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シビウ、ゆるり一人旅

    「シビウはきれいだけど、みるものがない。」

    「シビウはあまり印象に残らない街だ。」

    「シビウはしょせん "リトルドイツ" である。」

    わたしの周りの人々のシビウに対する評価である。たしかに、他の観光地と比べるとシビウはとても小さく、短時間で街全体をまわることができてしまう。また、他の観光地と比較するとパッとする名所はない。加えて、ドイツ人の入植地であるため、既存の街の模倣と言う理由も分からなくはない。
    だが、わたしはシビウに対してそのような感想をもたなかった。わたしの旅は期待以上だった。わたしはシビウという街に愛着がわいている。何度もシビウを訪れたいとも思う。1泊2日の短い旅だったが、充実した経験を得ることができた。


    シビウに到着後、私は観光客として街の名所を次々に回った。目のある家々、嘘つき橋、シビウ・エヴァンゲリカ聖堂、聖三位一体ローマカトリック教会、聖三位一体正教会大聖堂、大広場、小広場。いくつか博物館や美術館はあったが、どれも休館日だったので入ることはできなかった。
    たしかに他の観光地と比較すると見ごたえのある場所は小さく、少ないのであっという間に周りきることができた。日が伸びて活動時間も長いのでかなり時間を持て余していたため、様々な裏路地を隅々まで探検した。どの道にある建物も似通ってはいたが、こじんまりとしたカフェや雑貨屋が点在し、興味深かった。

    私が見つけたお気に入りの店は、「JUJUBE Atlier (ジュジュベ アトリエ)」という雑貨屋。夕方、レストランへと向かう道で見かけたこのお店が何となく気になり、吸い寄せられるように入っていった。

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    JUJUBE Atlierの外観
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    JUJUBE Atlierの店内

    店内には食器やアクセサリー、衣類など、ルーマニア各地の工芸家によるハンドメイド雑貨が並んでいた。一点ものの作品は、眺めているだけで心が温かくなった。
    また、店員さんと話しているうちに、彼女との思いがけない共通点が見つかった。なんと、彼女は私と同じヨーロッパ学・国際関係学部の出身で、私の先輩であることが発覚したのだ。彼女は元々、海外志向だったが、オランダへの交換留学中に国外で働くことをそこまで強く志していないことに気が付いたらしい。そして現在は、母の地元でもあるこの街で暮らしている。さらに、2か月後には出産を控えているそうだ。
    私も自分自身を海外志向の人間だと自認している。しかし彼女の話を聞きながら、おかれた環境や人との出会いで自分軸は変わっていくものであることをしみじみと感じた。そんなことを考えながら店の隅の棚にあった小さな黄色い陶器のボウルを購入し、店を去った。

    JUJUBE Atlierから歩いて二分、「LA CUPTOR (ラ クプトル)」というレストランに到着。実はこのレストラン、留学直前の「朝だ!生です旅サラダ」の放送で紹介されていた場所。旅のゲストである佐々木蔵之介さんが食べていた「Beef Marrow (牛の骨髄)」を食べるべく、このお店に訪れた。

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    LA CUPTORの外観

    時間帯がやや早かったということもあり、客は私だけだった。少し気まずかったが、時間がたつと店の静かさが心地よくなってきた。牛の骨髄と季節野菜のスープを注文した。

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    LA CUPTORの店内

    しばらくすると、スタッフが窯に牛の骨髄を運び入れた。誰もいない静かな空間で、ただひたすらに窯の中の牛の骨髄をじっくりと観察していた。

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    窯で焼かれる牛の骨髄

    しばらく経った後、付け合わせのパンと共に念願の牛の骨髄が運ばれてきた。

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    Beef Marrow (牛の骨髄)
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    Beef Marrow (牛の骨髄)とパン

    牛の骨髄の味を例えるなら、「食感をなくしたホルモン」である。クセはまったくなく、口に入れた瞬間に牛の脂が口の中でとろける。また、付け合わせのパセリとネギのペーストと食べると爽やかさがプラスされ、より食べやすくなる。牛の髄というよりもむしろ、このディップソースに感動した。始めの方は感動して手が進んでいたが、想像している以上に私の胃には脂が重く、少し気持ちが悪くなってきた。複数人で食べるものを一人で食べていたため、それを言うのも無理はないだろう。とはいえ、残したくはない。時間をかけながら完食した。

