
ジャッキー・スマイルを独り占めした日。
ひとつ、自慢させてほしい。
私はジャッキー・チェンに会ったことがある。
しかも、サインをもらったとか握手したとかいう話ではない。
ジャッキーが私にだけ微笑みかけてくれたのである。
大学生の頃、某百貨店をぶらぶらしていた際、トイレに行きたくなった。
婦人服売り場のトイレが非常に混んでいることを承知の私は、紳士服売り場を目指した。
紳士服のフロアにつくと、何やらそこは異常な事態が発生しているようだった。
大勢の人がざわめきと熱気を放って群れをなし、店員までもがそこに集まらんとしているではないか。
あまりの人の多さに、その中心で何が起こっているのかがわからない。
興奮した様子で店員が、
「ジャキー・チェンきてる!!!!めっっっちゃかっこいい!!!!!!」
と飛び跳ねながら内線をかけている姿を目にしてやっと事の次第がわかった。
今だとこの店員はアウトな気がするが、まあ昔の話なので。
なんと、日本のこんな地方都市に、ジャッキー・チェンがいるというのだ。
ありえない。私はジャッキー・チェンが大好きなのだ。
こうしてはおれないと、人ごみを掻き分け、中心部を除くと、そこには、黒いスーツを着たSPたちが5〜6人立っているのが見えた。
黒いスーツを着たSP!
そんなものが実在するんかと驚きつつ、これはジャッキーの存在も現実味を帯びてきたというもの。
群集をさらに掻き分け一番前へと飛び出した。
そこはポール・スミスのショップで、結界が貼られたかのようにそこから数メートルの距離を保って誰も近づかない。
まあサングラスをかけた黒人SPが立ってるしな。
しかし、特に立ち入り禁止とも書かれていないので、勇者としてショップ店内へと歩み寄ってみた。
SPはチラリと一瞥したくらいで微動だにしなかったので、何事もなくショップインできた。
そして、そこには……
パステルオレンジのスーツを着たジャッキー・チェン!!!!
ジャッキーーーーー!!!!!
ドキドキしながら、トップスを吟味されているジャッキーに近寄った。
店内、他に誰もいません。
隣に並び、適当にTシャツをとり、合わせるふりをしてそっとジャッキーのほうをチラリと見た。
ジャッキーは、同じくTシャツを合わせながら、こちらを見てニッコリと微笑んでくれたではないか!
ふっちゃけその後の記憶がない。
今なら、一緒に写真を撮ってもらったり、「子供の頃初めて見た映画はあなたの酔拳でした」とも伝えたい。
しかし当時はまだ携帯が普及し始めたばかり。
カメラもなければ英語も話せなかった。
なんの証拠も思い出もないが、だからこそ余計に、ジャッキーのあの笑顔が私の脳裏に焼き付いている。
ジャッキーには長生きしてまだまだ活躍してもらいたい。
成龙,我喜欢你!