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Photo bykamei_kana1223

ショートショート|歩く夜空

    張りつめた沈黙と眠りを破ったのは流星雨の墜落音だった。彼は廃コンテナで目覚めるなり、折り畳まれていた四肢を展開するかのように伸ばす。いくつか鳴った骨の音が、生業である屑拾いの口火を切った。麻袋を片手に外へ出ると、頭上には磨り硝子のパノラマが拡がっており、ポタアの樹が寒さに震えている。やおら根元の枯れ枝を手に取り、白杖を思わせるように墜落音をたどり始めた。

    足を進めるほど風が冷たくなった。際立って激しい突風が追い越したとき、紙吹雪に似た樹葉が空中でとどまる。彼はすかさず枯れ枝を手折り、片方を投げつけると同様に固定された。
    事象の停止線は流星雨の墜落地点に発現する不可視の分界線だ。巻き込まれた物体はスナップショットのように静止し、やがてぼんやりと消滅する。何度も危険な目にあった彼は用心深い振る舞いで、周囲の遺物を回収する。麻袋に取りまとめると再び墜落音が耳に届いた。
    引きずる麻袋が彼の足跡を均していた。

    このところ流星雨は弥増すばかりだ。僻地では傘の役目を果たす常夜燈がなく、曝れた地表はあばたに一変した。彼のような屑拾いも例に漏れず、身ひとつで受けとめるほかなかった。全身に散らばる無数の穴は惨たらしい禍を体現し、とりわけ胸のあたりは空洞と呼べる暗澹を湛えている。その虫食いの風貌を口実として、自分を塞ぎ込むことには長けていたが、穴々は一向に埋まらず顔を歪ませていた。
    しかし彼にとって流星雨は好機でもあった。墜落地点に四散した遺物は身体の修復に活用できそうだからだ。それらを持ち帰っては役立つに足るかを見定めるのが、よすがと思われた。
    彼の営みを嘲るように風が通り抜ける。引きずる麻袋から破片が覗いていた。

    その頃には疲れ果てていた。繋留地シリウスBは、その名前と座標を示す標識と、壊れた常夜燈だけが佇立している。取りも直さず、殺風景という言葉がぴったり当てはまる。そこで碌々と過ごすのがささやかな道楽だった。
    ふと違和感を抱き歩みを止めたのは、奥の方に見慣れない物体を認めたからだ。標識でも常夜燈でもないそれを理解するのに多少の時間を要した。
    自分以外の誰かに会うなど初めてのことだった。彼はその輪郭へ近づくにつれいっそう昂揚を覚えたが、同時に他人という言葉を思い出し総毛立つ。おそるおそる遠巻きから声をかけるが、返答がない。というより凍ったように動かない。果たせるかな、そこは事象の停止線だった。
    彼はとつおいつ思案するが、成す術ないことだけを証してしまう。せめてその面差しを確かめようとするもピントがずれたように掴み所なく、消滅が近いことを悟った。頭上は依然として磨り硝子のパノラマを描く。憮然とへたり込む彼に、彫像は物言いたげに振り返っていた。

    彼の意識は虚空を彷徨っている。煙となって消滅する直前、空洞を見た気がしたからだ。なおも響く墜落音は、彼を条件反射のように立ち上がらせる。その瞬間、壊れたはずの常夜燈が辺りを照らした。焼けるような眩しさにたじろぐ彼をあまねく光条がつぶさに貫く。無数の穴が投影する足下にはかつての夜空が息づいていた。その慕わしき光景に串刺しのごとく眺め入る。しかし陶酔は長く続かず、しだいに生じるまばたきのような明滅が、あたら夜空を安らかに閉ざした。

    閑とした景色はグレアじみて淡く、標識と壊れた常夜燈だけがあった。足下にはポタアの新芽が伸びており、そっと枯れ枝を置く。
    凪ぎに彼は歩き始めた。

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