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ケース36.リンゲルマン効果〜組織拡大に応じた責任分化〜

    あむろ

    ▶︎組織が大きくなるほど注意すべきことは?

    事業成長のために組織を拡大させていくことは重要であるものの、その一方で、組織が大きくなるほど、成果が上がりにくくなるという矛盾を感じたことはないでしょうか?

    経営の視点
    ・組織の成果を最大化したい
    ・個々の動きが見えにくくなる

    現場の視点
    ・自分の貢献を実感したい
    ・自分の仕事と組織全体の成果のつながりが見えにくくなる

    組織の規模が小さい時は、意思決定がスムーズに進み、各メンバーの貢献がダイレクトに成果につながっていたのに、組織が拡大するにつれて「個々の努力が埋もれる」、「分業が進むほど全体の生産性が下がる」といった課題が浮上してきます。

    本来、組織の成長は、より多くのリソースを活用してパフォーマンスを向上させるためのものです。
    しかし、現実には「なぜか以前よりも効率が悪くなった」、「メンバーは一生懸命働いているのに、成果に直結しない」という状態に陥ることが少なくありません。

    今回は、リンゲルマン効果を用いて組織拡大に応じた責任分化を考察します。

    ▶︎リンゲルマン効果

    集団の人数が増えれば増えるほど、共同作業において、メンバー1人あたりが供出する努力量は減っていく傾向があるとの理論。
    フランスの農学者 マクシミリアン・リンゲルマンによって提唱。

    フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンは、綱引きを使った実験で「集団の人数が増えるほど、一人あたりの力の発揮度合いが低下する」ことを示しました。

    1人で綱を引くときは100%の力を出しますが、
    ・2人だと各自の出力は約93%
    ・3人だと約85%
    ・8人になると約49%
    まで低下することが確認されています。

    これは「社会的手抜き(Social Loafing)」とも呼ばれ、集団が大きくなるほど「自分一人が手を抜いても影響は少ない」と”無意識に判断する”心理が働くことが原因とされています。

    この現象は、肉体的なパフォーマンスだけでなく、認知的パフォーマンスにおいても起こるものとされています。
    たとえば、大人数が出席する会議などで、ほかのメンバーが意見を出すことを期待して思考を止めてしまうような現象もリンゲルマン効果の一例です。

    組織が拡大し、分業が進むにつれて「自分の仕事が全体の成果にどれだけ影響するのか」が見えにくくなり、結果としてパフォーマンスが低下する可能性があります。

    では、リンゲルマン効果を防ぎ、組織のパフォーマンスを最大化するためにはどうすればよいのでしょうか?

    ▶︎組織目標と個人目標の連鎖

    「自分の仕事が組織の成果にどう影響するのか」を明確にすることで、メンバーのモチベーションを維持しやすくなります。
    MBOやOKRのように、組織の目標を個人レベルの目標に落とし込むフレームワークが有効です。

    組織全体のKPIだけでなく、各個人が「どの指標を改善すれば組織の成果に貢献できるのか」を把握できるようにすることで、集団の中での「自分ごと感」を強め、社会的手抜きを防ぐことができます。

    たとえば、京セラの「アメーバ経営」の考え方を取り入れることで、さらに組織の一体感を強化し、個々の貢献が明確になります。
    アメーバ経営では、組織を小規模な「アメーバ(ユニット)」に分け、それぞれが独立採算で経営を行う仕組みです。
    各アメーバは、収益やコストを明確にしながら経営的な視点で業務を進めるため、個々の成果が直接組織の業績に影響することを実感しやすくなります。

    また、努力が成果に結びついていると実感できないと、手抜きが発生しやすくなります。
    そのため、定期的な1on1やピアフィードバック、成果発表の場を設けることで、個々の貢献を認識しやすくすることが重要です。

    たとえば、Googleでは「gThanks」という社内ツールを活用し、社員同士が感謝や貢献を可視化する仕組みを取り入れています。
    こうした取り組みによって、一人ひとりの貢献が埋もれない環境を作ることができます。

    このように、組織が拡大する中でも、組織の成果と個人の貢献を明確にする目標管理と奨励を工夫することで、一人ひとりのモチベーションを高め、組織パフォーマンスを高めることができます。

