「森永卓郎流 生き抜く技術」を小学生でも分かるように説明します(本・書籍)無理して稼ぐより、上手に生きる。
森永卓郎流「生き抜く技術」
31のラストメッセージ
著者 森永 卓郎

この本は、経済学者であり、大学の先生でもあった森永卓郎先生が、病気と闘いながら最後の力を振り絞って若い人たちのために書き残したメッセージを元にしています。
みなさんが、これから中学生、高校生、そして大人へと成長していく中で、どのようにすれば後悔のない、最高に幸せな人生を送ることができるのか、そのための大切なヒントがたくさん詰まっています。
それでは、森永先生の熱いメッセージを深く掘り下げていきましょう。
お金にしばられない自由な生き方とは?
皆さんは「将来はお金持ちになりたい」と思ったことはありますか?
大人になると、たくさんお金を稼いで、好きなものを買ったり、色々な場所に遊びに行ったりしたいと夢見る人がたくさんいます。
しかし、森永先生は「もっともっととお金を欲しがる『お金中毒』になってはいけない」と強く教えてくれています。
例えば1億円を持っていたら次は10億円、10億円を持っていたら次は100億円というように、お金を増やすことばかりに夢中になってしまう大人が世の中にはたくさんいるのです。
では、私たちが生きていくためには、一体どれくらいのお金があれば安心なのでしょうか。森永先生の答えは「生活費の3年分」です。
もしも急に仕事がなくなったり、病気になったりして収入が途絶えてしまっても、3年分の生活費があれば、その間に新しい仕事を探したり、別の場所に引っ越したりして、落ち着いて新しい生活の準備をすることができます。
なぜ生活費の3年分を貯めることがそこまで重要なのでしょうか。それは、お金が「自分の自由を守るための最強の武器」になるからです。
もしお金が全くなかったら、生きていくために、たとえ悪いことだと分かっていても会社の命令に従わなければならなかったり、嫌な上司からひどい扱いを受けても我慢して働き続けなければなりません。
しかし、もし貯金があれば、「こんな嫌な仕事はやめます」と堂々と会社を辞めるという選択肢を持つことができるのです。
森永先生自身も、若い頃はとても給料が少なく、月に使えるお金がたったの6万円台という非常に苦しい時期がありました。
ちょうどお子さんが生まれたばかりで、粉ミルクを買うのが一番の課題だったそうです。しかし、先生はそこで徹底的に生活費を節約し、無駄遣いをしない生活を身につけました。
普段から節約をして、生きていくのに必要なお金を少なくしておけば、貯めなければならない「生活費の3年分」の金額も少なくて済みます。
お金はただ欲しいものを買うための道具ではなく、嫌なことを断り、自分の心に嘘をつかずに生きていくための「盾」として考えることが、自由な人生への第一歩なのです。
投資はギャンブル!本当に大切な「教養」の話
今の世の中では、テレビやインターネットで「投資をしてお金を増やしましょう」という言葉をよく耳にします。将来の生活が不安だから、株などを買って上手にお金を増やそうとする大人が増えているのです。
しかし、森永先生は「投資は確実にお金が増えるというのは幻想であり、投資の本当の姿はギャンブルだ」と厳しく警告しています。
歴史を振り返ってみると、資本主義という社会では必ず「バブル」という現象が起きます。バブルとは、中身の価値がないのに、みんなが「欲しい、欲しい」と熱狂することで値段だけが風船のように膨れ上がっていくことです。
今から約400年前のオランダでは、ただのチューリップの球根1個が、現在の家一軒と同じ数千万円という信じられない値段で取引されたことがありました。
