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愛と恋の超短編小説③~三人のメロディー~

    ある女性作曲家がいた。
    作曲家としてはあまり売れず、
    収入はわずかだったが、
    夫が学校教員として家庭を支えていた。


    豊かとは言えなかったかもしれないが、
    二人は穏やかに暮らしていた。
     
     
    ただ一つだけ、欠けているものがあった。
    二人の間に、夫婦としての触れ合いが、
    まったくなかったのだ。
     
     
    女には、結婚前に長く付き合った男性がいた。
    しかし、自営業の彼は収入も低く、
    生活は不安定だった。

    両親の反対を押し切ってまで結婚する勇気を、
    彼女は持ち合わせていなかった。
     
     そして、お見合いで今の夫と結婚した。
     
     
    結婚後もしばらくのあいだ、
    女はその男のことを、
    心の底では思い続けていた。


    やがて、彼への想いは、
    時の流れとともに
    穏やかな思い出になっていった。

    それでも、心のどこかには、
    まだ満たされない何かが残っていた。
     

    結婚して数年たったころ、
    女は夫の求めを拒むようになった。


    夫は戸惑ったが、無理強いはできず、
    いつしか二人の間には、
    薄く冷たい壁ができていた。
     
     
    夫は、結婚生活とは、
    そういうものなのだと、
    自分に言い聞かせるようになっていた。
     
     
    長い年月が流れたある日、
    女は別の男と出会い、恋に落ちた。


    迷い、葛藤を抱え、考え抜いた末、
    女は夫に気持ちを打ち明けた。
     
     
    「ごめんなさい。
    どうしても、
    好きな人ができてしまったの……」
     
     
    「離婚」という言葉こそ出なかったものの、
    その女に、その意思があることを、
    夫は感じ取った。
     
     
    夫は静かに言った。
     
     
    「わたしは長いあいだ、
    おまえを支えてきたつもりだ。

    おまえがわたしの求めを拒んだときは、
    正直ショックだった。
    だが、結婚とはそういうものなのだと、
    わたしなりに時間をかけて、
    心の整理をしてきた。


    今になって、そんなことを言われるとは……」
     
     
    夫には、到底受け入れられないという
    思いがあった。


    一方で、妻の気持ちが、
    まったくわからないわけでもなかった。
     
     
    ――本当は、もっと早くから
    離婚したい気持ちがあったのだろう。

    だが、離婚というものに罪悪感があり、
    夫である自分を傷つけるのが怖くて、
    なかなか言えなかったのかもしれない。
     
     
    触れ合いのない結婚生活に
    疑問を抱きながらも、


    怖くて問いただすことが
    できなかった自分にも、
    問題があったのではないか。
      
    そんな思いが、夫の胸に浮かんだ。
     

     
    やがて、女に変化が訪れた。
     
     
    彼女が想いを寄せる相手は、
    同業の作曲家だった。
     
    初めて音楽について語り合った日、
    女は、自分の心が久しぶりに
    震えるのを感じた。
     

    男と話すたび、長い間眠っていた感性が
    少しずつ目を覚ましていった。

     
    一緒に曲を作るたび、
    女の心は、生き返るようだった。
     

    男のことを想うたび、
    新しい旋律が自然と生まれてきた。


    男には編曲の才能があった。
    二人の才能は不思議なほどかみあい、
    人々の心に響く曲が、次々と生まれた。
     
     
    その成功は、女の家庭にも還元され、
    夫はその恩恵を受けることになった。
     
    また、女が作曲した曲は、
    多くの人々を感動させ、元気づけた。
     
    休日になると、夫は一人で
    森林公園を歩いた。

    妻をあきらめきれない。
    それでも、
    「愛しているからこそ、閉じ込め続けることが、
    本当に愛なのだろうか」
    そんな問いが胸を離れなかった。

    ふと、音楽を作っている妻の、
    心から幸せそうな笑顔が浮かんだ。
     
    「あの曲のおかげで前向きになれました」と、
    教え子が話してくれるなど、
    妻の曲で救われた人を何人も目にした。
     

     
    夫は気づいた。
     
    女は、あの男のそばにいる時だけ、
    本来の自分を取り戻している。
     
    そして、二人がともに生み出す音楽が、
    多くの人の心を動かしていることにも。
     
     
    もし二人が結ばれれば、
    その流れは、さらに加速するのかもしれない。
     
    妻を失う悲しみは消えなかった。
    それでも、彼女の音楽が
    誰かの命を支えていることだけは
    否定できなかった。
     
     
    「もし彼女を引き留めれば、
    あの音楽は生まれないのかもしれない」
     
    夫の中に、そんな考えが芽生えた。
     
     
    ある日、夫は女に言った。
     
     
    「君と僕は、それぞれ、
    別のメロディーの人生を歩むことにしよう」
     
     
    二人は、円満に別れた。
     
     
    数年後、夫もまた、
    自分にとって唯一無二の女性と出会った。
     
     
    二人の作曲家の男と女、そして学校教員。
     
     
     
    三人は、同じ道を歩くことはなかった。

    けれど、
    それぞれが奏でるメロディーは、
    見えないどこかで響き合い、
    一つの大きな調和となって、
    今日も誰かの人生を照らしていた。
     
     
     

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    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
    無口だけど、フレンドリーだねと言われた時代もある。 寒いのは超苦手だけど、暑さにはめっぽう強い。 そして、気持ちはいつも熱い。「けっこうずぼらやね」と、 クラスの女子に言われたことがある。 友達から、「おまえの純粋なところが好きやな」 と言われたこともある。

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