
「部下をうまく動かせない」と悩むリーダーへ―自分らしさと信頼でチームを変える「ナチュラル・リーダーシップの教科書」を小学生でも分かるように説明します
ナチュラル・リーダーシップの教科書
著者 小日向 素子
はじめに
このnote記事は、無料部分の「小学生でもわかる解説」だけでも十分にご理解いただけます。
有料エリアには「音声考察(日本語版・英語版)」と本のエッセンスをより深く理解するための「大人向けの解説」を用意しております。
なお、この記事は無料・有料・音声考察のすべてにおいて、原著の引用は一切使用しておりません。すべて、私自身の言葉のみで構成したものです。

牧場研修ってどんなもの?
皆さん、「リーダー」と聞くと、どんな人を思い浮かべますか?
クラスの学級委員長や、スポーツチームのキャプテンのように、みんなの前に立って大きな声で「こっちだよ!」「みんな頑張ろう!」と引っ張っていく人を想像するかもしれませんね。
でも、今日お話しする「牧場研修」で学ぶのは、もっと自然で、もっと優しい、新しいリーダーシップの形です。
これは「ナチュラル・リーダーシップ」と呼ばれています。
この牧場研修は、アメリカの有名なスタンフォード大学や、スマートフォンを作っているアップル、それからフェイスブックやナイキといった、世界を代表するようなすごい会社のエリートと呼ばれる大人たちも受けている、とても本格的なものです。
では、この研修はどこで行われるのでしょうか?
それは、ビルの会議室や学校の教室ではありません。
広大な自然が広がる牧場です。
そして、先生は人間の大人ではなく、「馬」なのです。
馬から学ぶと言われると、不思議に思うかもしれませんね。
馬が人間の言葉をしゃべって、黒板に字を書いて教えてくれるわけではありません。
参加する人たちは、馬の群れの中に入っていって、馬を観察したり、馬と一緒に歩いたり、馬と触れ合ったりします。
現代の大人たちは、パソコンの画面ばかりを見て、数字やデータ、ルールといった「頭で考えること」ばかりに集中しています。
皆さんも、学校の勉強や塾で、正解を出すために頭をたくさん使っていると思います。
それはとても大切なことですが、頭ばかりを使っていると、私たちが生き物として本来持っている「感じる力」、つまり五感や心の感覚がどんどん鈍くなってしまいます。
牧場研修は、自然の中で馬という大きくて優しい生き物と接することで、ガチガチに固まってしまった頭をほぐし、忘れかけていた「感じる力」を取り戻すための特別な時間なのです。
なぜ馬から学ぶの?馬の群れの秘密。
では、なぜ犬や猫ではなく、馬から学ぶのでしょうか?
それには、馬という生き物が持っている特別な性質が関係しています。
自然界の動物は、大きく分けて二つの種類がいます。
一つはライオンやオオカミのように他の動物を捕まえて食べる肉食動物。
もう一つは、シマウマや鹿、そして馬のように、草を食べて生きる草食動物です。
馬は草食動物であり、肉食動物から逃げて生き延びてきた歴史があります。
そのため、馬は常に周りの様子をとても敏感に感じ取っています。
風の音、草の揺れ、他の動物の匂い、そして一緒にいる仲間のちょっとした動き。
馬は言葉を話せませんが、その代わりにとてつもなく鋭い「感覚」を持っています。
人間が気づかないような小さな変化にもすぐに気づき、仲間同士で危険を知らせ合って、群れ全体で安全を守ってきました。
一方で人間はどうでしょうか?
