「定年後の日本人は世界一の楽園を生きる」を小学生でも分かるように説明します(本・書籍)会社を離れたあと、人はどう幸福に生きるべきか
定年後の日本人は世界一の楽園を生きる
著者 佐藤 優

今の日本はおじいちゃんおばあちゃんにとって世界一の楽園
この本の著者、佐藤優さんは、六十歳を過ぎて会社を辞めた定年後の日本人にとって、今の日本は世界一の楽園だと伝えています。
どうしてそう言えるのでしょうか?
まず、日本の医療の素晴らしさがあります。佐藤さんは六十三歳の時、腎臓という体の部分が悪くなり、奥さんから腎臓をもらう大きな手術を受けました。
その時、日本の制度のおかげで、本当ならとても高いお金がかかるはずの手術を、決められた金額以上は払わなくて済む仕組みで受けることができました。
このおかげで佐藤さんはすっかり元気になり、仕事も前よりうまくできるようになったそうです。
昔の江戸時代などなら助からなかったかもしれない病気でも、今の日本では素晴らしい医療を安い値段で受けることができるのです。 さらに、日本は生活がとても便利で豊かです。
佐藤さんは若い頃、ソビエト連邦という昔のロシアの国に仕事で住んでいました。その国では、毎日の食べ物を買うためだけでも大変でした。
マイナス十五度の寒い外で一時間も行列に並んで、やっとご飯を食べられる状態だったのです。
一番佐藤さんが幸せを感じたのは、年に二回だけしかお店に入ってこないトイレットペーパーを買えた時でした。普通の人たちはトイレットペーパーがないので新聞紙でお尻を拭いていたくらいです。
その時に比べたら、今の日本はどうでしょう。コンビニエンスストアに行けば美味しくて安いお弁当がいつでも買えます。
百円ショップやスーパーには何でも揃っています。インターネットを使えば、月に千円くらい払うだけで、たくさんの映画やアニメが見放題になります。
このように、お金をたくさん持っていなくても、安全で、便利で、楽しい生活が送れる日本は、まさに世界一の楽園なのです。
人生の最後を過ごす場所として、これほど恵まれた環境は世界中を探してもなかなかありません。
だからこそ、この素晴らしい日本で、定年後の長い時間を思い切り楽しんで生きていってほしいと、佐藤さんは願っているのです。
心のスイッチを切り替えてお金は守りに徹しよう
六十歳になって会社を辞めると、これまでとは全く違う生活が始まります。この時に一番大切なのは、心の中にあるスイッチを切り替えることです。
会社で働いていた時は、「もっと偉くなりたい」「もっとお金を稼ぎたい」「競争に勝ちたい」と思って、がむしゃらに頑張ってきた人が多いでしょう。
でも、定年後もその気持ちを持ったままだと、うまくいきません。会社での役職や、たくさんお給料をもらっていた昔の偉かった自分のことは、すっぱりと忘れて、捨ててしまうことが大切です。これをリセットすると呼びます。
佐藤さん自身も国の役所で働いていた時に、ある事件に巻き込まれて逮捕され、五百十二日間も狭い部屋に閉じ込められるという辛い経験をしました。
その時に、昔の立派だった自分と決別するしかなかったそうです。でも、そのおかげで、今の自由な生活を手に入れることができました。
定年後の人生で目標にしてほしいのは、自分のためだけでなく「他の人のために生きる」ということです。
佐藤さんが教えていた大学を作った新島襄という人は、良心という言葉を大切にしました。他の人の気持ちを考えて、人のために行動できる人が増えれば、社会全体が強くて良いものになります。
嫌いな人と無理に付き合うのはやめて、自分が本当に大切にしたいことや、人の役に立つことに時間を使いましょう。 そして、定年後のお金の使い方にも注意が必要です。
会社を辞める時、退職金というまとまった大きなお金をもらうことがあります。このお金を使って、「自分でお店を始めよう」とか、「株などで投資をしてお金を大きく増やそう」と考える人がいますが、佐藤さんは絶対にやってはいけないと強く言っています。
なぜなら、六十歳を過ぎてから新しいビジネスを始めて成功する確率は、ほとんどゼロに近いからです。プロが相手の株式投資で素人が勝つのはとても難しいのです。
もし失敗して大切なお金を全部失ってしまったら、取り返しがつきません。 だから、定年後のお金は増やすことよりも減らさないことを第一に考えるべきです。つまり、守りに徹するのです。
