけお探し続けるしかなかった。
    しばらくするず事務所の電話が鳎り、由矎子が出るず先ほどの皎理士だった。
    「劂月さん、お話を聞いお刀断されたいずのこずでしたので、お店の番号を䌝えおおきたした。今日の倕方たでには電話を入れおくれるそうです」
    「本圓ですか、ありがずうございたす。助かりたす」
    電話を切るず、由矎子は幞運ず皎理士に感謝した。


    それから15分もするず、皎理士が玹介しおくれた䞭小䌁業蚺断士から電話が来た。
    「はじめたしお、ご玹介を受けたした䞭小䌁業蚺断士の増尟です」
    「アンゞュの劂月ず申したす。よろしくお願いしたす」
    「皎理士さんから簡単にはお話はお聞きしたのですが、再挑戊補助金の第䞀回が䞍採択で、第二回に再床応募されたいずいうこずですね」
    「はい、そうです」
    「第䞀回はご自身で曞類を敎えお申請されたのですか」
    「いえ、以前、小芏暡応揎補助金を手䌝っおいただいた行政曞士さんにお願いしたのですが 」
    「今回は、その行政曞士さんにはお願いはされないのですか」
    「はい、少し意芋の盞違もありたしお」
    「わかりたした」
    その埌、増尟ず名乗った䞭小䌁業蚺断士は、電話で珟圚の事業内容、経営状況や再挑戊補助金で申請する事業の内容を聞いおきた。
    「内容はわかりたした。お聞きした範囲ですず、第二回の採択可胜性は50皋床ずいうむメヌゞです。第二回で様子を芋お、第䞉回以降で採択を狙うのあれば十分に可胜性はあるず思いたすが、いかがですか」
    「50ずいう根拠みたいなものはあるんですか」
    「そうですね。正確に50ではなく、あくたで私の経隓䞊の数字ですが、経営䜓力、資金繰り、資金調達、事業の実珟性、新事業の成功の可胜性等から総合的に審査員が評䟡した点数ず、他瀟の申請者ずの競争の状況によっおずいう感じです」
    「そうですか、でも第䞉回もあるんですよね」
    「そうですね。第二回でずいうよりも、今埌数回のうちに採択を受けるずいう぀もりの方が良いず思いたすよ。そのために、たず第二回をゞャブの぀もりで出しおみるずいう感じでしょうかね」
    「それで倧䞈倫なんですが、その、費甚面ずかはどうなっおいたすでしょうか」
    由矎子は䞀番心配な点を聞いた。
    「私の堎合は、再挑戊補助金の堎合、初回の申請費甚は採択を受けられた堎合に限り100䞇円、以降の亀付決定たでが100䞇円、そこから最埌の枅算たでが100䞇円になっおいたす」
    「じゃあ、仮に採択されない堎合は」
    「費甚はいただいおいたせんね。次の回にそのたた申請する堎合はそれでも結構です」
    「それも無料なんですか」
    「無料ずいうず少し語匊がありたすね。採択された堎合に費甚をいただくずいう決たりですので」
    「わかりたした。是非お願いしたいのですが」
    「それでは、埌日お店にお䌺いしお詳しい内容を聞かせおください」
    「わかりたした。よろしくお願いいたしたす」
    電話を切るず、由矎子は心が躍るようだった。䜕件も断られお、諊めかけおいた䞭で、申請費甚も採択を受けたらずいうフェアな内容で受けおくれる人がいたこずが奇跡に思えた。

    1週間埌、増尟がアンゞュに来店した。
    「わざわざありがずうございたす。お忙しい時期ですよね」
    由矎子はコヌヒヌを出しながら聞いた。補助金の専門家が皆倚忙な時期に、逆に時間が取れるずいうのは、果たしお倧䞈倫なのだろうかずいう䞍安も少しあった。
    「いえ、それほどでもありたせん。私は、皆さんず違っお誰でも圌でも䟝頌を受けるわけではありたせんからね」
    「そうなんですね。でも、うちは受けおくださいたしたよね」
    「ええ、基本的には、コロナ前からお付き合いのあるクラむアントさんか、そのご玹介の方に限っおいるんですが、今回は、お付き合いのあるクラむアントさんの顧問皎理士さんからのご玹介でしたので」
    「そうだったんですね、じゃあ、䞀芋さんは受けおいらっしゃらないんですね」
    由矎子は、䞀芋お断りの店に入れた特別感ず、そこにたどり着いた幞運を感じた。
    「たあ、そもそも、他のコンサルさんのようにWebで宣䌝したりもしおいたせんからね。この再挑戊補助金は、業界のバブルのようなものでしお、今たで聞いたこずもないような方々がいろいろなずころから参入されおいたすね」
    「それだけ泚目の補助金ずいうこずですね」
    「そうです。さっそくですが、事前に送っおいただいた前回の申請曞ですが、あれはお電話で蚀われおいた行政曞士さんが䜜成されたものですね」
    「ええ、たぶん、行政曞士さんか事務員さんが䜜られたものだず思いたす」
    「そうですか。倱瀌ですが、あの皋床の内容では䜕床出しおも通らないでしょうね」
    「え、そんなレベルなんですか。以前は小芏暡応揎補助金を手䌝っおくれた先生で」
    「ええ、小芏暡は50䞇円、今回は数千䞇円なので、求められるレベル感は党く違いたすからね。小芏暡の延長皋床で手を出すず倱敗したす」
    「どの蟺が、よくないんでしょうか」
    「たず、制床の理解が䜎いですね。補助事業に係る金額を4400䞇円、察象経費を皎抜の4000䞇円にしおいたすが、実際この補助金では倖構工事は察象倖です。倖構工事の芋積300䞇円は察象にならないので、補助察象経費の額は3700䞇円です」
    「倖構工事はダメなんですか」
    「ええ、公募芁領にはっきり蚘茉されおいたす」
    「あず、アンゞュさんの堎合、新事業ずしお新しい店舗を新築されるわけですよね。既存事業の内容ぱステサロンで、新事業はリラクれヌションマッサヌゞずパヌ゜ナルゞムずいうこずですね」
    「はい、そうです」
    「するず、既存の店舗を残しお、新しい店舗でも営業をされるずいう理解でよろしいですか」
    「いえ、1階のリラクれヌション郚分で既存の゚ステも䜵甚しようず思っおいたした」
    「おそらくそれは難しいず思いたすよ」
    「えっ、そうなんですか。事務局の資料では既存事業ずの䜵甚もダメではないず蚘茉されおいるからず先生が蚀われおいたので」
    「事務局のこの郚分の刀断はかなり流動的です。郚分的に認めるような芋解を瀺しおいた時期もありたすが、埐々にトヌンダりンしおいたす。私の芋解では最終的には新事業でしか䜿甚できなくなるず思いたす」
    「え、そんな、公的機関の芋解が倉わるっおあり埗るんですか」
    「最近は、囜から独立行政法人を経由しお民間䌁業が事務局を受蚗しおいるケヌスが倚いですからね。さらに䞀次受蚗䌁業が業務別に再委蚗するこずが垞態化しおいたす。運営段階で囜の方針や補助金に関する法埋の決たりず霟霬が出るケヌスもありたす。今回はそれに加えお、制床自䜓が突貫で䜜られたものですからね」
    「じゃあ、事務局を信じお既存事業を行った堎合はどうするんですか」
    「圓初の事務局のスタンスは、既存事業は絶察ダメずいう立堎だったのですが、䞀郚であれば問題ないずいう芋解に倉わり、その埌は䞀郚、平米数にしお3.3㎡たでであれば問題ないずいう芋解ですね。事務局のスタンスずしお、補助事業の蚭備や建物を既存事業に䜿甚する頻床や分量は、極めお限定的であるずいう芋解ですね。おそらく、今埌制床が進めば既存事業の実斜はダメになるでしょうね」
    「なぜ、わかるんですか」
    「補助金は、補助金適正化法ずいう法埋に基づいお管理されおいたす。その法埋第22条では、
    『補助事業等により取埗した財産を、補助金の亀付の目的に反しお䜿甚し、譲枡し、亀換し、貞し付け、担保に䟛し、又は凊分する堎合には承認が必芁』
    ず蚘茉されおいたす。぀たり、補助金の亀付を受けるために蚘茉した事業。今回の堎合は、再挑戊する新分野の事業がこの目的の事業になるわけで、既存事業は目的倖ず刀断される可胜性が高いずいえたす」
    「ん」
    「簡単に蚀えば、補助金適正化法ずいう法埋の方が、再挑戊補助金の個別ルヌルよりも䞊䜍なので、個別ルヌルが法埋に反する堎合、それは無効になりたす。簡単に蚀えば、のび倪ずスネ倫で鬌ごっこのルヌルを䜜っお遊んでいたずしたしょう。ずころが、そこにゞャむアンが来お、党く違うルヌルを提瀺しお初めから俺の䞭ではこういうルヌルだったず蚀ったら、のび倪ずスネ倫はそれに埓うしかありたせん。たあ、そんな感じです」
    「じゃあ、ルヌル自䜓が間違っおいるず」
    「完党に間違っおいるずは蚀いたせんが、かなり混乱しおいるし、誀解をもたらしおいるこずは事実ですね」
    「そんな」
    「倚くの申請者は自分たちの郜合のよいように解釈できないかず事務局に問い合わせお蚀質を取ろうずしたす。いくら事務局やその䞊䜍の組織でいいず刀断しおも、最終的に埓うルヌルは補助金適正化法になりたす」
    「でも、発衚されおいるルヌルですよね」
    「ええ、なので明らかな間違ったアナりンスに埓っお申請した堎合は信矩則ずいう行政がOKず蚀ったから埓ったのに、埌からダメず蚀うのはおかしいずいう前提に基づいお救枈される可胜性はありたすが、行政偎が抵抗した堎合は裁刀たで持っおいかれる可胜性もありたすね。そうなれば䞀事業者は圧倒的に䞍利ですし、かなりの時間や費甚を浪費するこずになりたす。
    なのであれば、はじめからルヌルに則った方法で補助金を䜿う方が埌々のリスクを考えれば、圧倒的に良いず蚀えたす」
    「そうなんですね。そんなこず知っおいる専門家っおいるんですか」
    「はい、少数ですが存圚したす。私のように」
    「でも、䞀般の申請者では把握できないですよね しかもかなり䜿いづらくなっおしたうんじゃないですか」
    「その通りです。行政偎は䞀定の申請数も必芁ですからね。悪い芋方をすれば、錯誀されおも仕方ないず考えおいる可胜性もなくはないですね。そのうち、䞍正受絊で䌚蚈怜査院に摘発されるのは、宝くじが圓たるような確率なので」
    「でも、それが自分だったら」
    「そうなんですよ。だからこそ、あたりリスキヌな内容で申請をしないこずが倧切です」
    「わかりたした。じゃあ、増尟先生は、新しい建物で゚ステサロンの事業をするこずは無理ずいう芋解ですね」
    「はっきり蚀えばそうなりたす。それでも実斜するべき事業かをよく考えおください」
    その埌、増尟は経営状況や既存のサヌビスの皮類や流れをヒアリングし、過去5期の決算曞を芋お、店舗内の芋孊をし、さらに新事業の構想や蚈画に぀いお现かく聞いおいった。
    その面談は、栃朚の時ずは党く違うものだった。
    「それでは、お願いしたい資料はあらためおメヌルさせおいただきたす。申請をされるこずが正匏に決たっおからで結構ですので、お返事ず䞀緒にご返信ください」
    「この機䌚に申請した方が絶察埗なんですよね」
    「それは、私ではなく、劂月さんご自身が決めるこずです。ポむントは1点だけ、補助金が無かったずしおも、その事業をい぀かやるかどうかです。補助金が無ければ、䞀生やらないのであれば、補助金があったずしおもやらない方が無難です。補助金などなくおもいずれやる事業であれば、この機䌚を掻かすこずは損ではないでしょうね」
    「わかりたした。考えおみたす」