人間は言葉という素晴らしい道具を発明しました。
言葉があるおかげで、遠くの人と連絡を取り合ったり、複雑なことを考えたりすることができます。
しかし、言葉に頼りすぎるあまり、私たちはいつの間にか「言葉の檻」という目に見えないカゴの中に閉じ込められてしまっているのです。
「あの人はこう言ったから怒っているに違いない」「こういう時はこう言うのが常識だ」と、言葉やルールだけで相手を判断し、自分の本当の気持ちや感覚に蓋をしてしまうことがよくあります。
また、「誰が一番テストの点数が高いか」「誰が一番仕事ができるか」といった競争ばかりをして、心が疲れてしまうこともあります。
馬の世界には、言葉の檻も競争の檻もありません。
馬は「今、ここ」の状況だけを感じ取って生きています。
そして、人間が馬に近づいたとき、馬はその人間の言葉や肩書きなどは全く気にしません。
その人が今、心の中でどんなことを感じているかを真っ直ぐに感じ取ります。
だからこそ、大企業のえらい社長さんであっても、心が焦っていたり、イライラしていたりすると、馬は絶対に心を開いてくれません。
逆に、心を開いて自然体でいると、馬は優しくすり寄ってきてくれます。
馬は、人間のありのままの姿を映し出す鏡のような存在なのです。
本当のリーダーってどんな人?
さて、牧場研修のプログラムに「リーダーを探せ」というものがあります。
牧場にいるたくさんの馬の群れを見て、「どの馬がリーダーだと思いますか?」と参加者に質問するのです。
大人の参加者にこの質問をすると、多くの人が「あの、一番体が大きくて強そうな馬だ」「色が黒くてかっこいい馬だ」「群れの一番前に立って、他の馬を追い立てている馬だ」と答えます。
人間社会では、リーダーというと「一番強くて、偉くて、みんなに命令して引っ張っていく人」というイメージが強いからです。
しかし、実は馬の群れには、そのような固定されたリーダーは存在しません。
馬の群れのリーダーは、その時々の状況によってコロコロと変わるのです。
例えば、遠くにライオンのような危険な動物が現れたとします。
その時リーダーになるのは、一番早く危険に気づき、安全な逃げ道を見つけるのが得意な馬です。
その馬が真っ先に走り出し、みんながそれに続きます。
そして、群れの一番後ろを走って、仲間が襲われないように守るのは力が強くて勇敢な馬です。
これも立派なリーダーの役割ですね。
また、喉が渇いて水を探さなければならない時は、水を見つけるのが得意な馬がリーダーシップを発揮してみんなを導きます。
つまり、馬の世界では、「誰か一人がずっと偉い」というピラミッドのような形は存在しません。
それぞれが自分の得意なことを活かして、その時その時に必要な人がリーダーの役割を果たすのです。
これは、これからの人間の社会にとっても非常に大切な考え方です。
一人で全ての答えを知っている人なんていません。
クラスのみんなで何かを決める時も、「自分は絵を描くのが得意だからポスター作りではリーダーになろう」「私はみんなの意見をまとめるのが得意だから話し合いの時はリーダーになろう」と、みんながそれぞれの得意分野でリーダーシップを発揮することが求められています。
強いだけがリーダーではありません。
みんなが状況に合わせてリーダーになり、助け合うことができるチームこそが、本当に強いチームなのです。
頭で考えるのではなく、自分の感覚を呼び覚まそう。
牧場研修の次のステップは、自分自身の「感覚」を呼び覚ますことです。
私たちは普段、何かトラブルが起きた時に「どうすればいいんだろう」と頭をフル回転させて考えますが、その前に自分の体や心が「どう感じているか」に目を向けることが大切なのです。
ある会社で営業のリーダーをしている大人の女性、Cさんの話をしましょう。
Cさんは、仕事でお客さんとご飯を食べる機会が多いのですが、その食事の途中で決まってお腹が痛くなるという悩みを持っていました。
そして、お腹が痛くなった後、なぜか余計なことをしゃべってしまい、後になって落ち込むことが多かったそうです。
Cさんは牧場研修に参加し、自分の体の内側から発せられる感覚にじっくりと耳を傾ける練習をしました。
