GorillazとSparks─「ポップと風刺」で繋がる30年
2026年のGorillazのアルバム『The Mountain』の先行シングル「The Happy Dictator」でSparksが参加していると知ったとき、私はSparksのことをまだあまりよく知らなかった。曲はすごく好きだったので、Sparksについての映画『The Sparks Brothers』(エドガー・ライト監督、2021年)を観てみることにした。それで一気に、デーモンがなぜSparksに「独裁者の皮肉」を依頼したのかがわかった気がした。
1995年、マイル・エンド・スタジアム
実は、デーモンとSparksの接点は今回が初めてではない。
1995年、Blurはロンドンのマイル・エンド・スタジアムで大規模なフェスティバル形式のライブを行った。サポートアクトはすべてデーモンの指名だったとされており、その中にSparksがいた。

the boo radleys, Sparks, dodgy, The Cardiacs, The Shanakiesなどなど、このあたりのバンドは正直全然詳しくないんだけど、少し調べただけでも普通に人気のある若手だけじゃなくて明らかに癖の強い存在が混ざっていて、いかにもデーモンの趣味が出ているラインナップだなと思った。(観客はついてこれていなかったという記載もあった笑)
で、デーモンがわざわざSparksを指名したということは、1995年の時点でデーモンはすでにSparksを「呼ぶべき存在」として認識していたということだ。
「演劇性」という共通言語
Sparksの音楽は、ポップなのにどこかおかしい。キャッチーなメロディに風刺やアイロニーが乗っていて、笑っていいのか、批判として受け取るべきなのか、少し迷うようなところがある。
映画の中でロン・メイルが、演出やビジュアルが後から付いてくるのではなく、音楽そのものがそもそも演劇的なのだ、というようなことを語っていて、それがすごく印象に残った。
その感覚は、デーモンともかなり親和性があると思う。デーモン自身、もともと演劇を学んでいた人だし、Blurのブリットポップ期にも過剰さや、どこか演じるような感覚があった。その後のGorillazでは、キャラクターや架空の世界を使って、ポップでありながら風刺も批評もできる場所を作っている。
つまり、Sparksもデーモンも、ただ難しいことを難しい顔でやるのではなく、ちゃんとポップな形で届ける。政治的な皮肉も、個人的な喪失も、どこか口ずさめるものにしてしまう。そのあたりが、「The Happy Dictator」でこの組み合わせが妙にしっくりきた理由なのかもしれない。
「The Happy Dictator」が生まれるまで
デーモンが「The Happy Dictator」のアイデアを得たのは、娘のミッシーと一緒に行ったトルクメニスタンへの旅がきっかけだったとされている。当時の独裁者が「国民が不安なく眠れるように」という理由でネガティブなニュースの報道を禁止していたという話を聞いて、その発想の不条理さにインスピレーションを感じたらしい。
この「不条理さをポップに変換する」という作業を誰に頼むか考えたとき、デーモンの頭にすぐ浮かんだのがSparksだったという。デーモンはSparksを「アートポップの大御所(great great grandfathers)」と表現し、この種の皮肉を正しく扱える相手として依頼した。
制作にあたってデーモンは「これをやってほしい」という指示を一切出さなかったと語っている。理由は「彼らはSparksだから」。その一言に、デーモンのSparksへのリスペクトが全部入っている気がする。
コラボの経緯も面白い。
2023年のPrimavera Sound Portoで同じフェスに出演した後、Sparksがデーモンのドレッシングルームに「何かあれば電話してね」とメモを残したらしい。
ちなみに、そのときのフェスでデーモンがSparksのステージを楽しんでいる様子も映像で残っていて、そのパフォーマンスを体感していたことがわかる。
その後、自宅のデヴォンの海辺でフィッシュ&チップスを食べながらZoomで話したら(Zoomで話すんだ…!?とか、食べながら電話するんだ…とか色々思った笑)、家に戻る10分ほどの間にロン・メイルがもうアイデアをまとめてきたという。
デーモンは「ロンはもう80歳なのに、あのフットワークの軽さとクリエイティビティは本当に驚異的だ。自分も80歳になったらあんなふうでいたい」と語っている。 (たぶん本当にそうなれる人だと思うし、できればそのときも元気でいてほしい。)
ここからが実感の話
『The Sparks Brothers』を観てみると、まずSparksというバンド自体がかなり独特だった。
正直なところ、それまで私はなんとなくSparksをUKのバンドだと思っていた。実際はアメリカ出身で、本国では「奇妙すぎる」と受け止められ、グラムロック全盛のイギリスで大きく評価されたという経緯があるらしい。
それも含めて面白いと思ったのが、あの独特な歌声とステージの空気だ。かなり癖が強いのに、なぜか耳に残る。しかも「常に新しいことをやる」というスタイルをずっと貫いていて、商業的にはリスクのあることもやり続けているのに、50年以上活動を続けていまだに新作を出している。それを兄弟でやっているというのも含めて、ちょっと他にいない存在だと思った。
一瞬、シアトリカルな感じがQueenっぽいとも思ったけれど、実際はSparksの方が先で、方向性も少し違う。Queenが壮大さに振り切るのに対して、Sparksはもっと風刺とアイロニーに寄っている。その感覚が、デーモンとかなり近いところにあるように感じた。
5月5日にSparks×コーネリアスのライブに行く。
去年Sparksを知った時点では、すでに1月の来日公演が終わったあとで、「もう少し早く知っていれば…」という気持ちになった。本当は、GorillazのライブでSparksとの共演を観られたら最高だと思っていた。そしたらその前に何とSparksがまた日本に来ることになった…というわけで、これはもう観るしかない、と思った。
Sparksを実際に観るのは初めてなので、ロン・メイルのあの無表情なキーボードと、ラッセルの過剰な動き、そしてデーモンが「mind blowing」と言っていた歌声を、自分がどう受け取るのか楽しみ。
(追記:行ってきました~)
(2026/6/21 追記)
この記事を書いたあと、さらに続きがあったので書いておきたい。
2026年6月20日、ロンドンのTottenham Hotspur Stadiumで行われたGorillazのライブで、Sparksはサポートアクトとして出演していた。
「The Happy Dictator」のゲストとして本編に少し登場しただけではなく、Gorillaz本編の前に独立した時間があったみたい。さらに会場では、「SPARKS × JAMIE HEWLETT」の限定Tシャツも販売されていた。
Available at @SpursStadium today: SPARKS by JAMIE HEWLETT limited edition t-shirt ✨ pic.twitter.com/U7DqFM1sL9
— S P A R K S (@sparksofficial) June 20, 2026
1995年、Blurとして当時の大きな場にSparksを呼び、30年後にはGorillazとして最大級のスタジアム公演の前座に迎えている。なんか、こういうのっていいな。