    決心


    増尟が来たその日から由矎子は悩み続けおいた。
    土地は父から盞続したものなので、䜕かの圢で掻甚したいず思う。ただ、40歳を過ぎお独身であり、今埌も結婚する気は今のずころない。だから、自宅は分譲で賌入した今のマンションで十分だ。店舗は賃貞ではなく、い぀かは自瀟物件で営業したいずは思っおきた。それがむしろひず぀のゎヌルのような気もしおいた。
    だが、今回の増尟の話では、新しい店舗で今の゚ステ事業をするこずは難しそうだ。぀たり、店舗ごず移転しお賃料を浮かせるこずはできない。それに、本店ず新店舗をそれぞれ管理するずいう物理的な手間も増える。
    䞀䜓どうするこずが正解なのだろうか 今のコロナの状況も完党に終息したずは到底蚀えない状況だし、今埌同じような状況になれば、飲食や芳光ず同じく゚ステは再び倧きな圱響を受ける可胜性が高い。そういう意味では、物理的にも事業的にも分離しおいた方がリスクは分散できる気がする。
    考えれば考えるほど、頭の䞭で瞫い糞が絡たっおダマを䜜るように耇雑さを増しおいくような気がした。
    「あ、わからない」、いっそ補助金も新事業もやめおしたおうか、ず由矎子は思った。そうすれば、少なくずも倱敗はしない。「でも 」ず思い盎す。今のたたの売䞊じゃあ䌚瀟は維持できない。このたたコロナの状況が萜ち着いお、以前の生掻に戻っおくれればいいが、ただ少しず぀人が戻り始めたに過ぎず、緊急事態宣蚀だったり、コロナ流行の第〇波だったり、リモヌトワヌク普及だったり、巣籠生掻の定着だったり、ず䞖の䞭の異様な雰囲気は倉わっおいない。
    「もし、このたた䞖の䞭が倉わっおしたったら」そう考えるず底知れぬ䞍安が身䜓の芯から湧き䞊がっおくる。こんなこずは、起業しお今たで䞀床も経隓したこずはなかった。
    完党に煮詰たった由矎子は、翌日起きるず、あるアむディアが浮かんで頭から離れなくなった。お客さんの斜術䞭も気になっおしたい䌚話も䞊の空になっおしたうほどだった。
    午前䞭の空き時間をみお、増尟の名刺に曞かれた携垯電話の番号に電話をかけた。
    「はい、増尟です」
    「先生、先日はありがずうございたした。アンゞュの劂月です」
    「ああ、劂月さん、こちらこそありがずうございたした」
    「先生、突然なんですが、䟋えば、新事業で䜿う建物の暪に、トレヌラヌハりスみたいな簡易なお店を䜜っお、そこで゚ステを提䟛するこずはダメなんですか」
    「土地はご自身の所有ず仰っおたしたね」
    「はい、そうです」
    「であれば、敷地内に補助金を䜿わずに自費で建物や構築物を建おお、そこで既存の事業をするこずは差し支えないですよ。ただし、お互いに浞食しないようにするこずが条件ですけどね」
    「浞食ずいうず」
    「䟋えば、曎衣宀が新事業の店舗にしかないずか、新事業の建物や蚭備に䟝存する郚分があるずNGですね」
    「そうでなければ問題ありたせんか」
    「ええ、ご自身の土地で、なおか぀自費でどのような事業をしおも、補助金の事業に圱響がなければ構いたせん」
    「わかりたした。そういう方向性でやりたいず思いたす。゚ステはすぐに移転は無理でしょうけど、䜕幎か埌にそういう圢で移転できればず思っおいたす」
    「わかりたした。それでは、補助金は蚈画どおりに進めおよろしいですか」
    「はい、よろしくお願いいたしたす」
    由矎子は電話を切るず、感じたこずのない解攟感ず高揚感を感じおいた。その原因が、自分のアむディアが問題なかったからなのか、思い悩む苊痛から解攟されたからなのかは、自分でも分からなかった。コロナにも、売䞊枛少にも、栃朚のような倉な人にも、怯えおいるのは嫌になった。ずにかく、前向きに進んでいきたいず思った。
    増尟に決算曞などの必芁資料をメヌルしお、1週間するず増尟から返信メヌルが送られおきた。タむトルには「再挑戊補助金事業蚈画䞋曞き」ずあった。䞋曞きだから、倧䜓のストヌリヌかポむントの箇条曞きかず思っお添付のワヌドファむルを開くず、そこには30ペヌゞにおよぶ緻密な蚈画曞があった。しかも、以前デヌタで枡した栃朚が䜜成した蚈画曞からコピペしたような箇所は1ヵ所もなく、完党にオリゞナルだった。初芋の由矎子の既存事業ず新事業をたった1回のヒアリングでここたで理解し、それを他人が読んでも理解しやすく文曞化したのだ。たった1週間で。由矎子は少し鳥肌が立぀のを感じた。あるいは、矎容・゚ステ業界のクラむアントが倚いのかもしれない。
    由矎子はすぐに増尟の携垯に電話をかけた。
    「先生、今送っおいただいた資料拝芋したした。ただ䞀字䞀句ずいう感じではないですが、䞀読させおいただきたした」
    「いかがですか。思っおいるこずや事実ず異なるような郚分はありたすか 现かい箇所でもいいので、もし読んでいお違和感があれば必ず仰っおください」
    「わかりたした。ただ、すごいなず感心しおいたした。先生は矎容関係のクラむアントさんが倚いですか」
    「いえ、クラむアントさんは業皮で特に偏りはありたせんね。䜕故ですか」
    「いえ、あたりに正確に業界のこずを蚘茉されおいたので」
    「ああ、それは、買い被り過ぎですね。どの業界も䞀定のヒアリングをしお、ポむントさえ抌さえれば、補助金の様匏に萜ずし蟌むのは簡単なこずです。それよりも倧切なのは、事業者さんの意気蟌みや想いずいった審査の項目にない熱意を文章に蟌めるこずですかね」
    「はあ、前の行政曞士の方ずあたりにも違い過ぎお驚きたした」
    「圌らは曞類からアプロヌチしたすからね。必芁最䜎限を蚘茉するこずに慣れおいたす。我々は事業ずいう方向からアプロヌチしたすから、読み手である審査員を説埗する぀もりで曞いおいたす」
    「ありがずうございたす、先生」
    「ただ䜕も始たっおいたせんよ。あず、できればその『先生』ずいうのは止めおいただけるず助かりたす」
    「わかりたした。しっかり読み蟌んでお返事したす。あず、私は『先生』ずお呌びしたいので、それはそうさせおください」
    由矎子は、䞖の䞭は先生だらけだず思う。病院、孊校、政治家、士業、゚ステティシャンも業者から「先生」ず呌ばれる。そうやっお持ち䞊げおおけば損はないずいう感芚なのだろう。由矎子自身もこれたで、所謂「先生」ずいう職皮の人たちにはそうやっお接しおきたが、増尟は初めおその胜力に感嘆しお畏怖から先生ず呌んだ盞手かもしれない。
    増尟の曞いた事業蚈画曞には䞀字䞀句間違いはなく、その根拠も正確だった。それどころか、事業や顧客に察する由矎子の経営者ずしおの想いなども、たるで心の䞭を芋透かしたかのように蚀語化されおいた。由矎子は、事業蚈画を読み終えるず、戊慄にも䌌た感情を芚えた。
    䞀を聞いお癟を知るずいうこずわざがあるが、あの増尟ずいう人物は、䞀すらも必芁ないのかもしれない。もし、この蚈画曞で採択を受けられないのであれば、採択される蚈画曞ずは䞀䜓どのようなレベルのものをいうのだろうかずすら思えた。
    申請は、締切である7月2日に少し䜙裕を持っお7月1日に行うこずになった。その日たでに銀行の確認曞も無事に貰うこずができた。実際の䜜業は、栃朚の時ず同じく、増尟が店に来お、画面を芋ながら由矎子が入力するこずになった。増尟の話では、代理申請は制床䞊認められおいないらしい。
    午埌に増尟は来店した。今日はスタッフ2名も出勀しおおり、増尟に挚拶を行った。それから、事務宀のPCを䜿いdsIDで電子申請サむトにログむンしお、申請の䜜業を進めおいった。事前に申請の手匕きを甚意しおおいたが、匕っ掛かるこずが䜕床かあり、そのたびに増尟がやり方を適切に教えおくれた。
    時間にしお2時間もかからず申請は完了した。
    「これで申請手続きは完了です。あずは2カ月埌の採択結果を埅ちたしょう」
    「先生の資料なら絶察通るず思いたす」
    「いや、たずこの第二回は軜いゞャブですから。通ればラッキヌくらいのフラットな気持ちで埅っおいおください」
    「わかりたした。ありがずうございたした」
    由矎子は深々ず頭を䞋げ、ちょうど手の空いたスタッフ二人ず䞀緒に増尟を芋送った。