しかし、バブルはいつか必ず弾けて崩壊し、価値は一気にゼロに近づいてしまいます。だからこそ、絶対に失ってはいけない大切な生活のお金や老後のお金を、投資というギャンブルにつぎ込んではいけないのです。
では、お金に頼らずに豊かな毎日を楽しむにはどうすればいいのでしょうか。その答えは「教養」を身につけることです。
例えば、東京ディズニーリゾートのような遊園地はとても楽しい場所ですが、それはお金を払って楽しむように精密に計算されて作られているからです。もしお金がなくなってしまえば、そうした場所で遊ぶことはできません。
しかし、もしあなたに教養があれば、お金を使わずに最高のエンターテインメントを楽しむことができます。
例えば、草っぱらに寝転がって空を流れる雲の形を観察したり、森で鳴いている小鳥の声を聞き分けたり、足元に咲いている小さな花や虫の名前を知っていれば、自然の中を散歩するだけでワクワクするような冒険になります。
富山県にある日本で一番面積の小さな「舟橋村」という村では、立派な図書館があり、村の人たちは本をたくさん読んで教養を高め、自分たちで畑を耕すことで、お金をかけずにとても豊かな暮らしを楽しんでいます。
教養とは、難しい勉強のことではなく、自分が好きなことを深め、自分自身の力で楽しみを作り出す魔法の力なのです。
ブランドや周りの評価に流されない「自分の目」を持とう
お店に行くと、同じような服なのに、有名なブランドのマークがついているだけで何万円もする服と、数百円で買える服があります。
「高い服は素材が良くて長持ちするから結局はお得だ」と言う大人がいますが、森永先生はそれはブランドの言い訳にすぎないと言います。
実は、ブランド品の価格の90パーセント以上は服の素材の良さではなく、「そのブランドの名前の価値」にすぎないのです。
その証拠に、流行が過ぎたブランド服を古着屋さんに持っていくと、あっという間に数十円といった安い値段になってしまいます。
だからこそ、周りの意見や高い値段に騙されず、本当に良いものを見抜く「目利き」の力を鍛えることが大切です。
森永先生は、この目利きの力を鍛えるために、自分が大好きなものをとことん追求してきました。先生は「B宝館」という自分だけの特別な博物館を作りました。
そこには、先生が一生懸命集めた3万台ものミニカーや、1万5000種類のグリコのおもちゃなどが所狭しと並んでいます。
ミニカーのコレクションは、あと少しでギネス世界記録に認定されるほどの圧倒的な数です。
さらに面白いのが、「有名人のダジャレグッズ」という先生オリジナルのコレクションです。
ビートたけしさんにサインをもらった「ビートこけし」や、和田アキ子さんにサインをもらった空き缶の「和だかん」、そしてハリウッドの有名女優であるキャメロン・ディアスさんにキャラメルにサインをもらった「キャラメル・ディアス」など、思わず笑ってしまうようなユニークな宝物が700人分以上も集まっています。
他の人から見たら、ただのおもちゃやガラクタに見えるかもしれません。テレビ番組の鑑定士からは「価値はゼロ円だ」と言われたこともありました。それでも、先生は自分が美しい、面白いと感じたものの価値を信じています。
そして、誰にも真似できない分野で「ぶっちぎりの世界一」を目指して突き進むと、自然と周りから人や物、面白い情報が集まってくるようになるのです。
周りの友達が持っているから、流行っているからという理由ではなく、自分が心から好きだと思えるものを大切にする「自分の目」を育てていきましょう。
仕事を「天国」にするか「地獄」にするかは自分次第
みんなは大人になったらどんな仕事をしたいですか?
