虫の音【風まかせ文芸部】
夏の終わり。
自転車を引きながら、何気なく歩幅を揃えて歩く優しさ。
途中で何度か立ち止まっては、話をした。
月に任せた陽は、眠りにつく。
街灯がひとつ、またひとつと灯るころ、
さっきまで息を潜めていた虫たちが、競うように音色を奏で始めた。
あなたと、まだ一緒にいたい。
離れたくなくて、話す言葉を探していた。
「もう、遅いから帰ろう」
君が優しく言う。
「……帰りたくない」
つい、言葉が出た。
「わがまま言わないで」
言い返せなかった。
少し離れた草むらから聞こえる虫の音が、やけに大きく響いた。
どうして分かってくれないの?
こんな気持ちを抱えているのは、自分だけなのだろうかと、
胸の奥がじんわりと重くなっていく。
わがままな彼女は、ダメですか?
そう思って俯いた、そのとき。
ふと、唇に柔らかな感触がした。
「え……」
「ごめん。怒った?」
……俯いたまま、首を横に振った。
頭の中が真っ白になって、何も考えられない。
顔を上げられなかった。
ただ、心臓の音だけが、虫の音に負けないくらい大きくなった。
「私、帰るね」
それだけ告げて、逃げるように走り出した。
何も考えられなかった。ただ、無我夢中で走った。
心臓が、痛いくらいに高鳴っている。
部屋に入ると、ベッドに座り、そのまま横に倒れた。
まだ、ドキドキしている。
時計を見つめる。
秒針の音が、やけに大きく響いてくる。
夢のようで、気持ちが追いつかない。
目を閉じる。
あの柔らかな感触を思い出す。
そっと、指で唇に触れてみる。
窓の外から、虫の音が聞こえていた。
夏の終わり。
そして、秋の始まりを告げる虫の音。
最後までお読みいただきありがとうございました😊
ちなみに、これ、私のファーストキスっす💋笑
iさんの企画に参加させて頂きました。
ありがとうございます😊
#風まかせ文芸部 #虫の音
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