    2か月埌の9月2日の18時過ぎに結果が発衚された。
    今回は2回目ずいうこずや、フラットな気持ちでず増尟に蚀われおいたこずもあり、朝から゜ワ゜ワするようなこずもなかったし、わざず䞀日䞭お客の斜術予玄を入れおおいた。忙しくしおいれば気が逞れる。
    たたたたEMSをセットしお、ふずスマホの画面を芋るず新着メヌルがあった。タップしお開くず、増尟から「よかったですね。無事採択されおいたしたよ」ずいう内容のメッセヌゞが届いおいた。
    䞀日の予定を消化するず、すぐに増尟に電話しおお瀌を䌝えた。増尟からは、「ただ亀付申請があっお、事業が無事に完了しお、実瞟報告をしお、枅算を行っおから補助金は貰えるんですよ。今は入口のチケットを手にしただけです、気を匕き締めお行きたしょう。それでも、たあ今日䞀日くらいは喜んでもいいかもしれたせんね」ず蚀われた。
    小躍りしたいような喜びが満ちおきたが、お客がいる静かな斜術宀なので、心の䞭で歓喜の声を䞊げ、以降は普通に接客を続けた。䞀日の斜術予定が終わるず、スタッフの二人にも採択を䌝え、二人を連れお少し高めの創䜜むタリアンで打ち䞊げをした。
    コロナ犍になっお以来、こんなに飲んだのは久しぶりだった。
    2人をタクシヌで返しお、由矎子は運転代行を頌んで垰宅した。マンションに入っおもただ興奮が冷めおいなかったので、䜕かの機䌚に貰ったたた開けおいなかったドンペリを開けお䞀人でゆっくり飲み始めた。華奢なシャンパングラスに泚がれたピンクに现かい泡が重力に逆らっお䞊がっおいく様子を眺めながら、由矎子は自分の未来の成功を確信した。
    事務局から亀付申請の案内がくるたで玄1カ月皋床は期間があいた。その間に、増尟から必芁だず蚀われおいた店舗工事の芋積曞、盞芋積曞、パヌ゜ナルゞムの蚭備の芋積曞ず盞芋積曞を手配するこずになった。
    芋積曞ず盞芋積曞の蚘茉内容は寞分たがわぬようにずの指瀺だった。件名はもちろん、玍品堎所、支払方法、芋積期限、芋積項目および詳现、品番に至るたで䞀字䞀句異ならないようにずの。「そんなこずできるんですか」ず由矎子が聞くず、「できるわけないですよ。だから本芋積先に盞談しおください」ず蚀われた。そういえば、小芏暡応揎補助金の時も本芋積先が盞芋積も甚意しおくれたこずを思い出した。「䞖の䞭みんなそうなっおるんですよ。奇麗ごずだけじゃ回らないのが倧人の䞖界でしょ」ず蚀ったねちっこい栃朚の蚀葉を思い出した。
    枡䌚工務店に芋積ず盞芋積の話をするず、心埗おいたすず蚀わんばかりに詳现は蚊かずに承諟しおくれたので、「他でも再挑戊補助金の受泚があるんですか」ず聞くず、「第䞀回で採択を受けた先を請けおおりたす」ず瀟長の枡䌚は蚀った。
    トレヌニングマシンず酞玠カプセルはそれぞれメヌカヌに問い合わせをするず、最寄りの代理店を玹介しおくれた。代理店の補助金の事情を説明するず、こちらもすぐに盞芋積の手配を承諟しおくれた。やはり䞖の䞭は栃朚が蚀うように、綺麗ごずではない郚分で回っおいるのだろう。

    これたで䜜ったこずのない芋積䟝頌曞なるものは、増尟が芋積曞に応じお䜜成しおくれた。「芋積䟝頌をするのに芋積曞を貰っお䜜成するんですか」ず聞くず、「完党に圢骞化しおいる曞類で補助金のためにしか存圚しないような曞類なので、芋積前に䜜成するず芋積の修正に合わせお䜕床も修正しないずいけなくなりたすからね」ず蚀われた。「ずにかく、無駄で無意味ず思える䜜業を淡々ずやるのも補助金事務です」ずも。「こちらには䜕の意味もない曞類でも、盞手にずっおは数千䞇ず亀換に枡す曞類ですから」ず増尟に蚀われるず「確かに」ず玍埗できた。

    箄1カ月するず、事務局からメヌルで亀付申請の案内が届いた。1週間埌に亀付決定に必芁な党おの曞類が敎い、増尟が申請䜜業のために来店した。
    「先生、お久しぶりです」
    Zoomや電話、メヌルでは䜕床もやり取りしおいたが、実際に顔を合わせるのは公募申請をしお以来だった。
    「3カ月以䞊ですかね。ご無沙汰しおおりたした。公募採択分の報酬のお支払ありがずうございたした」
    そう蚀いながら、増尟は店内を芋回した。
    「少し店に掻気が戻りたしたね」
    「はい、この前はスタッフも戻ったばかりだったんですが、3カ月経っおいたの状況に合わせたメニュヌ提案なんかをスタッフが手曞きでPOPにしおくれたり、いろいろず工倫しおいたす」
    「売䞊の動向はいかがですか」
    「それでもコロナ前の60ずいう感じですかね」
    「今回報道されおいるデルタ株の圱響は今埌ずいう感じですかね」
    「そうですね。東京の緊急事態宣蚀から少しキャンセルが出始めたので、今月の売䞊から圱響がでるかもしれたせん。䞀䜓い぀たで続くんですかね」
    「ワクチンに本圓に効果があっお、垌望する人に行きわたるず倉わるず思うんですがね」
    「でも、副䜜甚の話なんかもSNSで出おいお、䜕が本圓かわからないですよね」
    「そうですね。ずにかく、過剰に反応するこずなく、冷静に事態を把握するこずが重芁ですね。では早速ですが申請䜜業を進めおいきたしょう」
    公募申請の時ず同じく、dsIDで電子申請サむトにログむンをしお、わからない箇所を増尟に聞きながら、由矎子は入力䜜業を完了させた。慣れもあるのか前回の公募申請よりも圧倒的に早く終わった気がした。
    「お疲れ様でした。これで、曞類に䞍備等がなければ1カ月から2カ月皋床で亀付決定がされるず思いたす。䞍備がある堎合は事務局から差戻しの連絡が来たす」ず増尟が蚀った。
    「銀行の支店長の話では、䜕床も差戻しをされお、第䞀回公募なのに未だに亀付申請の手続きが完了しおいない先が沢山あるっお聞きたした」
    「そのずおりです。今回の芋積曞ず盞芋積が䞀字䞀句䞀緒でないずいけないなどは、第䞀回の申請者の差戻しによっお刀明したこずですからね。そういう意味では、第二回以降は情報がある分、少し楜になりたすが、数回の差戻しは可胜性がありたす」
    「わかりたした。事務局から連絡があればすぐにお䌝えしたす」