多くの人が「楽で、お給料がたくさんもらえて、しかもやりがいがある完璧な仕事」を探そうとします。
しかし、森永先生は「そんな3拍子揃った完璧な仕事はこの世に存在しない」と断言しています。同じ時間働くのでも、仕事選びや心の持ち方次第で、仕事は「天国」にもなり「地獄」にもなります。
森永先生が若い頃、タバコの工場で箱詰めの仕事をした時のことです。流れてくるタバコの箱を段ボールに詰めるという、毎日同じことの繰り返しでした。
先生はこの単純作業がどうしても我慢できず、たった数時間で完全に飽きてしまいました。
そこで退屈しのぎに、麻雀のイカサマのように箱をこっそりすり替えるという遊びを思いつき実行しましたが、手が滑って箱を吹き飛ばしてしまい、上司にこっぴどく怒られてしまいました。
この仕事をしている時は、早く休憩時間にならないかとばかり考えていて、先生にとってはまさに「地獄」のような時間でした。
一方で、経済の予測をするシンクタンクという会社で働いた時は全く違いました。膨大なデータを分析して未来の経済を予想する仕事は、先生にとって楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。
毎日終電のギリギリまで残業し、月の残業時間が150時間を超えても全く苦にならず、むしろ「時間が足りない、もっと働きたい」と思うほどでした。
好きな仕事に出会えれば、いくら長時間働いてもストレスにならない「天国」になるのです。
仕事を面白くするためには、真面目に言われたことをこなすだけでなく、少しの「遊び心」を持つことがコツです。
先生は、思いついたアイデアは「とりあえずやってみて、ダメだったら素直に謝る」という精神で仕事に遊びを取り入れ、大ヒットする本を生み出しました。
ただし、自由に仕事を楽しむ一方で、絶対に守らなければならないルールがあります。それは「締め切りを厳守すること」です。
先生は「親が死んでも締め切りは守れ」という先輩の教えを胸に刻み、どんなに忙しくても、たとえ病気で入院して体にたくさんの管が繋がれている状態でも、絶対に仕事の締め切りを破りませんでした。
この強い責任感があるからこそ、周りの人から厚い信頼を得て、自由に楽しく仕事を続けることができたのです。
夢をただの夢で終わらせない行動力と「ダメ元」の精神
皆さんは将来の夢や目標を持っていますか?。大人たちから「夢を持って生きることが大切だ」とアドバイスされることも多いでしょう。
しかし、森永先生は「いつかこんなことができたらいいな、と頭の中で想像しているだけの夢は、ほぼ絶対に叶わない」と厳しい言葉を投げかけています。
もし本当にやりたいことがあるのなら、頭の中で夢見るのではなく、それを「今日やるべき課題」に変えて、毎日1ミリでもいいから行動し、前に進み続けることが必要なのです。
チャンスが目の前にやってきた時、どう行動するかが人生の大きな分かれ道になります。今、テレビで大活躍している人気俳優の竹内涼真さんは、森永先生がお父さん役を務めたミニドラマのオーディションに挑戦して合格し、そこから大スターへの道を歩み始めました。
実は、森永先生の大学のゼミに、Kくんというとてもイケメンで性格も良い教え子がいました。
先生はKくんに別のドラマのオーディションを紹介し、スタッフにお願いして一次審査を通過させてもらえるよう手配までしました。ところが、オーディションの当日、Kくんは会場に現れませんでした。理由を聞くと「自分なんかが合格するはずがないとビビって逃げてしまった」というのです。
チャンスの女神には後ろ髪がないと言われます。迷って背中を向けてしまったKくんは、それから10年以上経った今でも役者として売れていません。
森永先生自身も、ずっと「童話作家になって絵本を出したい」という目標を持っていました。しかし、絵本の世界はとても厳しく、出版社に提案しても何度も断られ続けました。
それでも先生は諦めず、自分が書いた経済の本のあとがきを勝手に童話に変えたりして、20年間も地道に作品を書き続けました。その結果、ついに絵本を出版するという目標を達成したのです。
世の中のことは、自分の思い通りにならないことの方が多いです。だからこそ、「さすがにこれは無理かな」と思うような高い壁でも、ためらわずにトライしてみることが大切です。
もし失敗して断られたら、落ち込まずにさっさと切り替えて、別のチャンスに挑戦すればいいのです。
この「ダメ元」の精神でどんどんチャレンジする人にだけ、幸運は必ず訪れるのです。
