外国天狗の守り神【セリフ三題噺】
■セリフ
「ほらほら、手が止まってるよ?」
■三題
・イントネーション
・天狗
・味噌漬け
このど田舎の暑い夏の日、子どもが風邪をひいた。
前の日から寝込んでいた子どもが、ふと見ると、天井を見上げて大笑いしている。
「天井に天狗がいる!」
高熱が出たせいで、幻でも見ているのかもしれない。
そう思って、私も天井を見上げた。
すると――
いた。
本当に天狗がいた。
しかも、ものすごい変顔をしている。
「ブッ、ブサッ」
思わず口から出てしまった。
「あなたの方がーブッサー!」
何ですって!!
思わず立てかけてあったクイックルワイパーの棒で、天狗をつついた。
ドシンッ!
「痛いですねー」
天狗は痛がりながらも、ちゃっかり変顔のままだ。
「あんた、ここで何してるの?」
「わたし、守ってますよー」
「はあ?」
子どもは、さらに大笑いした。
天狗は、いたって真面目な顔で……いや、変顔のままでこちらを見ている。
「いい加減にしな!」
私は思わず、天狗をどついた。
話を聞けば、子どもの守り神をしているらしい。
それにしても、この天狗。
イントネーションが変すぎる。
「なんか、外国人が日本語をしゃべってるみたいだわ」
「そうですねー。わたし、外国天狗なのですねー」
すると天狗が、お腹を押さえながら言った。
「大変なところ申し訳ないですー。わたし、お腹空きましたー。何かくださいー」
「しょうがないねぇ」
私は、キュウリを一本渡した。
すると天狗の赤い顔が、みるみる青ざめた。
「カッパと、お間違え、してませんかー?」
「あ」
間違えた。
「贅沢言わないでくれる?」
私が怒ると、天狗はしょんぼりした。
そのとき、天狗の視線が私の手元で止まった。
私が食べていた瓜の味噌漬けだ。
「それ、おいしそーですねー」
キュウリと変わらんぞ……
「これでいいなら、どーぞー」
気づけば、私のイントネーションまでおかしくなっていた。
天狗は瓜の味噌漬けを一切れ口に入れると、目を輝かせた。
「おいしーでーす!」
そして、思いのほか気に入ったらしく、ぱくぱくと食べていく。
「お礼に、何かてつだいまーす」
「じゃあ、お願いしよーかーねー」
今日はちょうど、旦那が町まで出ている。
私は薪の風呂を沸かしていたので、天狗に火の番を頼むことにした。
天狗は、うちわを取り出して、一生懸命あおぎ始めた。
しばらくすると、私は思わず声を上げた。
「ほらほら、手が止まってるよ?」
「すみませーん。わたし、うちわの使い方、下手ですー。外国天狗なのでー」
「使いもんにならんねぇ」
私はため息をついた。
「そんなんで、本当にうちの子の守り神なのかい?」
天狗は、肩を落として黙り込んだ。
すると、背後から声がした。
「お母さん」
振り返ると、子どもが立っていた。
「もう大丈夫なの?」
「うん」
さっきまでの苦しそうな顔は消えていた。
「それより、お母さん。この天狗、本当にぼくの守り神だよ」
「え?」
「昨日の夜さ、すごく苦しかったんだ。汗もいっぱい出て」
子どもは、天狗の持つうちわを指さした。
「そしたら、この天狗が朝までずっとパタパタしてくれてたんだよ。だから熱が下がったんだ」
私は、天狗を見た。
あの下手くそなあおぎ方で。
不器用な手つきのまま、一晩中。
子どもは天狗を見て、にっこり笑った。
「ありがとう、天狗さん」
天狗は、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑った。
「どういたしましてですー」
天狗の身体が、きらきらと光り始めた。
「また、味噌漬け、お願いしますねー」
そう言い残して、天狗は最後に特大の変顔で消えていった。
「ブッサッ……」
私は苦笑した。
それからというもの、私は瓜の味噌漬けを、神棚の横に供えるようになった。
もちろん、きゅうりではなく。
あとがき
実はこのお話、うちの子が小さい頃、高熱を出したときに「天井に天狗がいる!変な顔してる!」と言って大笑いしていた、本当にあった出来事がもとになっています。
残念ながら、私には見えませんでしたが(笑)。
はらとけいさんのお題『セリフ三題噺』
に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
#セリフ三題噺 #イントネーション天狗味噌漬け
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