メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byyuriha_spiritual

文字の庭 | ショートショート

    「対峙」

    それは、名もなき季節の変わり目だった。
    街の荒廃は、かつてないほどに人の心をささくれ立たせていた。誰もが自分の痛みを隠すために、より硬く、より鋭利な言葉を武器として振り回している。

    僕は、その喧騒を避けるように、街外れにある古い図書館へ通っていた。
    そこには、かつて誰かが読み捨てたままの古い本と、古い紙とインクの匂いが染み付いた静寂だけがあった。

    僕はそこで、ただひたすらに書いた。
    今はまだ、誰に届ける当てもない、
    自分という空間を保つための言葉たちを。
    ただ自分の境界線を保つために、
    紙の上に言葉を積み上げていたのだ。

    不意に、気配がした。三つ隣の席。
    ――気づけば彼女は、僕の背後に立っていた。
    本を閉じる音も、歩く足音さえしなかった。

    「空ばかり見て歩く人ね」

    まるで雲を掴むような物語だ、とでも言いたげに、彼女は僕の耳元で静かに囁いた。
    彼女の言葉は、鋭い銀の針となって僕の胸を刺した。
    その声には棘があったが、同時にどこか震えているようにも感じた。

    季節が初夏へと塗り替えられようとする中、
    この古い図書館だけは、冬の残り香を閉じ込めたような、埃の舞う冷えた空気の中にあった。
    僕は万年筆のペン先を止める。

    紙の上に広がるインクの庭。そこには僕が唯一守り抜いてきた、透明な風景がある。 
    文字は今、短冊を吊るした竹の葉のように、
    微かな風に揺れていた。

    彼女の瞳には、かつて見た夜空の川の記憶のように、冷たい光が宿っている。
    静かな図書館の片隅、現実の荒廃から隔絶されたこの場所で、僕たちは対峙していた。

    執筆 2026.7.6 / 編集 2026.7.7

     
     
    本当の希望は 空高くにあった 僕の頭上 遥か彼方の遠い所 でもそれは いつもすぐそばに 僕が呼べば すぐそこにあったのだ 僕が気づかずに 通り過ぎてしまっていただけなのだ 雲は風が連れてくる 僕の風が 不思議な雲を呼んで 空間を今 創り変えたのだ

    あなたへのおすすめ