「ウソをつかない」「仲間を作らない」本当の意味
人間関係や心の持ち方について、森永先生はとてもシンプルで力強いアドバイスをしています。その一つが「できる限りウソの少ない人生を送る」ということです。ウソをつくことは、実は自分自身をとても苦しめることになります。
例えば、あなたが本当はコショウをかけるのが大好きなのに、つい見栄を張って「僕はコショウが大嫌いなんだ」と小さなウソをついてしまったと想像してみてください。
それ以降、あなたはラーメンを食べる時もチャーハンを食べる時も、周りに知り合いがいないかビクビクしながら隠れてコショウをかけなければならなくなります。
一度ついたウソを隠すために、また新しいウソをつき、自分の行動を縛ってしまうのです。しかし、最初から正直に本当のことを言っていれば、何も隠す必要はなく、堂々とストレスのない自由な毎日を送ることができます。
森永先生自身も、ガンであることを世間に発表できず、真実を隠さなければならなかった期間が一番大きなストレスだったと語っています。
本当のことを言うのは勇気がいるし、時には損をすることもあるかもしれませんが、それでも正直に生きる方が心は圧倒的に楽なのです。
また、先生は「私には友達がいない」「仲間を作らない」という少し驚くような方針を持っています。友達がいないと聞くと寂しい人のように感じるかもしれませんが、これには深い理由があります。
グループや派閥といった「仲間」を作ってしまうと、誰かがトラブルを起こした時に自分も巻き込まれたり、逆に自分の行動が仲間に迷惑をかけてしまうことがあります。
また、現代の若い人たちはSNSで常に仲間と繋がっていますが、すぐに返信しないと仲間外れにされるかもしれないと怯え、自分の大切な時間を奪われてしまっています。
誰かが助けてくれるのを待つのではなく、もし敵が攻めてきたらたった一人でも裏山から竹を切り出して竹槍を作って戦う。
それくらいの強い覚悟を持つことが大切です。誰かに依存するのではなく、一人で立つこと。そして、自分が本当にやりたいことに集中する「アーティスト」になるためには、周りの空気に流されず、孤独に耐えられる強さを持つことが何よりも重要なのです。
命の時間が限られているからこそ、全力の短距離ランナーになろう
人間はいつか必ず死を迎えます。死んだ後にあの世に行ったり、生まれ変わったりするのかは誰にもわかりません。
森永先生は、あらゆる科学的な研究や歴史の勉強から、あの世や神様は存在せず、確実に存在しているのは「今私たちが生きているこの現世だけだ」と考えています。
だからこそ、今生きているこの世界で、自分がやりたいことを表現し、自分が満足できる「自己実現」を果たすことが、人間にとって一番の幸せなのです。
森永先生は、お医者さんから「ステージ4のガンで、余命はあと4ヶ月です」と重い宣告を受けました。普通の大人なら、残された時間を使って、今まで行けなかった遠くに旅行に出かけたり、高級なレストランで美味しいものを食べたりして、のんびりと楽しもうとするかもしれません。
お医者さんも不思議に思って「なぜあなたは旅行に行かないのですか」と尋ねたそうです。しかし、先生にはのんびりしている暇はありませんでした。
残された短い時間で、どうしても達成しなければならない重要な3つの課題があったからです。
1つ目は書きかけだった本を最後まで書き上げること、2つ目はいつも聴いてくれているリスナーのためにラジオの生放送を絶対に休まないこと、そして3つ目は、大学のゼミに入ってくる新しい教え子たちに、自分の考えや生き抜く技術を直接伝えることでした。
この目標を達成するために、先生はとても痛くて苦しい治療に耐え、自分のお金をたくさん使ってでも命を伸ばす道を選びました。
人生には限りがあります。長い距離を走るマラソン選手のように、周りの様子を伺い、ペース配分を考えながら色々と迷いながら走る人生もあります。
しかし、今の森永先生は、ピストルの音が鳴ったら脇目も振らずにゴールに向かって全力で駆け抜ける「短距離ランナー」です。自分のやるべき目標に向かって、迷うことなく全力で走り切ることこそが、先生が選んだ最高の人生の締めくくり方なのです。
みなさんも、これからの人生にはたくさんの時間があるように感じるかもしれません。しかし、命の時間、そして今という時間は決して無限ではありません。