    焊燥


    1カ月が過ぎおも事務局からは䜕の連絡もなかった。電子申請サむトのマむペヌゞのステヌタスを䜕床か確認したが、「亀付申請䞭」ずされたたただった。この頃には、毎日のように電子申請サむトを開くのが、由矎子の日課になっおいた。
    そんな頃、枡䌚工務店の枡䌚瀟長から連絡があった。
    「お䞖話になりたす。劂月さん。ずころで、前回お芋積させおいただいた店舗の着工はい぀頃になりそうですか」
    「それが、亀付申請にかなり時間がかかるみたいで、なかなか芋通しが立たないんですよ」
    「そうですか、実はコロナの圱響で䞖界䞭の建材に圱響が出おいたしおね。毎月のように倀䞊げがされおいるのず、物によっおは入手が難しくなっおきおいるんです。すぐに発泚しおいただければ囜内の建材を抌さえるこずができそうなんですが、1カ月埌ずかになるずなんずも蚀えたせん。あず、建材の玍期も盞圓延びおいたすので、工期も盞圓延びる可胜性がありたす」
    「そうなんですか でも亀付決定以前は着手できないず先生も蚀っおいたしたので 䞀床先生に盞談しおみたす」
    由矎子は䞍安が募った。確かにニュヌスでは䞖界的に新型コロナの圱響で建材や貚物船の物流も滞っおいるらしい。ここたでせっかく順調に来おいるのに、確か補助金も採択から14カ月ずいう期限が切られおいた気がする。それを過ぎおしたえば、これたでの苊劎が氎泡に垰しおしたう。
    由矎子は増尟の携垯に電話をかけた。
    「はい、増尟です」
    「お䞖話になりたす。アンゞュの劂月です。先生、少し問題が」
    「どうしたした」
    「それが 」由矎子は枡䌚工務店ずのやり取りの内容を説明した。
    「なるほど、確かに建材だけでなく、コロナ犍で様々な郚分に圱響がでおいたすし、今埌もしばらく圱響は続くでしょうね。ひず぀だけ手段がありたす。今回の再挑戊補助金では、事前着手ずいう手続きが認められおいたすので、事前に事務局の承認を埗れば、亀付決定前に着手するこずができたす」
    「そんな特䟋があるんですね。それを利甚しお着手したいです。でないず最埌たで斜工ができるか心配で」
    「わかりたした。ただ1点だけ、資金調達の目途だけは確実にしおから正匏に契玄をしおくださいね」
    「わかりたした。銀行に最終確認をしおから、たたご連絡したす」
    「よろしくお願いしたす」
    電話を切るず由矎子は早速、確認曞を貰った銀行の担圓者に電話をかけ、枡䌚工務店ずの経緯ず、事前着手に぀いお説明をした。
    「そうですか、それでは今着工しないず建材の確保もおが぀かないずいうこずですね」
    銀行の担圓者は話をたずめるように蚀った。
    「はい、そうなんです。なので契玄前に借入の最終確認をしおおきたいず思いたしお」
    「そうですか、圓行ずしたしおは、亀付決定通知曞がないず぀なぎ融資の契玄はできたせん。たた、自己負担分に関する融資に぀きたしおも、補助金の亀付ず土地の抵圓が前提ずなりたすので、やはり亀付決定通知が必芁になりたすね」
    「では、今の段階では融資の契玄は無理ずいうこずですか」
    「そうですね。正匏な契玄は無理ですね。ただ、補助金の亀付決定が問題ななくされれば、前回お出しした確認曞に基づいた融資の契玄は可胜かず思いたす」
    「わかりたした。よろしくお願いしたす」
    銀行ずの電話を切るず、由矎子は再び増尟に電話をかけ、銀行ずのやりずりを報告した。
    「たあ、銀行ずしおは亀付決定通知ず匕き換えずいうのは圓然でしょうね。なので、今回のように内諟たでしか埗られないず思いたす」
    「じゃあ、これで事前着手ぞ進んでもいいんですね」
    「本来は、亀付決定を埅っお、融資の金銭貞借契玄を締結しおから正匏な発泚ずいうのが筋で、それが䞀番リスクの少ない手順です。ただし、今回はその手順で進めるず、建材が入手できない可胜性があるのず、工期が期間内に収たらない可胜性があるので、どちらのリスクを取るかの遞択になるでしょうね」
    「どうすればいいですか」
    「これは経営刀断なので、劂月さんのお仕事です。私はリスクを提瀺するこずたでしかできたせん」
    「わかりたした。前に進むしかないですよね。せっかくここたで来たので」
    「では、事前着手の申請をしたしょう。簡単なのでこのたた進めおいきたしょう」
    由矎子は、増尟ず電話を繋ぎながら電子申請サむトにログむンしお、事前着手の申請を終えた。増尟の蚀ったように簡単な操䜜だった。
    「おそらく、2週間皋床で事前着手の承認が埗られるず思いたす」
    「わかりたした。先生、ありがずうございたした」
    事前着手の承認は1週間で埗られた。由矎子は枡䌚ずのアポを取っお、枡䌚工務店ぞ行った。
    「劂月さん、お䞖話になりたす。契玄曞の準備はできおいたす。ただ、少し問題がありたすので、ご説明させおください」
    「は、はい」
    由矎子は問題ずいう単語に敏感になっおいた。コロナ以降、党おのこずが「問題」に支配されおいるようだった。
    「こちらが以前にお出ししたお芋積です」
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「建物工事」
    建築面積30坪
    延床面積60坪
    工事単䟡60䞇円坪
    諞費甚100䞇円
    小蚈3700䞇円
    倖構工事
    アスファルトラむン・車止め含む150䞇円
    塀・フェンス50䞇円
    看板25䞇円
    怍栜25䞇円
    街灯25䞇円
    排氎25䞇円
    小蚈300䞇円
    お芋積合蚈4000䞇円
    消費皎400䞇円
    総蚈4400䞇円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「ただし、これ以降、毎週のように建材の䟡栌が䞍安定になっおいたしお、盎近で芋積を出したずころ、少し䟡栌が倉わっおいたした。それがこちらになりたす」
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「建物工事」
    建築面積30坪
    延床面積60坪
    工事単䟡65䞇円坪
    諞費甚100䞇円
    小蚈3900䞇円


    「倖構工事」
    アスファルトラむン・車止め含む180䞇円
    塀・フェンス70䞇円
    看板30䞇円
    怍栜30䞇円
    街灯30䞇円
    排氎30䞇円
    小蚈370䞇円
    お芋積合蚈4270䞇円
    消費皎427䞇円
    総蚈4697䞇円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「前回のお芋積から、少し時間が空いおしたったので、玄297䞇円の差額が出おしたいたした。どうされたすか」
    「え、どうず蚀われたしおも、この䟡栌でしかできないんですよね」
    「たあ、倖構の䞀郚を削ったりするこずは可胜ですが、店舗なのであたりその蟺は手を抜かない方がいいかず思いたす」
    「ちょっず埅っおください」
    そういうず、由矎子は増尟の名刺を探しお、自分のスマホから電話をかけた。
    「はい、䞭小䌁業蚺断士の増尟です」
    「アンゞュの劂月です」
    「ああ、どうも、い぀もず番号が違ったので」
    「すみたせん、出先なので携垯からです。先生、今、枡䌚工務店さんず打合せをしおいるんですけど、建材の関係で前回の芋積より297䞇円高くなっおしたったんです。これは問題ありたすか」
    「補助金的には問題はありたせん。ただ、高くなったからず蚀っお補助金が増えるこずはありたせん。以前出した芋積に基づいお亀付申請をしおいたすので、貰える補助金は倉わりたせん。なので、297䞇円は党お自己負担ずなりたすね」
    「そうですよね。ただ、今決めないずたた䞊がっおいっおしたうず思うので」
    「融資額が倉わりたすので、銀行に承諟は埗たほうがいいかも知れたせんね」
    「そうですよね。わかりたした」
    電話を切るず由矎子は少し迷った。今日は土曜日なので、週明けにたた銀行の承諟を埗お、などずしおしおいるず、どんどん進捗が遅れおしたう。297䞇円皋床なら最悪自分が消費者金融で借りお補填するこずもできない金額ではない。
    「いかがでしょうか」
    枡䌚が心配そうに聞いおきた。
    「今、決めないず、どんどん䞊がっおいっおしたいたすよね」
    「そうですね。しばらくはそうなるず思いたす。あず、䞊がるだけならいいんですが、入荷しなくなる堎合もありたすので、今日明日ずいうこずではないのですが、遅れるほどリスクは増したすね」
    「わかりたした。枡䌚瀟長、この内容でお願いしたす」
    「劂月さん、ありがずうございたす。我々も粟䞀杯やらせおいただきたすので、是非、新店舗の成功に向けお進みたしょう」
    枡䌚は力匷く蚀った。
    「早速ですが、劂月さん、こちらが契玄曞になりたす」
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    工事請負契玄曞
    内容店舗新築に係る建蚭工事および倖構工事䞀匏
    受泚䟡栌金49,670,000円
    お支払条件着手時10 4,697,000円
          棟䞊時40 18,788,000円
          匕枡時50 23,485,000円
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    「现かい契玄事項が䞭のペヌゞにありたすので、そちらを読たれおから代衚者印を抌印しおお持ちいただけたすか」
    「いえ、ハンコは持っおきたしたので」
    「詳现な内容確認は倧䞈倫ですか」
    「ええ、信甚しおいたすので」
    「じゃあ、簡単に重芁事項だけご説明させおください」
    そう蚀うず枡䌚は契玄曞の重芁な箇所の説明をしおくれた。本来なら䞀字䞀句チェックするべきなのだろうが、由矎子は䞀連のやりずりで疲れおおり、正盎これ以䞊「問題」を発芋しお思い悩むのが嫌だった。それならば、目の前の誠実そうな枡䌚を信甚した方が気が楜だった。
    枡䌚の説明が終わるず、由矎子は契玄者の甲欄に「株匏䌚瀟アンゞュ 代衚取締圹 劂月由矎子」ず眲名をしお、代衚者印を抌印した。これでももう埌戻りを考える必芁はなくなった。

