
3D彼氏第2章 第2話「エンドルフィン研究所」
【あらすじ】
ある朝、亜矢は不思議な研究所に迷い込む。
その名も「エンドルフィン研究所」。
そこでは恋愛、腸活、妄想、創作、イケメン観察、乳酸菌の謎など、世界の誰も研究していないテーマが日夜まじめに研究されていた。
相棒の研究員リョウとともに、亜矢は「なぜイケメンは腸内環境が良さそうに見えるのか」「妄想はどこまで現実を楽しくできるのか」などの難題に挑んでいく。
笑いながら幸せホルモンを増やすことを目的とした研究所で巻き起こる、ゆるくて摩訶不思議な日常ファンタジー。
現実と空想の境界線が少しずつ溶けていく中で、研究員たちは今日も新たな発見を追い求める。
六月の終わり。
長崎は雨だった。
営業所の窓を打つ雨音を聞きながら、亜矢はパソコンの画面を見つめていた。
契約書。
変更契約書。
再提出。
修正。
再確認。
電話。
メール。
電話。
メール。
変更契約書。
契約書。
変更契約書。
契約書。
「……。」
もう何枚目かもわからない。
机の上には付箋。
ノート。
マニュアル。
赤ペン。
飲みかけのコーヒー。
そして、疲労。
亜矢は椅子にもたれた。
窓の外では雨が降り続いている。
「……もう知らん。」
その言葉だけを残して、席を立った。
数分後。
「あれ?」
営業所のトイレで、亜矢は首を傾げた。
「あれ?」
「めっちゃスッキリした。」
その瞬間だった。
視界が白く光った。
気がつくと、見知らぬ研究所に座っていた。
ガラス瓶。
試験管。
色とりどりの液体。
壁いっぱいの本棚。
そして、
妙に楽しそうな二人の研究員。
「ようこそ。」
白衣の少女が胸を張った。
「エンドルフィン研究所です。」
「は?」
「私は研究員亜矢。」
「私やん。」
隣では眼鏡の少年がノートをめくっていた。
「研究員リョウです。」
「増えた。」
「本日の研究テーマはこちら。」
黒板が回転する。
そこには大きく、
『なぜ排便後は人生がどうでもよくなるのか』
と書かれていた。
「待て待て待て。」
「非常に重要な研究です。」
研究員亜矢は真顔だった。
「最近の所長は願い事を叶えようとしすぎています。」
「……。」
「100万円。」
「……。」
「ハルト。」
「……。」
「将来。」
「やめて。」
研究員リョウがノートを閉じた。
「仮説です。」
「はい。」
「幸せになってから願えばいいのでは?」
研究所は静まり返った。
「……天才か。」
「研究費ください。」
「ない。」
「タルト。」
「それ研究費なん?」
「研究費です。」
「絶対違う。」
その頃。
福岡。
ハルトは窓の外の雨を眺めていた。
机の上には契約書の山。
変更契約書の山。
会議資料の山。
「支店長。」
「……。」
「支店長?」
「……。」
なぜだろう。
胸騒ぎがする。
誰かが。
どこかで。
とてもくだらないことを始めた気がする。
「支店長?」
「いや……なんでもない。」
ハルトは再び契約書へ目を落とした。
まだ知らない。
長崎で、
エンドルフィン研究所が設立されたことを。