お金を一番確実に残す方法は、お金を使わないことです。最近の若い人たちは、無駄遣いをせずに、コンビニの食べ物や動画配信サービスで、お金をかけずに楽しく生きる方法を知っています。
おじいちゃんやおばあちゃんたちも、バブル時代というお金を使っていた昔の派手な感覚を捨てて、この若い人たちのお金をかけない生活を見習うべきです。
もしどうしても投資をしたいなら、国が発行している国債という一番安全なものを選ぶか、本当に失っても困らない少しの金額だけにしましょう。
大切なお金は、自分の健康を守るための人間ドックや、家族との楽しい思い出作りのために使うのが一番良い投資になります。
昔の教科書で勉強し直して無理のないペースで働こう
定年後の時間割の中で、大きな楽しみになるのが勉強です。学生時代はテストのために嫌々やっていた勉強も、大人になってから自分の興味のあることを自由に学ぶのは、とても楽しいものです。
佐藤さんが特におすすめしているのが、高校時代の教科書をもう一度読み直してみることです。たとえば、現代国語の教科書には、有名な小説や歴史、科学の文章など、様々な分野の素晴らしい文章がたくさん載っています。
また、数学をやり直すと、物事を筋道立てて考える力がつきます。倫理という科目を学べば、世界中の哲学者や宗教家が何を考えていたかを知ることができ、今のニュースや人間関係を理解するのにとても役立ちます。
昔使っていた教科書をインターネットで安く買って読んでみると、若い頃の記憶が蘇ってきて、脳に良い刺激を与えることができます。 また、大学の図書館を利用するのも素晴らしい方法です。
日本の多くの大学図書館は、近所に住んでいる一般の人にも開放されています。そこには普通の図書館にはない専門的な本がたくさんあって、まるで知識の宝庫、オアシスのような場所です。
歴史や文化など、自分の住んでいる地域のことを深く調べるのも面白いでしょう。お金をかけずに、本を読んだり勉強したりして新しい世界を知ることは、人生を何倍も豊かにしてくれます。
そして、定年後の仕事についても考え方を変えましょう。六十歳を過ぎたら、若い頃のように長時間無理をして働く必要はありません。これまでの長い経験を活かして、無駄を省き、短時間で効率よく働くことが大切です。
最近はインターネットを使って自宅で仕事をするリモートワークも当たり前になりました。家でパソコンを使ってできる仕事がたくさんあります。
また、お金をたくさん稼ぐことよりも、自分がやっていて楽しい仕事や、社会の役に立つ仕事を選ぶのがおすすめです。
たとえば、スーパーの店員さんや公園の掃除、駐車場の案内など、体を動かして人と接する仕事は、誰かの役に立っていることを直接感じられて、とても幸せな気持ちになれます。
お給料は少なくても、週に数日だけ、自分の好きな時間に働ける仕事を選ぶのが良いでしょう。
シルバー人材センターというところに登録すれば、自分の得意なことや趣味を活かした仕事を見つけることもできます。定年後は、社会とつながって健康に生きるために、無理のないペースで働くことが一番の幸せなのです。
本当の友達だけを大切にして自分だけの秘密基地を作ろう
会社で働いていた時は、仕事の付き合いでたくさんの人とご飯を食べに行ったり、名刺を交換したりしていたと思います。でも、定年後はそういう仕事だけの人間関係は思い切って整理してしまいましょう。
佐藤さんは、逮捕された時に、それまで仲の良かった人たちが手のひらを返したように離れていったという悲しい経験をしました。その時に、最後まで味方でいてくれた本当の友達は、たったの三人だけだったそうです。
本当の友達というのは、インターネット上の知り合いが何千人いるということではありません。自分が一番困っている時に助けてくれる人、顔を合わせて本音で語り合える人のことです。
本当の友達は一生のうちで十人いれば十分です。特に、学生時代の友達は、仕事の利害関係がないので、何十年経っても昔のままの気持ちで付き合うことができます。同窓会に参加して、昔の友達とのつながりをもう一度作り直すのも良いでしょう。
逆に、一緒にいて嫌な気持ちになる人や、疲れる人とは、もう無理をして付き合う必要はありません。人間関係も、本当に大切な人だけを残すことが大事なのです。 そして、定年後に忘れてはいけないのが、自分一人の時間を持つことです。