すると、あることに気がついたのです。
お腹が痛くなる前、Cさんはお腹の上のほうがヒヤッとして、宙に浮いたような感覚になっていました。
どんな時にその感覚になるのかをよく観察してみると、「お客さんたちが、自分の知らない話題で盛り上がり始めた時」だということがわかりました。
Cさんは、自分の知らない話が出た時に、無意識のうちに「私も何か話さなきゃ!」と焦り、無理をして変な発言をしてしまっていたのです。
お腹のヒヤッとする感覚は、心が「焦っているよ、落ち着いて」と教えてくれるサインだったのですね。
このことに気づいてから、Cさんはお腹がヒヤッとした時は、「あ、私は今、焦っているんだな」と自分の気持ちを素直に受け止め、無理に会話に入ろうとせず、黙ってニコニコと話を聞くようにしました。
すると、お腹が痛くなることもなくなり、余計な発言をして後悔することもなくなったそうです。
このように、体の感覚にはとても大切な情報が詰まっています。
皆さんも、学校でイライラしたり、不安になったりした時は、すぐに頭で「アイツが悪いんだ」と決めつけたりする前に、一度立ち止まって深呼吸をしてみてください。
「今、私の心臓がドキドキしているな」と自分の感覚を観察してみるのです。
そうすることで、自分の本当の気持ちに気づき、より良い行動を選ぶことができるようになります。
相手を思いやるコミュニケーションと境界線。
自分の感覚がわかるようになったら、次は「相手の感覚」を感じ取る練習です。
ここで大切なのは、相手の気持ちを勝手に決めつけるのではなく、しっかりと観察し、相手との「境界線」を守ることです。
境界線というのは、「ここから先は入ってこないでほしい」と感じる、目に見えない心の壁や距離のことです。
牧場研修に参加したDさんという大人の男性のエピソードを紹介します。
Dさんは頭が良くて仕事もできる人でしたが、部下たちとの関係がうまくいかず悩んでいました。
部下たちはDさんの言うことは聞くけれど、なんだかいつもビクビクしていました。
Dさんは牧場研修で、「馬に関心を寄せて、一緒に歩いてみてください」という課題を出されました。
Dさんは、馬が囲われている場所に入るなり、スタスタと馬に近づき、「さあ行こう!」と何度も声をかけました。
馬の顔を覗き込み、なんとか馬を動かそうと一生懸命になりました。
しかし、馬は一歩も動きません。
体を硬くして、ただ立ち尽くすだけでした。
周りで見ていた他の参加者たちは、Dさんにこう言いました。
「Dさんは馬の顔をずっとすごい目つきで見つめていて、馬は怖がっているように見えました」「自分の『馬と歩きたい』という気持ちばかりを押し付けていて、馬の気持ちを考えていないように見えました」Dさんはハッとしました。
良かれと思って一生懸命声をかけていたつもりが、実は相手の境界線にズカズカと踏み込み、無理やり自分の思い通りに動かそうとしていただけだったのです。
これでは、馬も、そして会社の部下たちも、怖がって心が離れてしまうのは当然です。
翌日、Dさんはもう一度同じ課題に挑戦しました。
今度は、一番遠い場所に立ち、じっと馬を観察しました。
そして、馬が少し右足を動かしたらDさんも右足を動かし、馬の動きに合わせるようにしたのです。
そうして5分ほど経った頃、なんと馬のほうからゆっくりとDさんに近づいてきました。
そして、馬は自分の鼻をDさんの手に優しくコツンと当てて、挨拶をしてくれたのです。
相手を無理やり動かそうとするのではなく、遠くから相手を思いやり、相手のペースを尊重してあげること。
それが本当のコミュニケーションなのだと気づいたのです。
学校の友達関係でも同じです。
自分の意見を押し付けたり、相手が嫌がっているのに無理に近づいたりしてはいけません。
相手をよく見て、相手が安心できる距離を保ちながら優しく接することで、本当の信頼関係が生まれるのです。
一人で抱え込まず、みんなで助け合う勇気。
リーダーシップにおいてもう一つ重要なのは、「自分の弱さを認めて、周りに助けを求めること」です。
