
愛と恋の超短編小説⑦~けいこへのメッセージ ~
けいこは、私の初恋の人だった。
中学三年の春、通い始めた塾で出会った。
可憐で明るく、休み時間には
いつも友達と楽しそうに話していた。
塾に勉強をしに来たというより、
おしゃべりを楽しみに来ているような
女の子だった。
私にとって、けいこは特別な存在だった。
世の中の女の子は、けいこと、
それ以外に分かれているように思えた。
気がつくと、いつも彼女を目で追っていた。
けれど、話しかけることはできなかった。
塾の中で話した記憶はあまりない。
特に想いを伝えることもないまま、
公立高校の受験日が近づいた。
塾通いも終わりに近づいたある日、
けいこは塾の仲間たちに
色紙のような紙を配って、
「メッセージを書いてほしい」と言ってきた。
私は彼女への想いを込めたあおうえい作文を作り、
その紙に丁寧に言葉を綴った。
「想いが伝わるといいな」と願いながら、
そっと彼女に手渡した。
塾の最終日。今度は彼女の方から、
手紙をくれた。
「メッセージ、うれしかったです。
春休みに塾のみんなで
遊びに行こうって話しています。
春田君も、ぜひ来てください。 けいこ」
たしか、そんな内容だったと思う。
春休み、私たちは塾のみんなと
遊園地へ行った。
塾の先生も一緒だった。
けいこと
ゆっくり話せたわけではなかったけれど、
それでも、
彼女のそばにいられる時間がうれしかった。
手紙には電話番号も書かれていて、
高校に進学してからは、
時おり電話で話したり、
たまにカフェでおしゃべりすることもあった。
会うたびに彼女は、いつも私に手紙をくれた。
けれど、それは恋文ではなかった。
やがて私は気づいた。
けいこは、誰にでもメッセージを書く人だった。
結局、けいことは友達以上になることはなかった。
「つき合ってほしい」とけいこに言うことはなかったが、
友達以上になるのは難しいんだと、
少しずつわかってきた。
高校が全く違う方向で遠く離れていたこともあり、
高校二年になる頃には、
自然と会わなくなっていった......。
あれから四十年。
けいこが今、どこで何をしているのか、
私は知らない。
かつては彼女と距離を縮められなかったことが、
とても切なく、悔しかった。
けれど今は、恋しさというより、
ただただ懐かしさだけが残っている。
もう一度会ってみたい気もする。
けれどそれ以上に——
あの頃、けいこをまっすぐ想っていた
自分を思い出すと、
その不器用な自分が、とてもいとおしくなる。
あの頃の自分を、抱きしめてやりたくなる。
私は、今でもはっきり覚えている。
卒業のとき、
けいこに渡したメッセージのことを。
あれは、あの頃の私なりの、
精いっぱいの告白だった。
四十年たった今でも、あの言葉だけは、
不思議なくらい忘れられない。
縦に並んだ一番左側の文字だけ、
少し濃く書いた——
あかるいけいこさんが
なかよく友達と話す姿
たのしんで見てた
のこり少ない中学生活
これで会えないけど
とおくから応援してる
がんばれーって
すこしだね中学生活も
きみとは会えなくなる
でもぼくは言いたい
しあわせでした
たのしかった
――あれが、
私の人生で、
いちばん不器用で、
いちばんまっすぐな
ラブレターだった。