    ▶︎適切なグループサイズを維持して階層化する

    リンゲルマン効果は、チームの人数が増えるほど顕著になります。
    そのため、チームを適切な規模に保ち、一人ひとりの責任範囲を明確にすることが重要です。

    心理学者ジョージ・ミラーが提唱した「マジカルナンバー7±2」の理論によると、人間が同時に処理できる情報の量には限界があり、一般的には5人〜9人の範囲が適切だとされています。
    この考え方をチーム運営に応用すると、適切なチームの規模もこの範囲に収めるのが理想的です。

    たとえば、Amazonでは「2ピザルール」を導入し、2枚のピザで満足できる程度の人数(5〜8人程度を上限とすることで、チームの効率を最大化しています。
    これにより、以下のような効果が期待できます。
    ・一人ひとりの役割と責任が明確になり、手を抜きにくい環境が生まれる。
    ・コミュニケーションコストを低減でき、意思決定が迅速に進む。
    ・「他の誰かがやるだろう」という心理を抑制し、心理的プレッシャーが高まる。

    一方で、組織が成長し、チーム数が増えると、個々のメンバー同士の関係性が希薄になり、組織の一体感が低下する可能性があります。

    ここで参考になるのが、イギリスの人類学者ロビン・ダンバーが提唱した「ダンバー数」の概念です。
    ダンバーによると、人が安定した社会関係を維持できる人数は150人程度が上限とされています。
    組織がこの規模を超えると、信頼関係の低下や情報共有の困難さが生じやすくなります。

    そのため、組織規模をマジカルナンバーの範囲(5〜9人)を超えて拡大する場合、ダンバー数を意識しながら、適切に階層化することが重要になります。

    Spotifyが採用した「Spotifyモデル」は、マジカルナンバーを超えた規模の組織でも、俊敏性と自律性を維持しながらスケールするためのフレームワークとして有効です。

    ① Squad:最小単位の自律チーム
    ・人数:5〜9人(マジカルナンバー7±2)
    ・特徴:プロダクトや機能ごとに独立し、意思決定を迅速に行う
    ② Tribe:Squadの集合体
    ・人数:30〜150人(ダンバー数)
    ・特徴:関連するスクワッドをまとめ、統一した目標を持たせる
    ③Chapter:専門スキルの横断型連携
    ・特徴:メンバー同士で学習・スキル共有を行う
    ④Guild:自由参加のコミュニティ
    ・特徴:関心のあるテーマで横断的なナレッジ共有を行う


    このように、マジカルナンバーとダンバー数の理論を活用することで、組織の規模が大きくなってもスピードと柔軟性を維持し、リンゲルマン効果を防ぐことができるため、組織の階層化の工夫が重要となります。

    ▶︎組織拡大に応じた組織を設計する

    組織が小さい時は、組織を新たな方向へ導くリーダーシップが必要であり、組織が大きくなるほど秩序と効率性で組織を円滑に運営するマネジメントの重要度が増していき、組織の成長が停滞するほど、またリーダーシップが不可欠になるといったように、組織の成長においては組織規模に適応したリーダーシップの発露が重要な組織戦略となります。

    ジョン・P・コッターの『リーダーシップ論』では、下記が述べられています。

    ・組織というのは、才能を育み、リーダーシップを後押しし、失敗と成功に学ぶことを奨励する場であるべきである。しかし、現実はリーダーシップの芽を無視し、適切なトレーニングもなく、ロール·モデル(手本)を示さないどころか、リーダーシップを発揮しようとして些細なミスを犯した人間を罰することがあまりに多い。
    ・成功している企業は、リーダーが現れるのを待ってはいない。リーダーの資質を有する人材を積極的に探し出し、その資質を伸ばすように設計されたキャリアを経験させている。慎重に選抜、育成し、その意欲を引き出すことで、多くの人材が内部で重要な役割を果たすようになる。


    リンゲルマン効果に注意しながら、リーダーシップの種が芽生える組織設計を工夫することで事業成長の礎ができるのではないでしょうか。

     
     
     
    学生時代にスタートアップに魅了されてスタートアップ村10年以上。人と組織をテーマに仕事しています。最近のHOTはAI×組織論のAX組織※発信内容は私見

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