だからこそ、いつかできたらいいなとぼんやり夢を見るのではなく、今自分が本当にやりたいこと、大好きなことを見つけてください。
そして、周りの意見や失敗を恐れることなく、ダメ元でどんどんチャレンジし、自分の人生という舞台を全力で走り抜けてほしいと思います。
それが、森永先生が命を削って私たちに遺してくれた、一番大切なラストメッセージなのです。
★付録★音声考察

生き抜くための技術に関する一考察
―自由、労働、暮らし、文化の視点から―
はじめに
現代社会では、多くの人が将来への不安を抱えながら生きています。お金の問題、仕事の問題、老後の問題、人間関係の問題など、不安の種は尽きません。そのため、何を大切にして生きればよいのか、自分らしく生きるとはどういうことなのかが見えにくくなっています。こうした時代に必要なのは、単に収入を増やす方法や効率よく成功する方法ではなく、変化の大きい社会の中でも自分の自由を守りながら、納得して生きていくための考え方です。
本稿では、本書に示された多くの経験談や考え方を整理し、人が不安の多い時代を生き抜くための原理を考察します。本書の内容は、特定の難しい理論に基づくものではありません。むしろ、実際の生活や仕事、教育、消費、投資、地方での暮らし、人間関係、夢の持ち方などに関する具体的な話から成り立っています。そのため、高校生でも理解できる形で、生き方の原則として読み直すことに大きな意味があります。
本稿の中心的な結論は、人が生き抜くために本当に必要なのは、金銭や地位そのものではなく、自分の自由を守るための備え、自分の頭で価値を判断する力、無駄な競争から降りる勇気、そして日々の暮らしの中に喜びを見つける教養である、という点にあります。
第一章 自由を守るためのお金の意味
お金はしばしば豊かさそのものとして扱われます。しかし本書では、お金の意味はそれとは少し違って捉えられています。お金はぜいたくのためにあるのではなく、自分の自由を守るための道具である、という考え方です。これは重要な視点です。なぜなら、人はお金がないと、自分の考えに反することでも受け入れざるを得なくなるからです。
たとえば、生活がぎりぎりの状態であれば、職場で理不尽な命令を受けても逆らいにくくなります。さらに悪い場合には、間違っていると分かっていても、不正や不誠実な行為に加わらざるを得ないことさえあります。このように、お金が不足している状態は、単に不便であるだけでなく、人の判断や行動の自由を奪います。逆に、当面の生活に困らないだけの蓄えがあれば、無理な要求を断ることもできますし、自分に合わない環境から離れる選択肢も持てます。
本書では、このために必要な蓄えとして「生活費の三年分」が一つの目安として示されています。ここで大切なのは、収入の三年分ではなく、あくまで生活費の三年分であるという点です。つまり、普段から支出を抑え、少ないお金でも暮らせるようにしておけば、必要な蓄えの額も小さくてすみます。生活の基礎コストを下げることが、自由を得る近道になるのです。
また、必要以上にお金を増やそうとする姿勢にも批判が向けられています。いくら持っていても、さらに増やそうとする状態は、お金に使われている状態とも言えます。本来、お金は人生を支える手段であるはずなのに、それ自体が目的になってしまえば、かえって不自由になります。必要な備えを持った後は、やりたくない仕事を減らし、本当にやりたいことに時間を使う方が人間らしい生き方につながる、という考え方が本書の土台にあります。
第二章 投資信仰への疑問と働くことの価値
現代では、投資は将来のために必要な常識であるかのように語られることが多くなっています。長期、分散、積み立てを守れば資産は増えるとされ、若い世代にも高齢世代にも投資が勧められています。しかし本書では、この見方に強い疑問が投げかけられています。
その理由の一つは、金融市場には常に投機とバブルの危険があるからです。価格は本来、そのものの実際の価値に支えられているべきですが、現実には期待や熱狂によって大きくふくらみます。そして、ふくらんだものはやがて崩れます。過去の歴史を見ても、バブルは繰り返し起きてきました。つまり、投資によって安定してお金が増えるという考えは、あまりに楽観的だということです。
本書は、投資によって老後資金を作ろうとする発想にも否定的です。生活に必要なお金まで投資に回すことは、人生の土台を不安定にするからです。投資は、本質的にはギャンブル性を含みます。失っても生活に困らない範囲で行うならまだしも、暮らしを支えるお金まで投じるのは危うい行動だとされています。
