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Photo bynoouchi

麦茶ポットギリギリライン大会in2026

     きんきんに冷えた麦茶を一気に飲み干す。ほろにがい苦さが夏を感じさせてくれる。
     我が家の夏は麦茶にはじまり、麦茶に終わるといっても過言ではない。
     そんな夏に欠かせない飲み物には、戦いがつきものである。

     そう。
     麦茶5cm残し問題である。

     あと一人飲めるか飲めないか程度の麦茶をポット内に残すのである。
     実に狡猾な手口だ。
    「あと一人分ありますから、ポットは洗いませんよ」というギリギリのラインを攻めた心理戦。

     ぐぬぬ。飲んじまえよ5cmくらい、とむせび泣きながら麦茶ポットを洗うのは、私。
     そう決まって、いつも私なのだ。

     そこで秘かに大会を開くことにした……。

     
     

     さあ、やってまいりました。
     麦茶ポットギリギリライン大会in2026。

     競技に参加する選手は、みか選手一人であります。
     競技内容をご説明いたします。
     麦茶ポットの中が残り5cmになったところで、競技開始。
     麦茶をちょい残ししながら過ごす。こちらもギリギリのラインを攻めます。
     麦茶ポットを夫のケイさんに洗わせることが出来れば、みか選手の優勝です。


     さあ、ゴングが鳴り響きました。
     麦茶ポットギリギリライン大会in2026が始まりました。
     今年が第一回ということで、みなさま、特に主婦(夫)と呼ばれる方々は、興味深い気持ちでこの大会を見ていらっしゃるのではないかと想像いたします。

     早速、冷蔵庫から麦茶ポットが取り出されました。
     取り出したのは、妻のみか!
     先に勝負を仕掛けようというつもりでしょうか。
     ガラスのコップに麦茶が注がれました。わずか一口程度の麦茶です。
     気になる麦茶ポットの残量はいかほどか。
     残り3cmくらいです。
     
     あっ! ここで、みか選手の表情をご覧ください。
     大変悪い顔をしておりますね~。
     麦茶ポットを冷蔵庫に戻して、扉を閉める。
     ここで、再び悪い顔。
     これは高得点。満点の表情でした。

     さて、あれからしばらく時間が経過しまして、時間は夜。
     夫のケイさんが帰宅しました。
     応援いただいているみなさまは、麦茶ポットの中身が残り3cmなのに大丈夫なのか、と心配されている方も多いのではないでしょうか。
     ご安心ください。
     麦茶ポットは2つ用意されており、競技に使用されていない麦茶ポットの方で水分を摂取しております、とみか選手よりコメントを預かっております。

     おっと、ここで動きがありました。
     夫のケイさんが、冷蔵庫の、扉を今、開きました!
     さあ、どうする。麦茶を飲むのか。飲んで、洗うのか。
     勝負を分ける瞬間です。

     たった今、速報が入ってまいりました。
    「もう一つの麦茶ポットも、残り4cmくらいにしておいてやった」
     みか選手、性格が悪い! いや、ぬかりないというべきか。
     絶対に優勝してみせるという気概を感じられます。
     もはや、執念です。洗いたくないという執念です。
     全国の配偶者、同居人のみなさま、洗い物の恨みは恐ろしいです。気をつけましょう。

     さて、実況にもどります。
     ケイさんが冷蔵庫から取り出した麦茶ポットは、なんと!
     残り4cmの方だー!
     なかなかやります、この夫。こちらからも、洗いたくないという強者のオーラのようなものを感じられます。
     麦茶ポットを傾け、みか選手が注目する中、ガラスコップに麦茶が注がれます。
     果たして、残り何cm……。
     
     ちょっと待ってください。
     
     麦茶がなくなりました。
     残っているのは、煮出すのが面倒だからと残された麦茶パックだけです。
     もう出すものも出し切ってしまった麦茶パックが、悲しく麦茶ポットの底で横たわっています。
     さあ、それを一体どうするのか。
     シンクに持っていくのか、それとも……。
     ああ、なんということでしょう!
     冷蔵庫でもシンクでもありません。
     その場に放置です!

     みか選手が立ち上がった。立ち上がりました。
     あ、地団太を踏んでいますね。ケイさんの前に立ちはだかって、地団太を踏んでいます。
     あれは踊っているのではなく、本当に地団太を踏んでいます。
     「なぜ洗わないのか」と抗議しているようです。
     そうですよね、もうあの麦茶パックを放置していても何も抽出されませんからね。
    「あとで洗うつもりだった」とケイさんが訴えているようです。
     
     読者のみなさまから抗議の声が聞こえてきそうですが、実は私もケイさん派なんです。
     洗い物はまとめてやりたい派なんです。忘れているわけではないんです。「あとで」やるんです。
     しかし、多くの主婦(夫)の方はこう思われているのではないでしょうか?
    「今、やって欲しいの」と。
     これはもう、価値観のちがいですから、どうしようもありません。今後の夫婦生活のために大人しく話し合うべきだと思いますが、さて、この後どんな展開が起きるのか。

     ん?
     なんでしょうか。一体、何が起きているのでしょう。

     みか選手が、ケイさんの背後に回りました。
     そして、ぷにっとした下っ腹を叩いていますね。「ナイスお肉」というかけ声もあげています。
     物理攻撃と心理的攻撃に移った、ということでしょうか。
     ケイさん側にも動きがありました。
     何かビニール袋から取り出しています。
     一体なんでしょうか。
     みか選手が何かを受け取りました。
     
     あれは——。
     
     ポテチです! うすしお味のポテチです!
     
     賄賂を受け取ってしまいました。
     これは、審議です。審議に入ります。
     審査委員長がやってまいりました。そして、なんと——。
     失格!
     残念ながら、失格であります。
     
     あと一息のところだったと思いますが、これはルール違反。
     あっけなくも麦茶ポットギリギリライン大会in2026、ポテチの前に倒れてしまいました。

     大会は残念な結果で終わってしまいましたが、みか選手よりコメントが届いております。
    「おいしいものに弱い。次は腹を満たしておく」
     とのことです。
     来年度の大会に期待しましょう。

     以上、麦茶ポットギリギリライン大会in2026でした。

     
     
    noteではくだらないに全振りしたエッセイを書いています。talesでは小説をのせていきます 執筆歴 アルファポリス第2回ライト文芸大賞 家族愛賞受賞 エブリスタ小説大賞2025集英社オレンジ文庫「泣ける」青春小説大賞 短編小説部門 大賞受賞 「ハルシネーションに、さようならを」

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