リーダーだからといって、一人で完璧である必要はありません。
ある会社を経営しているMさんという社長さんのエピソードです。
Mさんは、いつも社員の先頭に立って、グイグイとみんなを引っ張っていくとても力強いリーダーでした。
ある日、社員たちと一緒に牧場研修に参加したMさんは、馬の手綱を引いて一緒に歩くというワークに挑戦しました。
社員たちはみんな、馬と一緒に気持ちよさそうに歩いていきます。
ところが、Mさんが手綱を握った途端、馬はピタッと止まってしまい、全く動かなくなってしまいました。
Mさんが引っ張っても、馬は反対に引っ張り替えしてきます。
Mさんは焦り、頭が真っ白になりました。
そして、とうとう諦めてその場に座り込み、馬に向かって「私にはできない。
だから助けてほしい」と心の中で祈るように頭を下げたのです。
すると、どうでしょう。
さっきまでピクリとも動かなかった馬が、Mさんのほうに首を向け、自らスッと歩み寄ってきてくれたのです。
Mさんはこの体験から、とても大きなことを学びました。
「リーダーだからといって、全てを一人で完璧にできるわけじゃない。
できない時は『助けて』と素直にお願いすることで、心は通じ合うんだ」と。
会社に戻ったMさんは、社員みんなの前で自分の弱さや苦手なことを正直に話し、「君たちに助けてほしい」と伝えました。
すると、それを聞いた社員たちは「社長でも苦手なことがあるんだ。
じゃあ、そこは私たちが社長を助けよう!」と、自分から進んで行動するようになりました。
社長が一人で頑張っていた時よりも、はるかに素晴らしい会社になったのです。
誰か一人が抱え込んでパンクしてしまう前に、「これ、手伝ってくれない?」と言える勇気と、「いいよ、一緒にやろう!」と助け合えるチームワークが、素晴らしい結果を生み出すのです。
牧場研修が教えてくれる、これからの私たちの生き方。
さて、ここまで牧場研修を通して学ぶ「ナチュラル・リーダーシップ」についてお話ししてきました。
このリーダーシップは、これまでの「誰か一人に命令されて従う」という社会のルールや固定観念から自由になり、自分自身の素直な感覚を大切にする生き方です。
世界では過去に、ルールよりも自分の感覚を信じて素晴らしい行動をした人がいます。
第二次世界大戦の時、日本の外交官だった杉原千畝さんという人がいました。
彼は、日本の政府からは「ユダヤ人にビザを出してはいけない」という命令を受けていました。
しかし、彼は目の前で命の危険にさらされている多くのユダヤ人を見て、「彼らを助けたい」という自分の心からの感覚に従い、命令に背いてたくさんのビザを発行し、6000人以上もの命を救いました。
これは究極の例かもしれませんが、皆さんの日常でも、「みんながこう言っているから」「ルールだから」と思考を止めるのではなく、「でも、私はこう感じる。
これが正しいと思う」という自分の感覚に忠実になる場面がきっとあるはずです。
そして、結果(ゴール)ばかりを気にしすぎないことも大切です。
テストの点数や、試合の勝ち負けも大切ですが、それ以上に「一生懸命勉強した過程」や「友達と一緒に練習した時間」といったプロセスそのものを楽しんでください。
その過程を大切にできれば、結果は後から必ずついてきますし、思いもよらない素晴らしい発見があるかもしれません。
最後に、「センス・オブ・ワンダー」という言葉を紹介します。
これは、自然の美しさや不思議さに感動し、自分もまたこの大きな自然や社会の一部であると感じる心のことです。
馬の群れがそうであるように、私たちは一人で生きているわけではありません。
あなたがありのままの自分を大切にし、同時に周りの友達の気持ちや感覚も大切に尊重することができれば、きっとクラスも学校も、もっと優しくて楽しい場所になるはずです。
これからの時代を作るのは、今これを読んでいる皆さんです。
頭で考えるだけでなく、心で感じることを忘れずに、自分らしく、そして周りの人と調和しながら、未来に向かってしなやかに歩んでいってください。
牧場研修の教えが、皆さんのこれからの人生のヒントになることを心から願っています。
