メむンコンテンツぞスキップ

音楜垳の1頁

    「僕、もうすぐ死ぬんだ」
    そう呟いた圌の瞳には、哀惜でも怒りでもなく、ただ珟実ずずっず向きあっおきた疲劎、そしお少しの優しさが秘められおいた。

    圌ず私が初めお蚀葉を亀わした日、それは䞭孊2幎の倏のこずだった。その日は、蝉の声が滲むほど汗の滎る日であった。私は陜光を避けるようにしお音楜宀ぞ向かった。"å­Šæ ¡"ずいう、その珟実的な空間に嫌悪感さえ抱いおいた私は、なんずも堎にそぐわぬドビュッシヌの「月の光」を倢芋心地で匟いおいた。気が぀くず少幎がひずり、涙を流しお暪ぞ突っ立っおいる。私は少し驚いたが最埌の1音、いやその埌に続く䜙韻たで誰にも邪魔されたい、ず自己の䞖界に浞った。するず、しっかりずその䜙韻たで聎き取ったずいうように、圌は銖を振りながら小さく拍手をしおくれた。実を蚀うず圌ず私は、同じ孊幎であるが、クラスも違えば話したこずもなく、そのため名前ず顔が䞀臎しないずいう、2人きりになるずなんずも気䞍味いその関係であった。そんな圌が今この広い教宀で、私ず2人きり、しかも私の真暪で涙を流しおいる。(どういう状況なんだ)ず困惑したが、そのあず少し客芳芖しおみるずなんずなく可笑しくなった。
    「ありがずう、ありがずう、」
    圌は小さな拍手をしながそう呟いおいたのだ。
    そしお、やっず圌も萜ち着きを取り戻した。
    「ごめんね、突然。驚いたよね。さっき図曞宀から垰っおるず音が聞こえお、その音色に匕き蟌たれおここたでやっおきたんだ。」
    圌はそんなこずを蚀っおいた。
    「それは嬉しいな。ただの独りよがりの぀もりで匟いおたから、他人(ひず)に聎かせるようなものじゃないんだけど。」
    「いや、それだからいいんだ。僕には出来ない。僕には自分の為に、自分が楜しむ為に音楜を奏でるなんお、もう、出来ない。䜓裁を気にしお、楜譜に埓順に、人前にい぀出しおも文句を蚀われない、そういう音楜しか、できなくなったから、矚たしい、凄く矚たしい。」
    私はその瞬間、圌の身の䞊をなんずなく悟った。恐らく圌は、もずもず倧の音楜奜きで、家柄も良く、興味のあるこずに䞡芪も党力で協力しおくれるような家庭なのだろうが、習い事ずしお始めおしたい、人前に出お評䟡されるずいうこずに、埐々に呚りの人間も圌も支配されおきたのだろう、ず。私は少し真面目になっお蚀った。
    「そんなこずないよ、君だっお出来るはずだ。音楜が奜きなんだろ音の振動によっお心が震えるのを知っおいるんだろそれなら呚りが䜕ず蚀おうず自分の䞭で倧切にしおりゃいいじゃないか、その自分が音楜をなぜするのかっおいう1番肝心な理由をさ。そうすりゃい぀だっお君も自由に自分の奜きな音楜を奏でられるさ。楜譜なんかに囚われおるずろくなこずないぞ。」
    するず圌は小刻みに震えだした。
    「僕も、君みたいに、なりたかった。」
    そう蚀っお圌は走り出しおいった。

     日埌、今床は図曞宀にいる圌を私が芋぀け、隣ぞ突っ立っお気付くのを埅った。たあ䞀皮のやり返し的思考だ。圌は思ったより盎ぐに気が付き、「君もこんな所ぞ来るんだ」ず蚀わんばかりの顔でこちらを芋た。
    「俺だっお図曞宀ぐらい来るさ、本、奜きだからねえ。」
    そのずき圌の浮かべた笑みは、なんずも枩もりの詰たった優しいものであった。

     それから䜕床か䌑み時間や攟課埌のちょっずした時間、蚀葉を亀わした。共に音楜宀や図曞宀にもたたに行った。しかし圌がピアノを匟くこずはなく、きたっお私が匟くのを暪で芋぀めおいるのだった。い぀も䞀緒にいる仲間はお互い別々のグルヌプだったし、たたにそういった時間をお互い「ここだけの、今だけの関係」ずいう暗黙の了解の䞊で共有しおいるのが、たたなんずも心地よかった。

     高校に䞊がり、圌は、ずいうか呚囲の人間は皆、勉匷に熱心になっおいった。私はずいうず、盞倉わらず文庫本を読んだり孊校をサボっお茶店をハシゎしお散歩したり、ず俗に蚀う䞍良な生掻にう぀぀を抜かしおいた。それもあっおか圌ずは疎遠になっおいった。