その代わりに強調されるのが、真面目に働くことの価値です。ここでいう働くことは、ただ長時間労働を続けることではありません。自分の生活を支え、自分で責任を負いながら、必要なものを生み出していく行為としての労働です。お金が自然に増えるという幻想を捨て、自分の力で暮らしを成り立たせる発想に戻ることが、安定した人生につながると考えられています。
また、安全な資産として現金や田舎の不動産が挙げられている点も特徴的です。ここには、華やかな金融商品よりも、生活に根ざした現実的な備えを重視する姿勢が表れています。投資の夢よりも、暮らしそのものを安定させる方が先であるという考え方です。
第三章 教養が無駄な出費を減らす
本書では、教養は単なる知識の量ではなく、日常の中に楽しみを見つける力として描かれています。この視点は非常に重要です。なぜなら、教養がある人ほど、お金をかけずに豊かな時間を過ごせるからです。
都会には、作り込まれた娯楽があふれています。テーマパーク、高級レストラン、観劇、ブランド店などは、たしかに人を楽しませます。しかし、それらは高いお金を支払って受け取る娯楽です。一方で、自然や地域の暮らしの中には、お金をほとんどかけずに味わえる楽しみがたくさんあります。空の雲を眺めること、鳥や植物の名前を知ること、畑で作物を育てること、図書館で本を読むことなどです。これらを楽しめるかどうかは、持っている教養に左右されます。
つまり、教養が低ければ、お金を払って娯楽を買うしかありません。反対に、教養が高まれば、身近な世界そのものが豊かな遊び場になります。本書が地方の文化政策や図書館、コミュニティ施設、農業体験などを高く評価しているのは、そのためです。とくに、文化や学びを大切にする地域では、住民自身の生活満足度も高くなりやすく、人口の増加にもつながると考えられています。
ここから分かるのは、豊かな暮らしとは支出の多さではないということです。むしろ、少ないお金で深く楽しめる力を持つことこそが、本当の豊かさに近いのです。教養は、収入を増やすためだけのものではなく、人生のコストを下げ、幸福の質を上げる力を持っています。
第四章 ブランド信仰を離れ、目利きの力を持つ
消費社会では、ブランド品を持つことが質の高い生活の証のように見なされることがあります。しかし本書は、ブランドそのものに頼る考え方を批判します。なぜなら、ブランド価格の大部分は実際の品質そのものではなく、名前やイメージに対して支払われていることが多いからです。
たしかに、品質の良い製品は存在します。しかし、それを見抜く力を持たないままブランド名だけを信じてしまえば、必要以上に高いお金を払うことになります。そこで必要になるのが、目利きの力です。何が本当に良いのか、何にどれだけの価値があるのかを、自分で判断する力です。
この力は、節約だけでなく、生き方全体にも関わります。物の価値を自分で判断できる人は、流行や世間の評価に振り回されにくくなります。また、好きな分野を長く見続けることで、その分野における目利きの力は磨かれます。そしてその力は、場合によっては仕事や商売にもつながります。古本や中古品、コレクションの世界では、目利きが価値そのものを生み出すからです。
ここで大事なのは、目利きは単なる金もうけの技術ではないという点です。それは、自分の感性で世界を見る力でもあります。何が美しいか、何が面白いか、何が残すに値するかを、自分の目で見て決めることは、他人の価値観に支配されない生き方につながります。
第五章 無意味な仕事から距離を取る
本書の中でも印象的なのが、いわゆる「ブルシット・ジョブ」への批判です。これは、やりがいも工夫もなく、ただ機械のように指示に従うだけの仕事を指します。そのような仕事は、収入を得る手段ではあっても、人間としての喜びや誇りを与えてくれません。
問題なのは、こうした仕事が一部の人だけの問題ではなく、社会全体で広がっていることです。コンピューターやシステムに細かく管理され、効率だけを求められ、創意工夫の余地がほとんどない仕事は、人から時間と体力だけでなく、生きる意味の感覚まで奪います。疲れ切って帰宅し、また翌日も同じことを繰り返す生活では、自分が何のために生きているのか分からなくなりやすいのです。