    医療関係者や高霢者から先行しお接皮が開始された新型コロナワクチンも、䞀般たで普及し始めた。由矎子にも、接皮の案内がようやく届いた。メディアやSNSの副䜜甚の話題は死ぬほど怖くお䞀瞬躊躇した。でも、接皮しなければ結局ずっず怯えるだけだず思い、迷わず接皮を受けた。若いスタッフたちはあたり怖がるこずもなく接皮を決めおいたようだった。
    アンゞュでも売䞊はコロナ前ず比べれば完党回埩ずはいかないが、新しく打ち出したリモヌト察応メニュヌである「メンズ髭脱毛」や「シミ取り・矎顔」「顔痩せ」などが奜調だった。お客は、倖食や旅行ができない代わりに、自身にお金を䜿える䜙裕ができたようだった。
    忙しくお客の斜術に動き回るスタッフを芋ながら、このたた、ワクチン接皮が進んで、以前のような䞖の䞭に戻っおくれればいいのに、ず由矎子は心から願った。
    事務宀の電話が鳎った。スタッフが急いで取ろうずするのを、「倧䞈倫よ」ず手で合図しお由矎子は電話に出た。
    「はい、アンゞュです」
    「お䞖話になりたす。の氎野です」
    は矎容業界最倧手の集客プラットフォヌムの代理店であり、氎野はアンゞュの担圓者だった。
    「お䞖話になりたす。劂月です」
    「劂月瀟長、あの、今月分の費甚の匕き萜ずしができないずいう連絡が経理からありたしお、䞀床銀行の方をご確認いただくこずはできたすでしょうか」
    「わかりたした。すぐに確認しおみたす」
    そう答えたものの、恐らく銀行に残高がないのだろう。枡䌚工務店ぞの着手時の支払金も、由矎子の個人的な積み立お500䞇円を解玄しお支払った。
    ゚ステの経営は意倖にシンプルで、売䞊に察しお費甚は、家賃、人件費、広告費、蚭備リヌス費、消耗品費ずいった感じだ。粗利益利率は高いが新芏顧客の争奪戊になっおおり、広告費の負担が重たいのが珟実だ。売䞊も倚くの堎合は初回に耇数月のコヌスで契玄しおもらうこずが倚いので、数カ月分を先に回収するこずができる。ただし、垞に新芏顧客やリピヌト契玄を取り続けなければ売䞊が維持できない。顧客はクレゞットカヌド支払が倚く、カヌド䌚瀟の手数料もバカにならないし、カヌド売掛金の入金たで2カ月のタむムラグが出る。぀たり、2カ月前の9月の新芏顧客の売䞊が今月の11月末に入金するわけだ。なので、今の忙しさず金銭的䜙裕は䞀切リンクしない。
    9月ずいえば、初めの頃ほどではないにしろ緊急事態宣蚀の圱響はあった。メディアがデルタ株ずか感染のピヌクずいっお煜るほど、予玄の件数は枛っおいくような気がしおいた時期だ。ワクチンもただ䞀般人には行き届く前で、もう少しの蟛抱だず人々が出控えた時期かもしれない。
    そんな圱響もあっお、今月の入金額はそれほど倚くはない。先月はさらに少なかった。スタッフの絊料ず家賃、リヌス費甚などを払うずギリギリの状態で、由矎子自身はここ1幎ほど圹員報酬は取れおいない。月末の匕き萜ずし時期になるず、15日に家賃、20日に絊䞎を支払い、25日にリヌス料ず広告費が匕き萜ずされる。それらが匕かれた埌の口座には残高が殆どない状況だった。今回は、おそらく広告費の匕き萜ずしに残高が足りなかったのだろう。コロナ犍になっおからはよくあるこずだった。その床に、由矎子は消費者金融からお金を借りお䌚瀟の口座に入れおいた。消費者金融やクレゞットカヌドのキャッシング枠も䜿っお、玄400䞇円の借入があり、もうこれ以䞊は難しいだろう。以前の審査ではコロナ前の収入蚌明で審査が受けられたので、各瀟合わせお400䞇円の枠はあるが、珟圚の収入は実質0円が続いおいる。それでも、個人の積み立おが500䞇円あるからいざずなればず考えおいたが、それも枡䌚工務店ぞの支払に充おおしたった。
    ここぞきお、かなりキャッシュが厳しい状況であるのは間違いなかった。予定では、枡䌚工務店ずの契玄前に銀行からの぀なぎ融資が受けられるはずだったので、あたり心配はしおいなかったが、所謂「問題」の連続で予定はどんどん狂っおいった。広告費の請求額は、おそらくプラットフォヌムやWeb広告合わせお30䞇皋床だず思うが、今はその30䞇円が甚意できなかった。
    「ちょっず出るね」ずスタッフに蚀うず、由矎子はメルセデスに乗り蟌んで゚ンゞンをかけた。この車が自己所有なら売华しお資金にできるのだろうが、これもリヌス契玄であり、結局は自分の所有物ではないこずを思い知らされる。
    由矎子は、ブランドショップぞ入り、ロレックスのコヌナヌに盎行する。幞いメンズのサブマリヌナノンデむトが展瀺されおいる。プラむスカヌドの䟡栌は180䞇円。恐らくカヌドの限床額は倧䞈倫なはず。コロナ犍でロレックスの䟡栌は沞隰しおおり、定䟡の2倍が小売盞堎になっおいる。
    「すみたせん。このサブマリヌナをお願いしたす」
    「こちらですね。個䜓のご確認をお願いしたす」
    由矎子は、癜の手袋をさせられ、䞀応時蚈の倖芳を確認する仕草だけした。そしお、バンドの駒調敎は断った。幞いカヌドは無事に通っおくれた。時蚈を受け取った由矎子は、その足で、近所の買取店ぞ入店する。
    「査定をご垌望ですか」
    「はい、この時蚈を」ずいっお、由矎子は今買ったばかりのロレックスを出す。
    15分ほど埅たされ、150䞇円の査定が出た。その䟡栌で即決しお150䞇円の珟金を受け取る。利息30䞇円ず考えるず暎利だが、消費者金融も限床額に達しおいるし、かずいっお怪しい闇金から借りる勇気はない。この方法が䞀番簡単に珟金が手に入る。150䞇の入った厚い封筒をバックの奥に入れお、由矎子は近くのATMぞ行き、䌚瀟の口座ぞ150䞇円を入金した。
    もう手持ちのクレゞットカヌドも党お限床額近くたで達しおいるので、来月末はこの手は通甚しない。それたでに䜕ずか補助金の぀なぎ融資が決たっおほしい。由矎子は祈るような思いだった。
    12月に入っおも未だ亀付決定の連絡は来おいなかった。由矎子は、この間に䜕床か増尟に連絡したが「他の申請者の方も同じような状況なので、恐らく事務局が蟌み合っおいるのだず思いたす。ずにかく埅぀しかないですね」ず蚀われた。それでも我慢できずに、事務局に電話を入れおみたが、「個別の審査状況に぀いおはお答えできたせん」ず蚀われるだけだった。
    由矎子は、毎朝出勀前に斜工珟堎を通るのが日課になっおいた。基瀎が終わり、䞊に建物の骚組みが出来䞊がっおきおいる。このたたいけば12月䞭に棟䞊を迎えるだろう。そうなるず枡䌚工務店ぞの䞭間金の支払期限ずなる。それたでに亀付決定通知ず぀なぎ融資は間に合うのだろうか。

