
21時44分、丸裸の罪滅ぼし
本が多くなってきたので本棚を増やした。
正確には、本棚の選定、発注、組み立てまでのすべてを、夫がやってくれた。
本の8割は私が買ったものなので、入れ替え作業まで任せるのは、さすがに申し訳なさすぎる。そう思って、夫が日中仕事に行っている間に、本を棚に納めてしまうことにした。途中、うっかり表紙を開いてすっかり読み耽るなどしたが、一応すべての本を収納しきった。
仕事から帰って来た夫を素知らぬ顔で迎えた。心では「わあ、作業してくれたの」と満面の笑みで喜ぶだろうと期待していた。しかし彼は期待とは裏腹に、眉を下げ、何か言いたげに小さく笑っただけだった。
私は彼の想定とは違う場所に本を並べてしまっていたのだ。新しい本棚には、文庫本や新書より背の高い漫画本を入れるつもりだったらしい。
日中の労働が徒労に帰してがっくりした。時刻は21時44分。もう一度、本を一から納めなおす気力はなかった。
「こうしてほしいって、言ってなかったからねえ」と言いながら、夫は本を並べ直し始めた。
ジャンル分けと美観が両立する収納順を、丁寧に検討していく。夫の作業ぶりは、少し前にX(旧Twitter)で知った、京極夏彦の本の収納に対する狂気じみたこだわりと作業量を思い出させた。根気とセンスという点で、私にはとてもできない芸当だ。
夫は床にあぐらをかき、私の本のタイトルやサイズ、カバーのデザインなどを、順繰りに注意深く観察した。
やたらに多い、キャリアや生き方にまつわる本。続かなかった趣味の入門書。大量に付箋の貼られたミステリー考察本。折れもキズもない真っ新な韓国語のテキスト。およそ30冊ずつある、もう読んだアガサ・クリスティーと、まだ読んでいないクリスティー。全8巻だが、曹操が死んだので5巻で読むのを止めた吉川英治の『三国志』……。
自分の嗜好や悩みや欠点をスキャンされているようで、ひどく恥ずかしかった。本棚を見せるのは裸を見せるより恥ずかしい、みたいなことを、朝井リョウやオードリー若林が言っていたが、まったくその通りである。
夫は、本の内容が一目で判別できないとき、裏表紙のあらすじや目次を確認した。それでも分からないと「これどんな本?」と聞いてきて、私の羞恥心を無自覚に、しかし執拗に煽った。
が、私はその辱めに耐え、彼の一挙手一投足、表情や呼吸の変化を、隣にしゃがんで見守った。私の本を眺めながら、彼が私をどう捉えているのか、つぶさに感じるためだ。
彼の心が動くのを察知するたび、抱えた膝頭に、顔を深く埋めたくなった。しかし、結局収納作業までお任せしてしまった私は、この恥に耐えるしかない。丸裸の罪滅ぼしは、風呂休憩をはさみつつ、まもなく日付が変わる時刻までゆるゆると続いた。