
プラス収支の男|第24話 「ありがとう」
あらすじ
仕事終わりに立ち寄るパチンコ店で、男は今日も台に座る。
勝ったり負けたりを繰り返しながら、気づけば収支はプラスになっていた。
それでも、なぜか満たされない。
数字の上では勝っているはずなのに、日々の疲れや虚しさは消えないままだった。
長期投資を始めたことで、自分の時間の長さと限界を意識するようになった男は、次第に違和感を抱き始める。
この時間の使い方は、本当に正しいのか。
“勝ち”の意味を見失いかけた男の、ある一日。
朝から忙しかった。
ナースコールが重なる。
予定していた仕事が少しずつ遅れていく。
時計を見るたびに時間だけが過ぎていた。
ようやく一息つく。
病室を出ようとした時だった。
「ありがとう。」
小さな声だった。
振り返る。
ベッドに座る患者が笑っていた。
特別なことはしていない。
いつもの仕事だった。
「お大事にしてください。」
そう返して部屋を出る。
廊下を歩く。
さっきの一言を思い出す。
少しだけ気持ちが軽かった。
昼休みになる。
休憩室でコーヒーを飲む。
窓の外を見る。
空は曇っていた。
午後も忙しかった。
気づけば仕事は終わっていた。
更衣室で着替える。
外へ出る。
いつもの帰り道。
店の前を通る。
光が目に入る。
足は止まらない。
今日は、もう何かを受け取っていた。
それで十分な気がした。
駅へ向かう。
ホームで電車を待つ。
疲れていた。
でも、その疲れは昨日までとは少し違った。
ポケットに手を入れる。
減っていない感触だけが残った。