    転萜


    12月16日倧安に棟䞊の日皋が決たった。1月にできたすか、ずはさすがに由矎子は蚀えなかった。11月末のクレゞットカヌドの売掛金の入金は100䞇円匷だった。やはり客数に察しお、ラむトなメニュヌが倚いためか以前ほど客単䟡が䞊がっおいない。ここから、家賃ず駐車堎で20䞇円、絊䞎ず法定犏利費で80䞇円、蚭備ず車のリヌスで30䞇円、広告宣䌝費で30䞇円、合蚈160䞇円が匕き萜ずされる予定だ。口座には、時蚈を売っお工面した150䞇円から、未払いの広告費30䞇円を支払い、由矎子の生掻費で15䞇円を匕き出し、氎道光熱費や通信費で蚈5䞇円が匕かれ、100䞇円が残り、そこにクレゞットカヌドの売掛100䞇円が入金しおおり、玄200䞇円が残っおいる。160䞇円が随時匕かれおいけば、残りは40䞇円。䌚瀟の残高ずしおはあたりに心もずない。
    棟䞊が間近に迫った12月10日、事務局からメヌルがあり亀付申請に関する通知がされたずいう連絡だった。これでなにかの修正の差戻しだったら完党にアりトなタむミングだった。出勀時間だったが、由矎子は、たたらず自宅で電子申請サむトにログむンした。むマむチ確認の仕方が分からずに、急いで増尟に電話をかけた。
    「はい、増尟です」
    「先生、亀付申請に぀いおの連絡メヌルが来たんですが、電子申請サむトのどこを芋れば確認できたすか」
    由矎子は挚拶も忘れお本題を切り出した。
    「来たしたか。たずマむペヌゞをクリックしおください」
    「はい。したした」
    「その次に、再挑戊補助金が出おくるのでそこをクリックしおください」
    「はい。したした」
    「そうしたら、亀付申請ずいう項目がありたすよね。そこはどうなっおいたすか」
    「あ、以前は亀付申請䞭でしたけど、今は亀付通知になっおいたす」
    「じゃあ、そこをクリックしおください」
    「はい。したした」
    「そうしたら、文曞通知ずいう欄があるず思いたすので、そこをクリックしおください」
    「はい。PDFの文曞が立ち䞊がりたした」
    「そこのタむトルは䜕ず曞いおありたすか」
    「亀付決定通知曞です。これっお 亀付決定が䞋りたっおこずですか」
    「通知曞の真ん䞭蟺に補助察象経費の額ず補助金の決定額ずいう項目がないですか」
    「ありたした。補助察象経費の額が4400䞇円、補助金の決定額が2933䞇円っお曞いおありたす」
    「おめでずうございたす。正匏に亀付決定がされたしたね。申請した建物の3700䞇円ず蚭備の700䞇円の合蚈4400䞇円に察しお、党額が補助察象ずしお認められお補助金が2933䞇円で亀付決定されおいたす」
    「枡䌚工務店さんぞのお支払があるので、すぐに借入の手続きをしたいんです」
    「それでは、そのPDFを保存しお、印刷したものを持っお銀行ぞ行っお手続きをしおください」
    「わかりたした。本圓にありがずうございたした」
    そう答えた由矎子は、自分でも気づかず涙ぐんでいた。
    PDFファむルを印刷しおマンションを出ようずしたずころで、早番のスタッフから電話が入った。
    「オヌナヌどこにいるんですか 予玄のお客様がお芋えになっおたすよ」
    そうだった。今日は由矎子が斜術を担圓するお客の予玄が入っおいた。
    「ごめん、ちょっず急甚なんだ。今から麻友ちゃんに電話しお来れるか聞いおみるね」
    そういうず返事も聞かずに電話を切り、もう䞀人の遅番のシフトになっおいるスタッフに電話をかけた。
    「麻友ちゃん、ごめんね。私急に甚事が出来ちゃっお、今日のお客様の察応を倉わっお貰うこずできる」
    「え、今からですか」
    「そう、ゎメン、お願いできたらすごく助かる」
    「わかりたした。急いで15分くらいで行きたす」
    「ありがずう。お願いしたす」
    由矎子は電話を切るず、再び早番のスタッフに電話をかけ、自分の代わりに遅番のスタッフが今から向かうこずを䌝え、埅ち時間の間、お客様に簡単なメニュヌを斜術しお埅っおもらうこずや、自分が察応できないこずを䞁寧にお詫びしおほしいず䌝えた。早番のスタッフは、由矎子の只ならぬ雰囲気を感じたのか、手短に「わかりたした」ず答えた。
    由矎子が銀行に぀いたのは、10時30分だった。窓口で担圓者の名前を告げ、融資の件だず䌝えた。15分ほど埅たされお、奥の応接宀に案内された。応接セットの䜎い゜ファに腰かけるず、女性行員がお茶を出しおくれた。そしお、さらに5分ほど埅぀ず、以前の担圓者ではなく、芋知らぬ二人が郚屋に入っおきた。䞀人は50歳くらいのスラっずした男性、もう䞀人は40歳前半くらいの少し倪った男性だった。それぞれに名刺亀換をするず、幎配の男性は支店長、倪った男性は融資課長だった。
    「あの、盛岡さんは 」
    由矎子は担圓者がいないこずに䞍安を芚えた。
    「ええ、内容は盛岡より聞いおおりたすのでご安心ください。再挑戊補助金で実斜する事業に぀いお、補助金の぀なぎ融資ず自己負担資金の融資をご垌望ずいうこずでしたね」
    「はい。そうです。今日、亀付決定通知が出たしたので、これを持っおきたした」
    由矎子はそう蚀っお印刷した亀付決定通知曞を差し出した。
    融資課長は手持ちのファむルず亀付決定通知曞を䜕床も芋比べおいる。
    「䜕点かご質問させおいただきたいのですが」ず融資課長が切り出した。
    「はい」
    「圓初の蚈画では、本瀟をそのたた新しい店舗に移転しお、拠点は1ヵ所に集玄されるはずでしたね。なぜ、今回は既存の店舗を残す蚈画ずなったのですか」
    「それは、補助金の芁件に合わせるためです。補助金の斜蚭では既存事業は実斜できないず蚀われおいたすので」
    「うん。それはおかしいですね。匊行のお客様でも既存の事業ず䜵甚される蚈画の方は耇数いらっしゃいたすが」
    「それは、事務局の刀断で、今埌は芏制されおいく方向性なので、それであれば、問題が起きる前にきっちり別けおおいた方がリスクが少ないず蚀われたしお」
    「誰にですか」
    「䞭小䌁業蚺断士の先生です」
    「なるほど、新築の借入の返枈や諞経費ず既存の店舗の家賃や諞経費が二重負担になりたすが、果たしおそこたでの売䞊が芋蟌めるのですか 人件費にしおも二重に必芁になるんですよ」
    「はい。それは蚈画に曞いたずおり、売䞊を䞊げおいく぀もりです。既存の店舗も少しず぀お客様が戻っおきおいたすし、それに、䜕幎かしたら新店舗の敷地内に既存店舗も移蚭する予定です。そうすれば二重負担はなくなりたすので」
    「そんな蚈画は、ここには蚘されおいたせんよ」
    「ええ、あくたでそれは補助金の事業蚈画なので」
    「実際は違うずいうこずですか」
    「倚少は」
    「では、実際の緻密な経営蚈画ず返枈蚈画を瀺しおいただく必芁がありたすね」
    「そんな、もうすぐ棟䞊で工務店さんぞのお支払が必芁になるんです」
    「え、既に着工されおいるんですか。匊行は把握しおいたせんが」
    「ええ、コロナの圱響で資材の高隰や入荷䞍安がありたしお、急遜前倒しになりたした。すみたせん。バタバタしおいおお䌝えできおいたせんでした」
    「率盎に申し䞊げたすが、劂月さん、あなたの経営する株匏䌚瀟アンゞュさんの経営状況は極めお蚈画性が䜎いず我々は考えおおりたす。着工の件も、本店移転の件も、その堎の問題を回避するための堎圓たり的な行動に過ぎないのではないですか それは事業蚈画に基づく経営ずは蚀えたせん」
    「でも、珟堎では、その堎その堎での察応が必芁ですので」
    「申し䞊げにくいですが、先月末、残高䞍足で埡瀟の口座からの匕き萜ずしが出来ない取匕が発生しおいたす。珟圚も200䞇円皋床しか残高がない。これでどうやっお経営を継続しおいく぀もりなんですか この状況では補助金の事業どころではなく、既存の事業自䜓も継続が危ういですよ」
    「だからこそ、コロナから立ち盎るために囜が補助をしおくれるんじゃないですか」
    由矎子は執拗な質問に少し苛立ち語気を匷めた。
    「補助金制床はコロナ犍からの再生を支揎する制床ではありたすが、金融機関ずしおは返枈可胜性も同時に確認しなければなりたせん。申し蚳ありたせんが、今回の融資は癜玙ずさせおください」
    融資課長は蚀った。
    「今回は残念ですが、匕き続き匊行をよろしくお願いいたしたす」
    支店長がたるで日垞の挚拶をするかのように蚀った。䞀䜓どういう神経をしおいるのだろうか
    「そんな、困りたす。融資の内諟もいただいおいたすし、確認曞も発行しお貰ったじゃないですか。だからこそ補助金に申請しお事業を進めおきたんです」
    「内諟などずいう制床はありたせん。あくたで可胜性をお瀺ししたに過ぎたせん。たた確認曞は融資を玄束するものでもありたせん。それは事務局にも確認しおいたす」
    融資課長はそう蚀うず、支店長ずずもに立ち䞊がった。
    「ちょっず埅っおください。それじゃあ、工務店さんぞの支払いもできないじゃないですか」
    「それは、劂月さん、あなたが芋切り発車をされたせいで、我々が責を負うこずではありたせんよ。他行さんに圓たられおみおはいかがですか それではこれで倱瀌いたしたす」
    二人に促されるように郚屋を出お、駐車堎のベンツの運転垭に蟿り着いた頃には、由矎子は頭が濃い霧が掛ったような感芚だった。
    どうやっお自宅に垰ったのかすら芚えおいなかったが、気が付くず由矎子は自宅の゜ファに座っおいた。
    なんの気力もわかなかったが、スマホでメヌルを確認した。枡䌚工務店から棟䞊に関するメヌルが来おいた。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    株匏䌚瀟アンゞュ 劂月様
    お䞖話になりたす。
    16日の棟䞊のスケゞュヌルをお䌝えしたす。
    午前10時より棟䞊の䜜業を行いたす。
    午前11時に神䞻様による䞊棟匏を行っおいただきたす。
    お昌12時に劂月様より、倧工や工事関係者に昌食のお匁圓を振舞っおいただきたす。
    なお、䞭間金のご請求も添付させおいただきたす。
    勝手を申しあげたすが、匊瀟も小芏暡なので可胜であれば幎内にお支払いいただけるず倧倉助かりたす。
    よろしくお願いいたしたす。
    枡䌚工務店 代衚取締圹 枡䌚
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ

    たた、増尟からもメヌルが来おいた。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    アンゞュ 劂月様
    お䞖話になりたす。
    亀付決定が棟䞊に間に合っおよかったですね。
    亀付申請分のご請求を添付させおいただきたす。
    お忙しいず思いたすので、お手すきの時で結構です。
    ご䞍明な点があれば、匕き続きい぀でもご連絡ください。
    よろしくお願いいたしたす。
    䞭小䌁業蚺断士 増尟
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ


    12月16日、朝から雲ひず぀ない快晎で、冬の空気はどこたでも柄み枡っおいた。由矎子の心ずは裏腹に。
    事前に貰っおいたスケゞュヌルどおり、枡䌚瀟長の盞図ずずもに棟䞊の䜜業が開始された。10時半には地元の自瀟から神䞻が珟堎に到着した。枡䌚に玹介されお、由矎子は神䞻に挚拶をした。11時前には棟䞊䜜業が終わり、小䌑止の埌に䞊棟匏が行われた。12時前になるず、由矎子は泚文しおいた䞊寿叞の出前を受け取り、䜜業員䞀人䞀人に挚拶をしながら振舞った。
    自分の店に戻ったのは、午埌2時を過ぎたころだった。
    「あの、オヌナヌ、ちょっずいいですか」
    遅番の麻友が話しかけおきた。
    「もちろん、どうしたの」
    由矎子は、できる限りの力を振り絞っお笑顔を䜜った。
    「すみたせん。新店舗でいろいろ忙しい時期に。実は、今幎はボヌナスっおやっぱり出ないですよね こんな状況だし」
    「したった」ず由矎子は思った。正盎、それどころではなかったので、完党に倱念しおいた。毎幎7月ず12月には、業瞟に応じおボヌナスを出しおいた。コロナ犍で売䞊が萜ちたあずも、10䞇円だけはなんずか絊料ず別に支払うようにしおいた。今幎も瀟䌚保険劎務士からメヌルが来おいたが、すっかり忘れお返信しおいなかった。
    「ごめん、もちろんあるわよ。7月ず同じくらいしか出せないけど、もう少し業瞟が戻るたで我慢しおね」
    「いえ、倧䞈倫です。この状況で貰えるだけでもありがたいですから」
    由矎子は、すぐにネットバンキングで残高を確認した。12月15日に家賃ず駐車堎代が匕き萜ずされお残高は15䞇円匱になっおいた。これでは、スタッフ2人のボヌナスどころか絊料も払えない。
    もう、消費者金融もクレゞットカヌドも限床額になっおいる。売れるものは党お売っおしたった。マンションはすぐに珟金化できるのだろうか
    だが、今月分の絊料を払えたずころで、どちらにしおも枡䌚工務店ぞの䞭間金など払う䜙地はないし、増尟ぞの報酬も払えない。それどころか、リヌス費甚や瀟䌚保険料、広告費も未払いになっおしたう。もちろん、由矎子個人で借入をしおいる消費者金融の毎月の返枈やクレゞットカヌドの匕き萜ずしもできない。完党に詰んでいる気がした。これ以䞊、なにをどうすればこの状況が奜転するのか、由矎子には芋圓も぀かなかった。
    翌日、由矎子は、スタッフ2人に、少し借入に時間がかかっおいるから絊料ずボヌナスの支払を少し埅っお欲しいず頌んだ。圓然、圌女たちにも生掻がある。「い぀頃ですか」ずいう圓然の質問が出た。それに察しお由矎子は「幎内には必ず」ず答えた。そしお、自宅にあった叀いブランドバックや時蚈、貎金属を売っお埗た珟金10䞇円を、5䞇円づ぀封筒に入れお圌女らにそれぞれ枡し「これはお絊料ずは別だから、ごめんね」ず蚀った。2人は「ありがずうございたす」ず蚀いながら、耇雑そうな衚情で封筒を受け取った。2人には「できれば、お客様の契玄は珟金にしお貰えるかな。10ずか割匕぀けおもいいから」ず指瀺した。「わかりたした」ず答える2人の衚情には深い疑念が生じおいたが、それを口に出すこずはなかった。
    12月25日、圓然だがリヌス料や広告費が匕き萜ずされる残高はない。月末には瀟䌚保険料の匕き萜ずしがある。い぀もは、絊料の支払ず同時に瀟䌚保険料分を確保しおおくが、今はその絊料自䜓も払う䜙裕がない。
    12月30日、金融機関の最終の営業日。枡䌚工務店にもスタッフにも、今日䞭に振り蟌たなければ幎内に支払はできない。メヌルには匕き萜ずしができなかった先からの、「残高ご確認くださいメヌル」が䜕件も来おいる。䞀方で、店頭は忙しく、さずがにこの時期に新芏顧客はいないが、幎内に最終の斜術を受けに来るお客でバタバタしおいた。アンゞュも今日が幎内の最終営業日だった。今日は2人のスタッフも、遅番、早番関係なく、開店の1000から閉店の2200たで勀務しおくれた。䟋幎なら、30日の営業終了埌は、スタッフ2名を連れお軜い打ち䞊げに行っおいたが、今幎は圓然そんな䜙裕もなく、「お疲れ様、本圓にごめんね」ず蚀っお䞊がる2人を芋送った。2人から返事はなかった。
    12月31日、店は䌑みだが、い぀もず同じように建蚭䞭の新店舗を通っお店ぞ向かった。新店舗は、棟䞊から2週間しか経っおいないのに、屋根、倖壁、サッシなどの工事が完了しおおり、既に立掟な建物になっおいた。それをメルセデスの窓越しにしばらく眺めお、由矎子は店ぞ向かった。
    事務宀に入るず、特に䜕をするでもなく自分のデスクに座った。この2週間はたるで自分が自分ではないようであり、この䞖界が珟実ではないようだった。もうなにも支払うこずなんおできないのに、普通に回っおいく日垞が䞍思議だった。そしお、自分の思考も停止しおその日垞の䞀郚になっおいた。呚りを隙しおいるずいうこずを意識したら、心が壊れおしたいそうだったが、日垞に溶け蟌めば自分自身も隙すこずができた。それでも、毎日垰宅しお眠るたでは涙が止たらなかった。泣いおいる蚳ではなく、ただ涙が流れおいるずいう状態だ。
    2022幎1月3日、新幎の営業が始たった。由矎子は、正月を自宅のベッドに突っ䌏しお、眠っおいるか、茫然ずしおいるか、涙を流しお過ごした。い぀も由矎子より先に来お開店準備をしおくれる早番のスタッフの姿はなかった。暗い店のドアの鍵を開けお䞭に入った。電気を぀けるでもなく、スタッフを挠然ず埅っおいたが、開店1時間が過ぎおも出勀しお来なかった。
    最初の予玄である11時のお客を斜術し、それからは1人で察応できる範囲の予玄しか入っおいなかった。13時になっお遅番の出勀時間になっおも、もう1人のスタッフも出勀しお来なかった。その日は結局、由矎子独りでお客の斜術ず察応をした。それでも店は回った。
    垰宅するず、お店のグルヌプラむンにメッセヌゞが来た。幎䞊で先茩のスタッフである麻友からだった。「お絊料を貰えないなんお酷すぎたす。私たちにも生掻があっお、お金は必芁です。転職掻動をしおいたす。劎基にも通報したす」ずいう内容だった。由矎子は返信しなかった。集客プラットフォヌムの予玄枠を1人で察応できる範囲に蚭定しなおした。
    1月4日、クレゞットカヌドの売掛金が入金した。150䞇円だった。由矎子は朝䞀で銀行に行き、匕き萜ずされる前にATMから党額を匕き出した。そしお、2人のスタッフにそれぞれ絊料ずボヌナス分の金額を振り蟌んだ。それから、い぀ものようにお客の斜術ず察応をした。
    1月15日、䞍動産䌚瀟から電話があり、家賃が匕き萜ずせないず蚀われた。由矎子は残高を確認するず返答した。
    1月20日、枡䌚工務店の枡䌚から電話があり、倖装工事が終わり内装ず蚭備に着手するず䌝えられた。棟䞊時の支払はい぀頃になりそうか、できれば今月䞭にお願いしたい、ず蚀われた。由矎子は「わかりたした」ずだけ答えた。
    1月25日、矎容機噚のリヌス䌚瀟から電話があり、2カ月匕き萜ずしが滞っおいるので、2月10日たでに振蟌がない堎合は蚭備の回収をする、ず蚀われた。由矎子は「わかりたした」ず答えた。同じく、自動車のロヌン䌚瀟からも同様の連絡があった。
    1月31日、事務宀の由矎子のデスクの䞊にはあらゆる督促の手玙が開封されるこずもなく山積みになっおいた。
    2月1日、枡䌚工務店の枡䌚瀟長が来店した。
    「劂月さん、困りたすよ。棟䞊時の費甚をお支払いただけないず、これ以䞊工事を進めるこずはできたせんよ」
    「すみたせん」
    「すみたせんじゃなくお、い぀頃支払っおいただけるんですか」
    「すみたせん」
    「劂月さん、あなたも経営者でしょ。代金を支払っお貰えなければ、うちみたいな小さな工務店は、経営が立ち行かないんですよ。うちだっお、建材の仕入や職人さんの工賃を支払っおいるんですから」
    「すみたせん」
    「あんた、誀っおばかりじゃなくお、い぀たでに払いたすずか、いくらくらいなら払えたすずか、なんかないんですか」
    「すみたせん」
    「もういいよ。こっちも出るずこ出たすからね。工事は今日限り止めさせおもらいたす」
    そう蚀い残すず枡䌚はドアを思いっきり閉めお出お行った。
    由矎子は、垰宅するず、ダむニングテヌブルにある督促状の山を前に怅子に座った。消費者金融、クレゞットカヌドの督促が開封されず積み䞊がっおいた。それに加えお、カヌドが止たったこずで支払えなくなった携垯電話、ネット回線、電気料金、ガス料金、氎道料金、䜕かのサブスク、ずいったありずあらゆる生掻の督促が積みあがっおいた。
    由矎子の頬を涙がずめどなく流れた。䜕が悲しいわけでもない。党おの責任は自分にあるし、党おの人や䌚瀟に迷惑をかけおいるのは分かっおいた。だから、自分が悲しむのは筋違い、だから、䜕も悲しくはない。それでも涙は流れ続けた。
    由矎子はふず思いスマホの電話垳から増尟の名前を探した。壁掛け時蚈は午埌11時、䞀瞬逡巡したがタップした。
    「はい、増尟です」
    い぀もず倉わらぬ声で増尟が出た。
    「先生、わたしにはダメでした」
    由矎子はなぜか嗚咜した。
    「どうしたした 劂月さん」
    増尟の蚀葉に、由矎子は途切れ途切れに、しかも時系列なども関係なくこれたでの経緯を喋っおいた。その間、増尟を最䜎限の質問で話を聞いおくれた。
    1時間近く話だろうか。もう党おを説明し぀くした気がした。
    「劂月さん、リセットされおはどうですか」
    増尟は静かに蚀った。
    「リセットっお」
    「䌚瀟を枅算しお、ご自分も自己砎産しお、財産を敎理しお、皆さんにできる限りのお支払をする。そしお、劂月さんは、このお仕事を始めたずきのように小さく事業を再開しおもいい。その時点で返枈矩務はありたせんが、ご自分の気が枈むなら、その䞭から返枈を続けおもいい」
    「枡䌚さんず、蚭備メヌカヌずか、倧家さんずか、お客さんずか、みんなを裏切っお、法的に逃げるっおこずですか 他に方法はありたせんか」
    「今のお話を聞く限りでは、それが最善だず思いたす」
    「私はここたで12幎間、必死になっお自分で積み䞊げおきたんです」
    「だからこそ、䞀床降りる勇気も必芁ですよ。このたたでは劂月さん自䜓が壊れおいたいたす」
    「先生は、私に䌚瀟を蟞めろっお蚀うんですか それからアパヌトの1宀みたいな小さな゚ステで、もう䞀床みじめにやり盎せず蚀うんですか」
    由矎子は䜕故だか理由も分からず、増尟に感情的になっおいた。
    「みじめかどうかはご本人次第です。今でもそのような芏暡で堅実に経営されおいる方はいっぱいいたす。䜕床でもやり盎せるんですよ」
    理䞍尜に感情的な由矎子に察しお、それでも穏やかな増尟に察しお、さらに感情が高ぶった由矎子は「私は違いたす」ず蚀い捚おお電話を切った。冷蔵庫からペットボトルの氎を取り出し、少し飲むず、「そう、私は違う」ず由矎子は独り蚀を蚀い、玄関のカりンタヌからメルセデスのキヌをひったくり、乱暎に靎を履いお玄関の倖に出た。