いつも誰かと一緒にいないと寂しいと思うかもしれませんが、実は孤独は悪いことではありません。歴史上の偉大な発明や芸術、哲学の多くは、人がたった一人で深く考えた孤独な時間から生まれています。
佐藤さんはこの時間を賢者の時間と呼んでいて、何もせずに一人でぼーっと考える時間をとても大切にしています。 この一人になる時間を作るために、家の中や外に自分だけの秘密基地を作ることをおすすめしています。
ずっと家の中で夫婦が顔を突き合わせていると、いくら仲が良くても息が詰まってしまったり、喧嘩になってしまったりすることがあります。
だからこそ、お互いが適度な距離を保つことが、夫婦仲良く過ごすための秘訣です。 もしお金に少し余裕があるなら、家賃の安い小さなアパートを借りて、昼間はそこで本を読んだり趣味に没頭したりするのも良いでしょう。
それが難しければ、地域の図書館やコミュニティセンター、または安く使える自習室などでも構いません。
子供の頃に押し入れに自分だけの空間を作ってワクワクしたように、大人になってもそういう場所を持つことで、心が落ち着き、ストレスのない生活を送ることができます。
夫婦の仲を良くするためにも、少しだけ離れる時間と場所を作ることはとても効果的なのです。
家族との時間を一番に考えて健康第一で生きていこう
人生の最後に向けて一番頼りになるのは、やはり家族です。仕事ばかりしてきて、家族の顔をちゃんと見てこなかったお父さんたちは、定年を機に家族との関係をしっかりと作り直さなければなりません。
佐藤さんは、コロナウイルスの大流行や、大ヒットしたアニメである鬼滅の刃を見て、「最後に自分を守ってくれるのは、会社でも国でもなく、家族の絆なんだ」と強く感じたそうです。
だからこそ、奥さんや子供たちと一緒に過ごす時間を何よりも大切にしてください。
一緒にテレビを見たり、犬や猫と遊んだり、同じ部屋で時間を共有するだけでも良いのです。また、奥さんの家事の負担を減らすために、お掃除ロボットや食器洗い機などの便利な家電を買ったり、たまには外食をしたりして、家事をお金で解決することも大切です。
そして、定年後の大きな課題となるのが親の介護です。もし自分の親が介護を必要とする状態になった時、「自分が全部面倒を見なければ」と抱え込んでしまう人がいます。
とても真面目で優しい人ほどそう思いがちですが、それは絶対にやってはいけません。一人で無理をすると、心も体も疲れ果ててしまい、親も自分も不幸になってしまいます。
日本の介護保険制度はとても素晴らしい仕組みです。親の介護が必要になったら、まずは自分が住んでいる市や町の地域包括支援センターに相談しましょう。
そこには介護のプロフェッショナルがたくさんいて、色々なアドバイスをしてくれます。特別養護老人ホームやケアハウスなど、お金があまりかからない公的な施設もたくさんあります。
介護はプロの専門家に任せて、家族は愛情を注ぐことに専念するというのが、これからの正しいやり方です。 もちろん、自分自身の健康を守ることも忘れてはいけません。
人生を計画する時は、いつまで生きるかという寿命よりも、いつまで元気で動けるかという健康寿命を意識することが大切です。
だいたい七十代の半ばくらいまでは元気に動けますが、その後は誰かの助けが必要になることが多いです。
元気なうちに何をしておきたいか、お金をどう使うかを逆算して計画を立てましょう。病気になってから後悔しないように、毎年しっかりと健康診断や人間ドックを受けて、自分の体を大切にすることが一番の投資になります。
他人と比べないで自分だけの幸せを見つける人生のまとめ
ここまで、定年後の人生をいかに楽しく、安全に生きるかというお話をしてきました。最後に一番大切な心構えをお伝えします。
それは、他人と自分を絶対に比べないことです。 昔の有名な作家であるビクトル・ユーゴーは、「四十歳は若者の老年期、五十歳は老人の青年期」と言いました。
六十代以降の定年後は、まさに人生の黄金期、一番輝く時期なのです。
しかし、せっかく自由な時間があるのに、「あの人はたくさん年金をもらっているのに自分は少ない」とか、「あの人は立派な家を持っているのに」と、他人と比べて羨ましがったり、ひがんだりしていては、絶対に幸せにはなれません。
フランスの有名な哲学者であるマルクスは、「人間とは、自分の運命を支配する自由なもののことである」と言いました。自分が幸せかどうかを決めるのはお金や地位ではなく自分自身の心だということです。
