メインコンテンツへスキップ



愛子さんの頬に、今後一生懸命消えないだろう傷をつけてしまった。
かっとなったときに手にしていたのはたちばさみだった。
かすったのだろうか。
そのときのことは、よく覚えていない。
気づくと愛子さんは頬を押さえてうずくまっていた。
警察が来た。
連行しますか?
愛子さんはかなりあってから、いいえと言った。
私はいつものように、自分の部屋にいる。
これまでどんな諍いでも、翌日は笑ってくれた愛子さんが、全く目を合わせてくれない。
傷は大丈夫?
と手を伸ばしたら払われた。
私の口が勝手に言う。
自分でやったんじゃないの?
愛子さんの目がぎらっとする。
違うのよ愛子さん。
私そんなこという気ないの、口が勝手に…

いつからだろう。
私は愛子さんの前で暴れるようになった。
その前は不安にかられた。
通帳や印鑑の場所が変わっている。
私がおいた場所にない。
私は全部愛子さんのせいだと言った。
そんなこと、かけらも思ってないのに。
愛子さんは勝手に私の部屋に入ったりしない。
引き出しも開けない。
なのに私の口は言う。
何で?
何で?
私は愛子さんが大好きなのよ!

知らない女性がきた。
最近どうですか。
また別の人たちがきた。
少し外出なさいませんか。
同じ年頃の人が集まって、体操したり、お茶飲んだり。
お風呂も入れるのよ。

息子が反対して、参加は取りやめになった。
デイケアというのだと、後で知った。

通帳がない。
しょうがないから再発行。
繰り返したら、通帳の再発行ができなくなった。
別の銀行からは口座を保持しないでくれと言われた。
解約には一人で行けず、愛子さんが付き添ってくれた。
三十万くらい現金が渡された。
愛子さんが預かるという。
私は逆上し、怒鳴り散らしてる。
私、愛子さん信頼してるよ。
何で?
何で私は怒っているの?????

愛子さんはあきらめたように銀行の人に一礼した。
愛子さんはおつかいに行き、私は家に帰った。


翌朝、三十万は影も形もなかった。
愛子さんが銀行の人から受けとって、そのままどこかへ行った。
私の口はそう説明している。
違う。
私は見てた。
私は自分で持って帰った。
手元に五万残して、残りをどこかへ…

どこだろう…


二十五万はみつからない。
私は毎日メモを書き、愛子さんに届ける。

曲がったことをするもんじゃない。
三十万返しなさい。

違う。
受け取ったのは私だ。
預かると言ってくれたのに口角泡飛ばして拒んだのは私だ。
何で書く、それも一日に何十枚も。
やめてと言われてかっとなり、二階の踊り場で暴れた。
暴れてる。
私。
さっきまで布を断っていた。
だから手にたちばさみ持ったまま。
息子の部屋はガラスのはまった扉、廊下にはサッシ窓。
はさみなんか振り回したらガラス割れる、私はみんなわかってる!!

愛子さんは警察を呼び、私を抱きすくめて羽交い締めにした。
私が踊り場から落ちていかないため。
わかっている。
わかっているの。
でも私は暴れ続けて、愛子さんはけがをした。

自分でやったんじゃないの?

自分の口がそう動く。
でも違う。
違うのよ。
ほんとの私はここにいるの。
ここにいるのよ!




note初掲出2020/07/26 15:01。

認知症、在宅介護期の義母は、ほんとにこんなふうでした。

#小説
#オリジナル
#心
#アルツハイマー型認知症
#ついに亡くなった義母に捧げたい

 
 
 
新本は両A面本『これはポストのものがたり/れなとわ』。どちらが真のA面かを争わせてるが、圧倒的にポストが強い。負けるなれなとわ泣/アイコンの、キャットピープル・ヒロインの瞳はせきぞう、様に、トプ画の兎さんらはのどか様に、長年ご貸与いただいております。ただただ感謝です<(_ _)>

あなたへのおすすめ