タンポポ(3)
調査を進めるなかで、佐伯は一つの奇妙な事実に辿り着いた。寺崎が佐伯に情報を流したあの夜、寺崎は警察上層部の数名と極秘の会合を持っていたのである。その出席者のなかには、十年前、竹内の父を強引に重要参考人として取り調べ、後に捜査ミスとして批判を浴びた当時の捜査責任者が含まれていた。その責任者は、今や刑事部長という組織の頂点に近い地位に昇り詰めていたのである。
パズルのピースが、一つずつ嵌まり始めた。今回の誤報は、単なる情報の行き違いではなかったのである。それは、十年前の汚点を完全に消し去るために、当時を知る「生きた証人」である竹内親子を、新たな事件の犯人に仕立て上げようとする、警察組織の巨大な隠蔽工作の一環であった。寺崎は、その工作を完成させるための筆として、最も信頼の厚い佐伯を利用したのである。
佐伯は、地下室の机に向かい、古い万年筆を握り締めた。彼の指先は、冷気でかじかんでいたが、筆致には迷いはなかった。一文一文を丹念に綴り、組織という巨大な怪物に立ち向かうための、論理の城壁を築き始めた。体言止めを排し、冷徹な事実関係のみを積み上げたその原稿には、以前の佐伯にはなかった、真実を求める者特有の凄まじい執念が宿っていた。
「さあ、ここからが本当の仕事だ」 佐伯は、完成した一束の原稿を見つめながら、誰に言うでもなく呟いた。地下二階の閉ざされた空間で、一人の記者が、失われた誇りを取り戻すための反撃を開始したのである。(続)