
『50秒と60秒の違い』
「50秒と60秒の違いって何?」
弟が突然私にそう聞いてきた。
私は試されているのかと思った。
「......10秒の違いじゃない?」
「50秒も60秒も一緒じゃん」
私は一瞬、本気で何を言っているのか分からなかった。
からかわれているのかと思ったけれど、ピー助は真剣な顔をしていた。
私はしどろもどろしなら「いや、10秒の違いがあるからね!」と言ったが本人は「いや、一緒じゃん」と話が平行線のまま弟は自分の興味のある方に話を始めた。
弟の......ここではピー助と呼ぼう、ピー助は私の一つ下の弟だ。
私の弟ピー助は少し周りと違うかもしれない、それは私も一緒だが。
ピー助は精神年齢が本来の年よりも5歳ほど低いと私が小さい頃母に言われた。
だから私はピー助は他の子よりも少し劣っているのかと子供の頃に思っていた。
小学生の頃、突然こう言われた。
「あなたの弟って生まれつきの病気なんでしょ?」
確かに弟は学校の中にある特別な子たちが通う学級に通っていた。でも、どうしてその子はそんなふうに言ったのだろう。
私は頭が真っ白になり、「違うから!」と言い返すのが精一杯だった。
そして、そのまま家まで走って帰った。
家に着くと母が家で待っていてくれた。でも私は何も言わなかった。その時は。
私が母にそのことを話したのは、高校生になって母と大喧嘩をした時だった。
今さら言うなんてなんてずるいと思った。
でも、一度口にした言葉はもう引っ込められなかった。
母は何も言わなかった。
あの時母は何を思ったのだろうか。
もうそれを確認する方法はない。
それから数年後母が亡くなった。気づけば、私はピー助と二人で暮らすことになった。
三人で暮らしていた頃は狭く感じていた部屋が、母がいなくなると妙に広く感じた。
母がいなくなってからは、大きな喧嘩をすることが増えた。私は背が低いから、ピー助と喧嘩をするとやられてしまう。それでも負けじとやり返す。世間一般的な兄弟喧嘩ではない。私たちの喧嘩は、拳と拳のぶつけ合いだ。
そんなこんなで一ヶ月に一度はそんな大喧嘩をするがまぁまぁ仲は良いと私は思っている、ピー助は思っていないかもしれないが。
50秒と60秒は違う。
でも、ピー助と過ごす毎日は、不思議なくらい「あっという間」だ。