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【ヘアメイクへの道】第6話 辞めたの?逃げたの?

    夢のカケラを握りしめていたはずなのに、
    この頃の私は、それが大切かどうかもわからなくなっていた。


    とにかく大変な毎日だった。
    技術が上がっている実感なんて全くない。
    先輩より早く出勤し、先輩より遅く退社するのが、当たり前。
    息をつく場所なんてなかった。

    そんなある朝、ついに私は寝坊した。

    目が覚めた瞬間、心臓が一気に冷たくなる。
    時計の針が進んでいる。
    手が震え、息が乱れ、何も考えられない。
    先輩の仕事道具は私が持っているのに。
    状況が把握できない。把握したくない。

    終わった、と思った。

    現場には遅刻。
    言い訳なんてできない。
    先輩たちは怒りを隠さなかった。

    「お前なんかいる価値ないよ!」

    その言葉が胸に刺さり、抜けなかった。
    本当に、その通りかもしれない。
    私は、自分で自分を責め続けた。

    数日後、私は先生に言った。

    「責任を取って辞めます」

    先生は少しも驚かず、ただ目の前のカップを静かに回した。

    「あなたの角度からは取っ手が見えないでしょ?
     でも、わたしの角度からは見えるの。
     同じものでも、見る場所が違えば全く違って見えるのよ。
     だから・・・辞めるのは少し早いかもしれないわ」

    失意の底にいた私には、その言葉の意味が届かなかった。
    先生は好きだった。先生の言葉もわかりたかった。
    でも、その時の私はもう、立っている力がなかった。

    結局、私は事務所を辞めた。
    逃げたのかもしれない。
    いや・・・逃げたのだと思う。

    けれど、それでよかったのだとも、思う。


    26年前の私へ。

    あのカップの話、今なら少しわかるよ。
    辞めたことも、逃げたことも、全部あなたの道だった。
    あんなに必死に集めたのに、自分から夢のカケラを手放したよね。

    全部、わからなくなっちゃったよね。
    でも、どの選択も無駄じゃなかった。
    あの日のあなたがいたから、今の私がいる。

    大丈夫。

    辞めても、逃げても、ちゃんと前に進めているよ。



     
     

    yu

     
     
    職業はヘアメイクです。フリーランスになってから20年。仕事をしながら、子育てしながら、気付いた事を書いています。 誰かの心に届いたら嬉しいです。

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