    死神


    深倜の地䞋駐車堎から勢いよく飛び出した黒のSUVタむプのメルセデスは、亀通量の少なくなった囜道を疟走した。最寄りのむンタヌチェンゞからETCレヌンを通り、高速道路に入るず、远い越し車線を法定速床など無芖しお疟走した。ドむツ産たれの高玚車は140Kmだろうが、160Kmだろうが、たるで恐怖感を抱かせないほど安定し、か぀静寂だった。
    フロントりむンドりを飛ぶよう流れるオレンゞ色の街灯が照らしだすセピア色の䞖界は、時間を超えるように埌ろに流れおいく。珟実離れした速床感ず、あたりに察照的な車内の静寂。そこは、䞖界の党おから切り離された空間のようでもあった。
    2時間ほど高速道路を走るず、メルセデスは巊車線に勢いよくレヌンチェンゞしたかず思うず、そのたたむンタヌチェンゞを出る偎道に入った。急カヌブでタむダが軋む音がする。
    むンタヌチェンゞを降りたメルセデスは山間郚の囜道を疟走する。察向車はほずんどいない。挆黒の闇をLEDの癜いヘッドラむトが照らし出す。長いトンネルを抜けるず䞀気に䞖界が開ける。そこには、山ず山を塞ぐように、巚倧なコンクリヌトのダムが闇の䞭に浮かび䞊がる。囜道はダムの倩端をゆっくり匧を描くように走り、右手には山、巊手には切り取られた空間がある。ダムのもう䞀方の端はたたトンネルの入口になっおいる。メルセデスは、トンネルずトンネルの間の、匧のおおよそ真ん䞭で停車した。

    由矎子が運転垭のドアを開けるず、倖から冬の空気が気密を砎っお車内に入っおきた。
    車の倖に出るず、由矎子は歩道を枡り、ダムの瞁に歩みより、䞋を芗き蟌んだ。
    以前ここぞ来たのは父芪ず䞀緒だった。父芪が䞍治の病になったずき、由矎子にできるのは、いろいろな堎所ぞ連れおいき、景色を芋せ、矎味しいものを食べさせるこずくらいだった。この䞖の最期を少しでも奇麗な思い出ずしお蚘憶しおほしかった。今思えば、それは由矎子自身のためだったのかもしれない。
    その時に、このダムの先にある枩泉に行く途䞭、景色が有名なこのダムで䞀緒に写真を取った。あの時はちょうど山の朚々が玅葉で色づく季節だった。
    「目が眩みそうな高さだね。自分の死が間近でも怖いものは怖いんだな」
    父はそう蚀った。由矎子も父ず䞀緒に芗き蟌んだが、父を倱うこずに比べれば、こんな高さなど怖くはなかった。
    由矎子は、コンクリヌトの高欄の䞊ぞ足を掛けた。足がすくむような恐怖感。もう怖いものなんおないはずなのに。それは、脳ではなく䜓内のどこか、意思など関係なく瞮むように感じ取っおいた。
    由矎子は、スマホを取り出しお、前に向かっお攟り投げた。カン、ずいう金属に圓たった音がしお、その埌はやはり静寂だった。

    増尟の携垯に枡䌚工務店の枡䌚瀟長から電話が来たのは、劂月ずの深倜の電話をしおから3日埌のこずだった。枡䌚ずは、劂月の補助金の件で䜕床かZoomで打合せをしおおり、その際に連絡先を亀換しおいた。
    「先生、倧倉ですよ」
    「どうしたんですか 枡䌚さん」
    「劂月さんが その、自殺されたした」
    「えっ 」
    「うちも党然お支払いただけなくお、先日お店に䌺ったばかりでした。先生は、こんな状況なのをご存じだったんですか」
    枡䌚の蚀い方には増尟ぞの非難が僅かに籠っおいるようだった。
    「いえ、぀い先日お電話をいただいお、初めお状況を知りたした。補助金を申請される前に、すでにご自身の名矩でかなり借入れがあったそうで、そこたでは私も把握しおいたせんでした」
    「そうですか。うちもどうなるんですかね。うちみたいな小さな工務店では、1件の工事代金でも死掻問題なんですよ。しかも、もう殆ど完成間近っおずころで。確かに、棟䞊時の入金がなかった時点で工事を止めるのが筋なんですけね。職人さんのスケゞュヌル組んじゃっおるんで、急に䞭断なんおそんなこずできないですしね。たさか払っお貰えないなんお思わないですし、だっお補助金がバックにあるのに」
    「既存事業の資金繰り、補助金の審査、銀行の融資はそれぞれ別で動いおいたすからね。それぞれがそれぞれの事情で。本来は、自己資金でもやる事業をバックアップするのが補助金ですからね。補助金ありきや、補助金を取るために事業をするず本末転倒ですよ」
    「でも、先生はそれで皌いでいるわけでしょ でも今回は先生もタダ働きですか それずも前金で党郚貰っおいるんですか」
    枡䌚は増尟が同じ境遇なのか、逃げ切りなのかが気になるようだった。
    「はじめの採択以降の報酬は圓然貰えおいたせんよ」
    「そうですか、䌌たようなもんですね。ずんでもないお客に匕っ掛かったものですねお互い」
    その埌、少し今回の経緯を枡䌚に聞いお、電話は終わった。
    増尟は、埌味の悪い数カ月を過ごしおいた。
    事務所の窓からは、新緑の街路暹が倪陜に照らされお䞖界が゚メラルドグリヌンに茝いお芋えるが、増尟の心䞭は未だに冬の暹海を圷埚っおいるようだった。
    い぀ものように、事務所のチェアに背䞭をゆだねおスマホのネットニュヌスを取り留めもなくスクロヌルしおいた時、䞀぀の蚘事が増尟の目を捉えた。 
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    『
    株匏䌚瀟枡䌚工務店が倒産』
    地域密着型の工務店ずしお事業を展開しおいた株匏䌚瀟枡䌚工務店は、取匕先の支払遅延などの圱響により資金繰りが悪化し、支払䞍胜に陥ったため、2022幎5月16日、地方裁刀所ぞ砎産手続開始を申し立おた。
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    たったこれだけの、画像すらない地方版の経枈蚘事だった。
    増尟はそのたたスマホで枡䌚の番号を探し電話をかけた。
    「どうも先生、枡䌚です」
    「お䞖話になりたす。増尟です」
    「ああ、ニュヌスですか」
    「ええ、今芋おびっくりしお」
    「うちみたいな小さな工務店にずっお2000䞇円以䞊の焊付きは臎呜傷になり埗るんですよ。たあ、それはトドメみたいなもんで、いろいろず痛んではいたしたけどね」
    「結局回収は難しいわけですね」
    「ええ、劂月さんの䌚瀟には、資産は党くなく、あの䜜りかけの新店舗ず䞀郚のリヌス蚭備だけです。しかも、土地は劂月さん個人の名矩ですからね、建お掛けの店舗をどうするこずもできたせん。䌚瀟の方は劂月さんが圹員1名、100株䞻で、ご遺族が盞続攟棄をしたために、䌚瀟の株匏は盞続財産枅算人の管理䞋です。䌚瀟でも個人でも倧小かなりの数の債暩者が存圚するんですが、個人資産は䟋の土地ず自宅マンションしかない状況で。うちが回収できる芋蟌みはほがない䞊に、回収たで䜕幎もかかりそうな状況なんですよ。建材屋や職人はそんなに支払を埅っおくれたせんからね。これ以䞊被害を広げないために䌚瀟を枅算しお、自宅を売っお党おチャラにする぀もりですよ」
    「そうでしたか。枡䌚さんはどうされるのですか」
    「たあ、自宅を売っお䌚瀟の連垯保蚌分の借入や買掛は党郚返せそうなので、粘っおみんなに迷惑をかけるよりも早めに決断しお出盎す぀もりです」
    「たた䌚瀟を」
    「いえいえ、䞀職人ずしお珟堎に出たすよ。たた、枡䌚工務店を再興できる日を目指しお」
    「そうですか。是非、再興させおください」
    「先生、時間が経っおみるず、あの人、劂月さんもコロナの犠牲者だったのかもしれたせんね。コロナずいうか補助金の」
    「そうかもしれたせん」
    「だっお、コロナが無ければあんな補助金は出なかったし、あんな補助金が無ければ、倉な思いに振り回されお事業を拡倧するこずもなかった。きっず、今でもあの堎所で゚ステをやっおいたんじゃないかず思うんですよ」
    「たぶん、そうだず思いたす」
    「そういう意味では、補助金っおいう熱病に掛ったんですかね」
    「そうですね」
    「先生は、補助金の死神みたいな存圚ですね。あっ、倱瀌、他意はないんです。぀い、その 」
    「いえ、いいんですよ。私もたたに考えおしたいたす。私が手䌝わなければ、劂月さんは今でも生きおいたんじゃないかっお」
    「いえ、そんなこずはありたせんよ。既存事業がコロナで行き詰っおいたから補助金に倢を芋たんです。私だっお工事を断っおいれば同じこずですよ。私が䜙蚈なこずを蚀いたした。先生、すみたせん。忘れおください」
    「気になさらず、必ず枡䌚工務店を再興しおください。楜しみにしおいたす」
    「やっおみせたすよ」
    枡䌚は力匷く蚀うず「倱瀌したす」ず蚀っお電話切った。今砎産した人間ずは思えない力匷さだった。

    「補助金の死神か」
    増尟はそう呟くず、十幎前にしたい蟌んだ煙草の箱を机の匕き出しから取り出した。
    䞀本だけ口に咥え、火を点けた。
    玫煙は春の日差しの差し蟌む事務所をゆっくりず挂い、やがお窓の倖の新緑ぞ溶けおいった。

    改定履歎

    2026幎7月5日 校了 アップロヌド


     
     
    アノニマスオです。 XやYouTubeでお䞖話になっおおりたす。 䞭身は䞭小蚺断士登録19幎目ですが、 16幎目から盎接的な蚺断士掻動的なものずは少し距離を眮いおいたす。

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