
GEAR HEAD #83
――事務室――
右斜めにレンズを向ける
改札窓口が見える、窓口よりも壁の端に扉があり
扉の上に案内板が
[改札事務室]
図書館最奥までの道はシャッターで閉まっている、
おそらくシャッターの
重量はこの義手でも上げられないほどだ、
シャッターの開閉ボタンは事務室にあるはず
事務室の扉へ義足を動かす
タン
タン
義足の足音とともに改札の誘導音が鳴り響く
ピーン
カーン
タン
タン
窓口まで近づいた、事務室の中は一目見るだけで
内部の全体が把握できるほどだ
さほど広い室内ではない
12人ほどで入ると狭く感じそうな
こじんまりとした事務室だ
窓口側の机の上に書類や
タバコの燃え滓が多量に積まれた灰皿、
小さなトランジスタラジオ。
ブラウン管テレビと同じ大きさの
電源のついていない配置型電脳端末や
軽機関銃が置かれている、弾薬は入っていなさそうだ
北安兵の軽機関銃だろう戦後、都市の
主要な交通インフラは
北安領事団が対応しているらしい
全てではない多くの都市のインフラは
戦争で崩れていた。
戦時中は光路主義の“P戦法“により
都市の防衛は至難を極めていた
光路主義者は入り口からではなく“都市内部“から
都市を攻撃していた
その余波は戦後にも響いている。
一番奥の壁にシャッターの開閉ボタンが見え、
蓋が開かれたまま、鍵が差されている。
急いで閉めたのだろうか
義足を動かし事務室の扉へ進む
タン タン
事務室の扉の前に辿り着いた
隅の方で少しだけ照明の灯りが届いていない
スチール製のドアノブ、照明を鈍く反射させている
錆びた義手がドアノブを握る、
カチ
そのままドアノブを回す
ガチャ
空気が事務室の中へ流れていく
スゥ
事務室へ入り、扉を閉める
ガチャン
事務室の照明は、光量が少し弱い
長年使われてきたのだろう
開閉ボタンまで近づく合間
事務室入り口の近く、窓口の机に
視界が移る、机の上には書籍が置かれている。
表紙には男の写真と
青空の下、燃え上がる
ロケットの発射台が写されている。
ロバート・バーク[著]
アスミラ解放戦線
[異常な信仰者たち]
“監修市民管理委員会“
ギアヘッドが誕生してから
まだ年数の浅い時代、
軍隊が共和国に残っていた時代
アスミラ解放戦線の中心人物
ガルシャがギアヘッドに
暗殺される前に刊行されていた書籍だ。
ガルシャと共に写っている発射台は
人類史、二度目の月面着陸
宇宙船が打ち上げられようとしていた、その時
解放戦線の工作員により爆破された。
その日から宇宙計画は停滞していった
ピーン…
カーン…
改札の誘導音がくぐもって聞こえる。
一瞬だけ書籍を見つめた後
軽機関銃がある机に近づく、軽機関銃の横に、
黄ばみがかった色褪せたノートがある
[作業日誌]
作業日誌を手に取る
日誌には紙が挟まれている
紙が挟まれた頁を捲る
シュル
終戦後の最初期の改札記録だ
この頃はまだ北安領事団は北島におり
市民管理委員会が残留していた
——市民管理委員会からの要請で
都市外から来たギアヘッドの改札への進入は
他の市民と変わらず
IDカードを持っているものに限ることになります。
また改札を通ったギアヘッドの名簿を
市民管理委員会に提出するようにとのこと——
この日誌に挟まれた紙が名簿のようだ
——“右ノ項ハ本名デアル“
[スキャン=リチャード・メリル]“家族出迎エ“
[ヘルム=不明]“IDカードノミ所持“——
いくつか蛍光ペンで印をつけられている
印が付けられた一つ、
見知ったコールサインがレンズの視界に入る。
——[ロジック=神原ツトム]女学生ガ出迎エ“——
名簿には覚え書きのようなものが書かれている
——“ロジックは怪しいな神原ツトムは
ギアヘッド手術を受けていない“
“この女学生は神原ヨウカか神原スミコか?“
“神原姉妹は光爆弾起爆直後首都にいた記録あり“
“両親は爆弾起爆後に行方不明“
“本部から装甲師団の拠点にて
神原姉妹の存在確認報告あり“
“第三区画アパートに居住“
“磁場部隊に偵察させろ“——
パチッ…
事務室の照明が少し点滅し、乾いた音を発した。
このメモは最近書かれたもののようだ
筆跡が他の文字よりも力強い。
市民管理委員会が解散した後に
この記録を使い、北安が装甲師団の
メンバーを調べていたようだ。
ロジックは北安領事団に目をつけられていた
神原ツトム…ロジックの手術前の姓名では無いのか
神原姉妹がロジックを都市へ入れたようだ
その後にロジックは装甲師団に入ったのだろうか
終戦直後、ロジックは
列車に乗り都市へと向かっていった。
四体殺しのいる区画都市へ
終戦までの間、
ロジックは戦争終結後の自分たちの行方、
ギアヘッドの行方を気にしていた
戦後の混乱を予想していたのだろう
“お前と師団長ならギアヘッドの国を作れる“
装甲師団が最初に行った活動は
反ギアヘッド市民団体への武力制圧だ
この駅での銃撃事件に抗議していた市民団体を
装甲師団は襲撃した
それにより都市外のギアヘッドは
都市へのまともな進入を禁止された
それでも都市内部へ侵入し
装甲師団に接触するギアヘッドは多い
戦後のギアヘッドの指針の一つだ
装甲師団長の、四体殺しは。
視点を開閉ボタンに向け、義足を動かす
カタン、カタン
カラッとした音を義足は立てる
すぐに開閉ボタンに辿り着いた。
アイボリー色で少し汚れている、
ボタンは三つ
□ 開
■ 停
□ 閉
金属の指を開閉ボタンに近づけ一番上のボタンを押す
金属の指とプラスチック製の
ボタンが触れ、音が鳴る
カチ
シャッターの作動音が外から聞こえてくる
ズゥゥゥゥゥゥン
照明が少し点滅した
チリ ン
気にせずに押し続ける
ズゥゥゥゥゥゥン
その時に異常が起きた
シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!
照明が激しく点滅する
外から轟音が聞こえる、濁流のような
空間そのものが音を振動させている。
シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!
開閉ボタンから指を離したが轟音は鳴り続ける
姿勢を維持しづらい。
轟音が事務室を覆う、照明は点滅し続ける
パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!
パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!
義体を揺らすほどの地響きが、
この事務室を襲っている
シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!
パシャンッ!
地響きと揺れが収まる
事務室の照明は、
揺れが収まったのと同時に砕け散った
窓を覗く、慎重に
これは…空間が広がっている
天井と壁の幅が変化した
白いタイルに照明が反射し
ベンチやモニュメントのようなものが
複数置かれている、改札は消えた。
そして、装甲車両が一つだけ
周囲に仕切りのロープを敷かれて
中央に配置されている。
展示されているようだ、事務室の扉へ向かう
タン
タン
照明が消え、事務室の中を窓口側の光を頼りに進み
扉の前に辿り着いた
ドアノブを握り、外へ
カチ
カチャ