本書は、こうした仕事を続けることこそ、人生最大の損失だと見ています。なぜなら、お金だけでなく、人生の貴重な時間そのものを失うからです。しかも、都市部でそのような働き方を続けると、家賃や生活費が高くなり、働いて得たお金がまた生活の維持に消えていきます。その結果、苦しい仕事から抜け出せなくなります。
ここで示される対策は、大都市中心の生活から離れ、生活コストの低い場所へ移ることです。地方や都市近郊であれば、少ない収入でも暮らしやすくなります。つまり、収入を増やすことばかり考えるのではなく、そもそもお金があまりかからない生活をつくることが重要だということです。仕事に人生を食い尽くされないためには、支出を減らし、働き方の前提そのものを変える必要があります。
第六章 老後不安から自由になるための発想
現代では、「年金だけでは足りない」という言葉が何度も繰り返されます。そのため、多くの人が老後に対して必要以上に不安を抱えています。しかし本書は、この考え方そのものを見直すべきだと主張します。問題は、老後に大金が必要なのではなく、お金のかかる生活を老後まで続けようとしていることにある、という視点です。
もし年金の範囲で暮らせる生活を作れれば、老後の不安は大きく減ります。そのためには、若いうちから大きな支出に依存しない生活を身につける必要があります。住む場所、食べるもの、娯楽のあり方、人付き合いの仕方などを見直し、少ないお金でも満足できる暮らし方を作ることが重要です。
この考え方は、老後だけに限りません。結局のところ、人は必要なお金が少ないほど自由になれます。反対に、たくさん使う生活に慣れるほど、多く稼ぎ続けなければならなくなります。老後不安とは、お金の問題であると同時に、暮らし方の問題でもあるのです。
第七章 夢、芸術、運、人との関わり
本書の後半では、より人生観に関わる話題が増えていきます。その中で目立つのは、夢は語るだけではなく実現すべきものだ、という考え方です。一度きりの人生なのだから、自分なりの足跡を残すべきだという強い意志が感じられます。
また、芸術についても特別な人のものではなく、人々の暮らしの中にあるものとして捉えられています。誰もが何らかの形で表現者になれる社会の方が望ましいという考えは、非常に開かれたものです。ここでは、芸術は高級で難しいものではなく、生活の延長線上にある創造性として理解されています。好きなものを集めること、育てること、作ること、伝えることもまた、人生を豊かにする活動なのです。
さらに、本書では運の重要性も語られています。成功は才能や努力だけで決まるのではなく、人との出会いや時代の流れなど、多くの偶然に左右されます。しかし、運はただ待つものではありません。言葉づかいや人付き合いによって、運の良い人に近づき、チャンスが集まりやすい場所に身を置くことは可能だとされています。暗く不満ばかり口にする人よりも、周囲を見て必要なときに力を貸せる人の方が、人に可愛がられ、結果として運にも恵まれやすいという考え方です。
ここで重要なのは、運を非科学的なものとして片づけていないことです。むしろ、人との関係の中で生まれる現実的な力として捉えています。どんなに能力があっても、孤立していてはチャンスは来ません。反対に、人との距離感を上手に取り、信頼を得られる人には、自然と話や機会が集まります。つまり、生き抜く技術には、人間関係を丁寧に築く力も含まれているのです。
おわりに
以上のように、本書に示された生き方の知恵は、お金、投資、消費、仕事、老後、文化、夢、人間関係といった一見ばらばらの話題を含みながら、実は一つの方向を指しています。それは、他人が決めた競争のルールに振り回されず、自分の自由を守りながら生きる、という方向です。
そのために必要なのは、第一に、生活コストを下げて自由を守ることです。第二に、お金やブランドや流行に頼りすぎず、自分の目で価値を見抜くことです。第三に、意味のない仕事に人生を奪われないことです。第四に、お金をかけなくても楽しめる教養を育てることです。第五に、夢や創造性を持ち、人とのつながりの中で運を引き寄せることです。
本書の魅力は、これらの主張が抽象的な理想論ではなく、実際の経験と暮らしの中から語られている点にあります。だからこそ、その内容は若い人にも、中高年にも届きます。生き抜くとは、激しい競争に勝ち続けることではありません。むしろ、自分にとって本当に必要なものを見極め、不要なものを手放し、身近な世界の中に喜びと意味を見いだしていくことです。そうした態度こそが、不安の多い時代をしなやかに生きるための、もっとも確かな技術であると考えられます。

