
わたしだけの朝がくる
このところ、旅行や親戚行事がつづき、家族と密でいる時間が多かった為、
わたしのひとり時間が全く足りず、
『わたしをひとりにしてくれ。』
という心の奥深くからくる願望が、小さく、そして確実に降り積もり、不機嫌という形でダダ漏れに
なりつつあった。
普段、わたしをひとりにするために息子の相手をかってでてくれる夫でさえも、今回ばかりは家でひとりになりたかったらしい。息子を保育園へと送ったあと、まだ、出先にいる私に、
『ゆっくりお茶をしてきてね。』
というやさしいメッセージと共に、まさかのPayPayでお小遣いの送金までしてくれ、夫から妻への心遣いに見せかけた巧妙なやり口で、なんとかひとり時間を確保しようとしていた。
そういうならばとわたしはありがたく、心ゆくまでゆっくりお茶をし数時間のうち帰宅すると、まさかの
『帰るのが早い』と言われる始末だった。
彼はわたしがいない間にやりたいことがあったのだろう。帰ってくるや否や、はじめて行った喫茶店のマダムの話、メニューの写真と、出てきたサンドイッチのボリュームが違いすぎたことなど、彼にとってはまぁどうでもいい話を延々とするわたしに、
苦笑いで「うるさいなぁ」といった。
『PayPayで、わざわざひとりの時間を買ったのに』
と、冗談半分、いや、本気でそう訴えた夫。
なんだか帰って来てしまい、申し訳ない。
彼は納得いかなさそうな顔でそそくさと別室へ行き、彼自身のひとり時間の続きをはじめた。
わたしたち夫婦は仲こそいいが、それぞれにひとり時間がないとやっていけない人種の集まりだ。特にわたしはこれが不足すると、感性が鈍り、勘が鈍り、
自分を見失う。
一番大切だと思っている、内側の静けさを忘れる。
それを長年の付き合いで熟知してる夫は、いい塩梅でわたしをひとりにしてくれる。
そして今夜はその塩梅のひとつだ。
夫は息子を連れて、車で一時間ほどにある自分の実家へ帰ってくれたのだ。
母の機嫌は、家庭の空気を嫌というほど左右する。
これは夫婦のためでもあり、家内安全祈願そのものと言って大袈裟ではないだろう。
おかげで今、ひとりの夜を満喫している。
嬉しい、幸せ、わくわく、といったありきたりな
喜びの言葉しか出てこない。
それだけこの時間を待ち侘びていたのだ。
いつもなら子どもと共に21時半には即爆睡だが、
無駄に眠れない。無駄な夜更かし、深夜2時。
腹も減ってきて、謎の物音もしてきて、
余計に眠れない。
明朝「ひとりの朝食」という最も贅沢な時間を迎えられるというのに、わたしはなにをやっているのだろうと悶々としつつ、これもまた贅沢だと開き直り、日記を書いている。
書くうちに楽しくなってくる。
いやいや、そんなことはいい、
明日の朝は素敵な朝食にしたいのだ。
ほどよい焼き加減のトーストとたまご、
そしてゆっくり淹れた深煎りの珈琲。
それをいつもの窓辺で焦ることなくじっくりと、
ただ味わうのだ。