日本の定年後の人たちは、本当に恵まれています。安全な街、美味しい食べ物、いつでも本が読める図書館、安心して受けられる安い医療、そしてインターネットを使ったたくさんの娯楽。これだけ条件が揃っているのに、不満ばかり言っているのはもったいないことです。
大きな夢を見たり、派手な生活をしたりする必要はありません。天気の良い日にハイキングに行って、帰りに美味しいおそばを食べる。それだけでも十分に素晴らしい一日です。
自分の持っている財産や年金をしっかり計算して、無理のない範囲で生活を組み立てる。
そして、自分が心から面白いと思える勉強を続けたり、気心の知れた本当の友達とたまにお茶を飲んだりする。そんなささやかだけれど、心静かで豊かな生活こそが、定年後の究極の幸せなのです。
神様が定めた運命を受け入れ、日本の素晴らしい環境に感謝しながら生きる。そうすれば、間違いなく世界一の楽園を楽しむことができます。
おじいちゃんやおばあちゃんたちが笑顔で過ごすことは、周りの若い人たちや日本全体に元気と希望を与えることにもつながります。
他人と比べることをやめて、あなただけの、あなたらしい最高に幸せな定年後の人生を作っていってください。これが、佐藤優さんがこの本に込めた、最も大切なメッセージなのです。
★付録★音声考察
定年後の日本における幸福な生き方について
本稿では、定年後の日本人が置かれている環境を見直し、その時期をどのように生きるべきかについて考察します。一般には、定年後は仕事を失い、収入が減り、体力も衰えるため、人生の下り坂のように受け取られがちです。
しかし見方を変えれば、現代の日本は、定年後の人が安心して暮らし、自分らしい時間を取り戻すための条件が非常によくそろった社会です。医療、生活インフラ、学習環境、文化、通信手段などを総合して考えると、定年後の日本は、世界でもまれなほど恵まれた場であると言えます。大切なのは、現役時代の価値観をそのまま引きずるのではなく、新しい人生の段階にふさわしい考え方へと心を切り替えることです。
まず注目すべきは、日本の医療と社会制度の充実です。年齢を重ねると、だれでも病気や身体の不調と無縁ではいられません。若いころのように無理がきかなくなり、入院や手術が必要になることもあります。そのとき、日本では高度な医療を比較的負担を抑えて受けることができます。
高額な治療であっても、公的な制度によって家計が完全に崩れてしまうことを防ぎやすい仕組みがあります。これは、老後の安心にとってきわめて大きな意味を持ちます。昔であれば命に関わったような病気でも、現代の日本では治療によって回復し、その後の生活を続けられる場合が少なくありません。つまり、定年後の日本人は、健康上の不安を抱えつつも、支えとなる制度の中で生きることができます。これは単なる便利さではなく、人生を落ち着いて設計できる土台そのものです。
次に重要なのは、日常生活の便利さです。日本では、生活に必要な物資を手に入れることに苦労する場面がきわめて少ないです。食料品、日用品、医薬品などが近所で手に入り、しかも一定の品質が保たれています。コンビニやスーパー、宅配サービス、通信販売なども発達しており、身体が以前ほど自由に動かなくなっても、暮らしそのものが成り立ちやすい環境があります。
こうした便利さは、ふだんは当たり前に見えても、実は人間の安心感に深く関わっています。毎日の生活必需品を心配せずに済むことは、心を落ち着かせ、余った力を読書や趣味、家族との時間などに向ける余裕を生みます。定年後の幸福は、特別な出来事よりも、まずこのような日常の安定の上に成り立つのです。
さらに、現代の日本では、学び直しや知的活動を続けやすい点も見逃せません。各地に大学や図書館、地域の公共施設があり、一般の人にも開かれている場合が多いです。若いころに時間がなくて深められなかった関心を、定年後に改めて追究することができます。
また、インターネット環境が広く整っているため、自宅にいながら動画講義を見たり、オンラインで知識を得たりすることも可能です。かつては個人で学んでも発表の場が限られていましたが、今はSNSなどを通じて自分の考えを外に向けて発信することもできます。つまり、定年後は社会から離れる時期ではなく、競争から一歩退いて、自分の関心と経験に基づいて新たな知的生活を築く時期だと考えられます。学ぶことは若者だけのものではなく、年齢を重ねたからこそ深まる学びもあります。