    この時点で胃と腸はかなり限界を迎えていたが、さつまいものクリームスープが運ばれてきた。

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    季節野菜 (さつまいも) のクリームスープ

    本来であれば、鮮やかで芸術的な見た目に食欲がそそられるはずだった。しかし、胃と腸が脂で回っていた私は、ずっしりとした器の中にどっしりとしたクリームースープを見て少々気が重くなった。こちらのさつまいもは、日本のさつまいもと人参の中間の味に近く、さっぱりとしている。そのため、このスープも想像以上に食べやすかった。とはいえ、胃腸の状態が万全なときに食べると感動が大きかったのだろうと思うと、少し悔しい気持ちになった。味がどんなに良くても限界値はある。料理は味だけでなく、適量を摂ることも重要であることを実感した。



    レストランを出た後は、街を再び散策した。薄暗い中、ライトアップされる建物が立ち並ぶシビウの夜の街は、日中よりも魅惑的だった。

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    昼のPiața Mare(大広場)
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    夜のPiața Mare
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    昼の通り道
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    夜の通り道
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    昼のCatedrala Ortodoxă "Sfânta Treime" (聖三位一体正教会大聖堂)
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    夜のCatedrala Ortodoxă "Sfânta Treime"


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    昼のPodul Minciunilor (嘘つき橋)
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    夜のPodul Minciunilor (嘘つき橋)

    短時間で大きな街を巡ると、どうしても一つひとつの地にかける時間は短くなりがちだ。スタンプラリーのように名所を巡り、写真を撮ってすぐに移動。そのような旅の終わりには疲弊し、それぞれの場所がうろ覚えになってしまうことも少なくない。
    その点、シビウはそれとは対照的だった。街自体が小規模だからこそ、同じ場所を異なる時間帯に何度も歩くことができる。そして時間によって変わる景色をみて、一つの場所に対する理解や印象が深まっていく。また、角に観光地化されていないため、落ち着いた雰囲気の中で人との温かい交流も生まれやすい。この点もシビウの大きな魅力だと感じた。

    シビウの評価は、この街をどのように捉えるかによって大きく変わる。「見るものが少ない」と感じるのは、いわゆる「観光名所」を求めているからであり、「リトルドイツ」と批判するのはドイツとの比較を前提としているからだ。私にとっての比較対象はドイツではなく、同じくトランシルヴァニア地方のクルージュ・ナポカである。その視点からみると、市日うはより統一感があり、洗練された街に思えた。
    もしかしたら、将来ドイツの都市を訪れれば、この印象が変わる可能性もある。本物のドイツの街を比較対象に入れてシビウを「作り込まれた街」と認識するようになるかもしれない。だからこそ、そのような考え方に至る前に、外部の影響と田舎特有の素朴さ、温かさが融合するルーマニアの街の良さに目を向けていきたいと感じた。

    加えて、旅を印象深くする要素について考えてみた。
    一つ目は「時間 (Time)」である。同じ場所を異なる時間帯に訪れることで、景色が劇的に変化することを実感した。日中は風景の一部だと思っていた建物も夜になると主役であるかのように際立って見えた。その変化への気づきが一つの場所に対する視点を増やし、味わいを深めることができたのだと思う。
    二つ目は「場所 (Place)」である。今までは、観光地に対して「名所」や「街のダイナミックさ」といった基準で捉えがちだった。しかし、この街の歴史を知ったことで、街にある様々な施設や建造物がどのような意味をなすのかを考えることができた。そして興味深さを強く感じたのだと思う。
    三つ目は「空間 (Space)」である。観光地としう非日常空間で、たくさんの偶然の出会いがあった。雑貨屋やレストランでの温かい接客、美味しくてかわいい物との出会いが旅の質を大きく高めたのだと思う。

    旅の充実度は、量でまかないきることはできない。どれだけ多くを見たかではなく、「どれだけ深く体験し、心を動かされたか」ということが旅を印象深く重要なことであると感じた。


     
     
    #Babeș-Bolyai University (ルーマニア,クルージュナポカ) に2025年9月から正規留学中。 #国際関係学・ヨーロッパ学を学んでいます。 過ごせば過ごすほどみえてくるルーマニア人の価値観。日本人と大きく異なる彼らとの生活に疲弊しつつも、刺激的な毎日です!

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