
『他人の意見を聞かない勇気』【エッセイ】
私はかつて学習塾の講師をしていた。
当時、かなり「ふざけた授業」を展開していたのだが、そんな雑談混じりの授業を「楽しい」と言ってくれる生徒たちが少なからず存在した。
自慢話のようだが、ここから手痛い失敗が始まるので、どうか最後までお付き合いいただきたい。
ある日、生徒のアンケートに「もう少し真面目に授業をしてほしい」と書かれていた。
私は深く反省し、次からは非の打ち所がないほど真面目に授業をした。
結果はどうだったか。私の授業に熱狂してくれていたファン(と言うと誇張かもしれないが)の生徒たちの目から、みるみると輝きが失われていったのだ。
短所をなくす方向に努力すると、その短所と表裏一体だった長所や魅力まで一緒に消えてしまう。
そんな人間の心理を、私は身をもって知った。
かと言って、いつでもどこでも自分を貫き通す人間は、ただの頑固で融通のきかない「めんどくさい人」になってしまうのも事実だ。
このバランスの難しさは、小説も同じだ。
あらゆる読者の考えに配慮すると、最終的には「今日も良い天気、みんなハッピー」といった無難なストーリーに着地する。
そこには葛藤も、悔しさも、心を揺さぶるドラマもない。
もちろん、ヘイトスピーチや差別的表現は論外だ。
しかし、表現の持つ「歪み」や「アク」をすべて綺麗に消し去ってしまえば、作品の魅力もまた死んでしまう。
だから、物書きは今日も悩むのだ。
この表現は誰かを傷つけやしないだろうか。でも、日和って削ったらつまらなくなるのではないか、と。
ときには他人の意見を聞かない勇気を持つ。
そう言い聞かせながら、今日も書いている。
ちなみに私の塾講師時代の担当科目は、国語だった。言葉で飯を食おうとしていたのは、あの頃からだったらしい。
そんな懲りない人間の書く小説はこちら。