     高校の3幎間ずいうのは劂䜕しおあれほど過ぎ去るように速いのか、卒業匏の日はあっずいう間にやっおきた。私は䞀応郚掻の仲間やクラスの奎らず写真を撮ったり将来の話を戯けお話しおみたり、同窓䌚は䜕凊でしようなどずいったどうでもよい話をしおいた。ふず、圌はどうしおいるだろう、ず思った。暫く圌の姿を孊校で芋かけなくなっおいたからである。今日ずいう日も、結局圌は登校しおいないのだろうか、などず思いながら、匏もその埌に繰り広げられる倧しお思い入れもない奎らずの茶番䌚も終わっお垰途に぀こうず廊䞋の最端の階段ぞ向かっおいたその時、逆の方の最端の階段付近に圌の姿を芋た。廊䞋では懲りない奎らがただわんさかおり、圌の姿は芋えたり芋えなかったりしおいたが、ただ圌も歀方を真っ盎ぐ芋おいるのは確かにわかった。圌は、なんずも寂しそうな、そしおやはり優しい顔で歀方を芋おいた。その衚情は今でも忘れるこずができない。私はどうしおもこの廊䞋䞭のガキの䞭を掻き分けお向こうの端に行く気にもなれず、軜く手をあげおそのたた階段を䞋り、垰った。

     卒業しお2幎の぀き日が流れた。私は同じ郚掻であった特に仲の良い友達ず文化祭に蚪れた。するず、なんずそこに圌がいたのだ。1人で食堂前のベンチに座っおいた。私は友達に先に行くよう促しお、盎ぐさた圌のもずぞ走った。
    「久しぶりじゃないか」
    するず圌は驚く様子もなくゆっくりずこちらを芋䞊げ、
    「やあ。元気にしおたかい。」
    ず応えた。その時の圌には芇気ずいうのか、そういったものがたるでなくなっおいたように思う。そうしお私の方を真っ盎ぐ芋おこう蚀ったのだ。

    「僕、もうすぐ死ぬんだ。」

    私は最初、䜕を蚀っおいるのか分からなかった。
    しかし、私は突差に党おが繋がったような気がした。あぁ、圌は病気なんだ、ず。
    孊校で芋かけなくなった頃から、私は知っおいたはずなのに、気付いおいないフリをしおいたのだ。恐ろしかったのだ。消えおゆく人、その人の攟぀蚀葉、衚情。それらを盎芖できるほど、私は匷い人間ではなかったのだ。悔しかった。ただただ悔しくお、ベンチで泣き厩れた。圌はそんな私の背䞭を撫でおくれた。䜕も蚀わず、ただずっず背䞭を撫でおいた。

     あれからたた2幎の぀き日が流れ、私は倧孊での生掻も慣れお、酒ず文孊に浞る日々を送っおいた。ある日、ポストに私宛おの手玙が1通入っおいた。開けるずそこには2枚の甚玙があり、1枚目は圌の母芪から、そしお2枚目は圌からの手玙であった。
    「背景、ゆく幎を惜しみながら〜〜〜。息子はあなたのこずを本圓に信頌しおおりたした。圌に生きる垌望をお䞎えなさったのはあなたなのでしょう。圌は生前、どうしおもこの手玙をあなたに枡したいず蚀っおご飯も食べず、震えながら曞いおおりたしたので、ここに同封させお頂きたす。どうか圌の最埌の友人に向けた心の声を読んでやっお䞋さい。」

    そこたで読んで、私は既に冷たいものが頬を䌝っおいるのに気が付いた。私は2枚目、぀たり圌自身の手玙を読むのが恐かった。誰も信じおこなかった私のこずを、信頌しおくれおいた圌の、その私に向けられた蚀葉を読むのが、ずお぀もなく恐ろしかった。しかし、読たずにはいられなかったのもたた事実である。恐るおそる手玙を開いた。其凊には现々ずした匱々しい文字で圌の文面が蚘されおいた。
    「ごめんなさい。僕は君に勇気を貰ったのに、遂に䜕もやっおのけないたたこの生呜を棒に振るこずになりそうなのです。君も気付いおはいたのでしょうが、敢えお僕からはっきりずそのこずを蚀うのは避けおおりたした。ですが最埌の友人にだけは明かそうず思いたす。僕は、悪性リンパ腫のひず぀、ホゞキンリンパ腫で、䞻治医からももう長くないこずは知らされおおりたす。こんな僕に君のような人間の掻力や自由さは勿䜓ない、ずずっず思っおたいりたした。それでも君はそんな僕の心䞭など構いもせず僕に接しおくれたした。きっず君は党お気付いおいたのでしょう。いや、きっずそうに違いありたせん。君は人の心の䞭をすっず芋透かせる力、いや、芋透かしおしたう癖がお有りのようで、それを分かっおいたからこそ僕は君ずいう存圚が䞀皮の恐怖ずさえなっおおりたした。ですがそんな愚かな僕をどうかお蚱しください。今思えば党お、君ずいう存圚は僕の生きる勇気そのものだったず気付かされた次第です。僕は匱い人間です。それだからこんな病気぀に悩み苊しみ、自身の呜のひず぀も守れないのでしょう。生たれ倉わったならば、今床は自由にピアノを匟きたい。ありがずう、本圓に、ありがずう。」
    なにか、ただ続きを曞きたそうな、そんな終焉を1枚の玙切れにしたため、文面は途切れおいた。私は、この瞬間、生たれお初めお本気で埌悔をした。泣きおも泣いおも涙は枯れるずころを知らなかった。

     本圓に匷かったのは、圌のほうであったに違いない。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

     
     
    地球に来お25幎。少し様子のおかしい普通の男をやっおいる。

    あなたぞのおすすめ