しかし、そのような恵まれた環境を生かすためには、心の持ち方を改める必要があります。現役時代の仕事中心の価値観にしがみついていると、定年後の生活はかえって苦しくなります。会社では地位や収入、肩書き、評価といったわかりやすい基準がありました。しかし家庭や地域では、そのような基準はほとんど通用しません。
にもかかわらず、過去の成功体験や立場に執着すると、現在の自分との落差に苦しみ、家族や周囲との関係もぎくしゃくしやすくなります。そこで必要になるのが、過去の自分像をいったん手放すことです。これまで積み上げてきたものをすべて否定するのではなく、それに縛られすぎないという意味での「リセット」が求められます。定年後は、競争に勝つための人生ではなく、自分が無理なく納得して生きる人生へ移る時期なのです。
この点において、定年後は「守り」を重視すべき時期でもあります。若いころや現役時代は、仕事でも人間関係でも、前へ前へと広げていく姿勢が有効でした。しかし年齢を重ねてから同じやり方を続けると、体力、気力、資金の面で無理が生じます。特にお金については、退職金や貯蓄を元手に大きな投資や起業に挑むことは慎重であるべきです。
定年後の生活は、ここから一発逆転を狙う局面ではなく、今あるものを大切に守りながら長く安定して暮らす局面です。収入が増えなくても、支出を抑え、減る速さをゆるやかにすることはできます。その発想に立てば、必要以上の不安からも解放されます。守りに入ることは消極的な敗北ではなく、老後を壊さないための知恵です。
また、人間関係についても同じことが言えます。現役時代には、仕事上の付き合いや広い人脈が重要でした。しかし定年後までそのまま多くの関係を維持しようとすると、かえって疲れてしまいます。残された時間が限られているからこそ、誰と過ごすかを選び直す必要があります。
本当に親しい人、大切な人、安心して一緒にいられる人との関係を深めることの方が意味があります。家族との時間を見直し、無理な付き合いを減らし、自分の行動範囲もある程度しぼることで、生活は落ち着きます。これは世界を狭くすることではなく、自分にとって大事なものをはっきりさせる作業です。定年後は、量より質の人間関係がふさわしいのです。
そして、定年後の自由とは、何もしない権利も含めた自由であるべきです。現代社会では、常に活動的で、役に立ち、外へ出ていくことがよいとされがちです。しかし、人によっては少し距離を置き、静かに暮らす方が合っている場合もあります。毎日どこかへ通い、だれかに評価され続ける生き方だけが正しいわけではありません。
動画を見て過ごす日があってもよいし、読書や趣味に没頭してもよいのです。定年後には、社会の競争から降りて、自分の時間を自分のために使う権利があります。逃げるべきときに逃げること、無理な場所から距離を取ることも、弱さではなく知恵です。そうした自由を自分に許せるかどうかが、老後の心の安定を左右します。
同時に、定年後は生きる意味を見直す時期でもあります。若いころは、成功や出世、収入の増加が目標になりやすいですが、それだけでは人生の後半を支えきれません。むしろ、これまでの経験を踏まえ、自分にとって本当に大切なことは何かを考える必要があります。やりたいことと、やるべきことをそれぞれ書き出し、重なる部分を見つけることは、その手がかりになります。
そこに、残りの人生の中心が現れます。教育、家族、健康、趣味、執筆、地域との関わりなど、人によって答えは異なります。しかし、自分なりの軸が定まれば、定年後の生活は受け身ではなくなります。人生の終盤とは、何かを失うだけの時期ではなく、自分の意味を自分で選び直す時期でもあるのです。
以上のように、定年後の日本には、医療制度、生活の便利さ、学びの場、文化的資源、通信環境など、穏やかで充実した生活を支える条件が整っています。しかし、その価値は、現役時代の物差しを手放し、守りを重視し、生活を自分の本音に合わせて組み直したときに、はじめて十分に生かされます。定年後とは、何かが終わる時期ではなく、競争から解放されて、自分の経験と知恵を静かに実らせる時期です。
現代の日本において、そのような生き方は十分に可能です。ゆえに、定年後の日本人は不安ばかりを見るのではなく、この社会に与えられている条件を正しく見直し、自分に合った穏やかな幸福を築いていくべきだと考えます。

