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「おかえりなさいと言われるまで」―生涯有効の帰国渡航書 ―南米移民の話


皆さんは、在外領事館が発行している
「帰国のための渡航書」という書類をご存知でしょうか。


折りたためば見た目はパスポートのようになりますが、
正確にはパスポートではありません。ICチップ付きでもない。

ただの紙です。白地であるのが特徴です。

けれどこの一枚で、日本に入国できる。
緊急時に一度だけ、紛失や盗難など、
やむを得ない事情の「臨時パスポート」です。

現在でも申請すれば発行が可能です。
通常の有効期限は、およそ10日前後。

在外日本国領事館

しかし——

実はかつて、
無期限の「帰国の為の渡航書」が発行されていた時代があります。


戦後移民と「無期限」の約束

それは主に、戦後の国策移民の方々に発行されたものでした。

南米のジャングルへ。
インフラも整っていない未開の地へ。
いつ日本国の領事館が設置されるかも分からない場所へ。

それでも国は人々を送り出しました。

だからこそ——
インターネットも、パソコンも無い時代、
何かあった時は、必ず帰ってこられるように。

"帰国時に無効"となる
「移住時携行パスポート」が、
移民者全員に配られたのです。

それを、私は一人の男から教わった。

彼の名前を、ここでは『サトシ』とする。
南米の小国で四十年生き、
すべてを失い、
そして渡航書で日本へ帰ってきた男だ。

これは成功談ではない。
美談でもない。
ただ、「帰る」という行為が、どれほど重い決断だったのか。
その記録である。


40年後に使われた古びたパスポート

これは実話がベースの物語です。

当時中学1年生だった少年が、
親に連れられて南米へ移住しました。

言葉も文化も違う世界。
簡単な人生だったはずがありません。

数年後、現地で成人を迎えた彼は、
移民時に携えていた子供用のパスポート
(当時は3人の子で一つのパスポートだった)から、
成人用のパスポートが現地の在外領事館から手渡された。

1970年頃に発行された、黒い成人用パスポート

ICもない。
QRコードもない。
ホログラムすらない。
写真は割印。

それでも、それは“本物”でした。
そこから40数年の南米生活。

場所は変わり、1999年6月、日本の成田空港。
入国審査官は、そのパスポート兼渡航書をじっと見つめる。

約30年前の発行日。

青年時の写真が霞んでいる。
携帯している本人はすでに50歳。

しばらく沈黙が流れたあと、
審査官が彼にかけた一言。

私はその話を聞いた時、
胸の奥が熱くなりました。
だけど、少し話を戻そう。

第1章 スタンプのない入国

1999年。

世間はノストラダムスの予言で騒いでいた。
「7の月」が来る、その1か月前。

サトシ(仮名)は、険しい表情で妻の手を握りながら、
南米アルゼンチンへ続く橋を渡っていた。

緊張の面持ち。

アルゼンチン側の入国管理局の建物が見える。
だが彼は、そのオフィスを素通りした。

入国スタンプが押されないまま——入国した。

 
 
南米出身の日系2世 古参パデラー【パデルする人】 日本で大学を卒業後、現在はフリーランス (日西通訳、SE、作家業) メキシコを拠点に、 ラテンアメリカ、スペイン語、パデル、 異文化の「分かったつもり」 現地視点で書いています。

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