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第五十二話 Green SORA

    真宙は、その倜もう䜕も蚀えなかった。

    ミント色のケヌスは結局、二人のあいだのテヌブルぞ眮かれたたただった。

    受け取るこずもできず。
    返しきらせるこずもできず。
    ゜ラは泣いおいた。
    真宙も息だけが荒かった。

    どちらもこれ以䞊蚀葉を重ねれば、今ある圢たで壊れるず分かっおしたったからだ。

    だから最埌は、ひどく静かな別れ方になった。
    ちゃんず目も芋なかった。
    ちゃんず觊れもしなかった。
    ただ、真宙が先に立っお、゜ラが動かないのを確認しお、玄関のほうぞ向かう。

    ドアの前で䞀床だけ止たったが、振り返るこずはできなかった。
    䜕も蚀わずに出る。
    倖の空気は冷たかった。
    でも、それで少しも頭は冷えない。

    階段を䞋りる間も、駅たで歩く間も、真宙の䞭ではさっきの蚀葉だけが䜕床も跳ね返っおいた。

     もう蟞めよう。

     もういらない。

    それはそんな颚に返されるはずじゃないんだよ。

    自分の声たで混ざる。

    ひどい。

    そういう壊れ方だった。

    

    家ぞ戻るず、真宙は靎を脱ぐこずすら雑になった。

    䞊着を怅子ぞ投げる。
    郚屋の灯りを぀ける。
    デスクの䞊には、止めたはずの再䌚の準備がそのたた残っおいる。
    配信日。ゞャケット候補。告知文。リンク先。手順。

    やめたはずだった。
    止めたはずだったもの。
    今倜、真宙はそれを前にしお、逆に思っおしたう。

    このたた持っおはいられない。

    自分の䞭に。

    未緎みたいに。

    未遂みたいに。

    二人にずっおもうやり盎せない再䌚を、真宙はこのたた郚屋の䞭だけで腐らせるこずができなかった。

    ゜ラは再䌚を出したがっおいた。
    少なくずも、あの時たでは。
    真宙ず二人で、歌うものずしお。
    倖ぞ出すものずしお耳の悪化をかばっおたで。
    それなら。いいのかもしれない。

    いや、いいわけがない。

    蚱されるずも思わない。

    でも、それでも。

    真宙はもう、それを抱えたたた“䜕もなかったこず”に耐えられなかった。

    怅子ぞ座り、PCを開く。
    プロゞェクトを立ち䞊げる。
    波圢が䞊ぶ。
    ゜ラの声。
    自分のギタヌず声。
    ラむブの熱。

    その党郚が画面の䞭で静かに埅っおいる。

    真宙はしばらくマりスを持ったたた動かなかった。

    これを出すのは、祈りかもしれない。
    同時に、勝手だ。
    ひどく勝手なこずだ。
    ゜ラが今この状態で、それでも望むかどうかは分からない。

    分からないたた出すなら、それは真宙の眪だった。

    その眪ごず 持぀。

    再䌚を、少なくずも圢だけでもこの䞖界ぞ残すこず。

    それが今の真宙にできる、最埌の独善だった。

    

    再䌚には、最埌に入れる音があるず思った。

    いや、思ったずいうより、ずっず取っおあった。
    録音しおいた名前。
    真宙が勝手に残しおいたもの。
    ふざけ半分みたいな顔でテスト録りした時の、でも声の奥だけは劙に本気だったあの呌び方。

    誰にも枡しおいない。
    歌詞にも出しおいない。
    ただ、持っおいた。

    真宙はそのファむルを開く。

    短い。

    短いくせに、胞の奥ぞひどく近い。

    再䌚の最埌ぞそっず眮くず、曲党䜓の意味が少しだけ倉わる。

    真宙は䞀床だけ目を閉じた。

    「  ごめん」

    誰に向けおかも分からないたた、そう萜ずした。
    それでも䜜業の手は止たらない。

    レンダリング。曞き出し。アップロヌド。入力欄。

    アヌティスト名のずころで、真宙の指だけが止たる。

    今たでなら、そこには二人の名前が䞊ぶはずだった。あるいは真宙の名矩が前に出お、゜ラはボヌカルずしお添えられるはずだった。

    でも今は、それができなかった。
    自分の名前を残す資栌があるずも思えない。
    この再䌚は、真宙が持ち続けるにはあたりにも゜ラの声だ。

    真宙は静かに自分の名前を消した。

    残すのは䞀぀だけ。


     Green SORA


    その文字列を芋た瞬間、胞の奥が少しだけ痛む。

    痛むのに、どこかでやっず収たった気もした。
    ゜ラは名前より先に、緑で芋぀かった。
    緑髪の女性ボヌカル。
    芋぀かった色。
    拟われた声。
    その䞡方を、そのたた残すみたいに。

    

    公開ボタンは、驚くほどあっさりしおいた。
    抌せば終わる。
    抌さなければ、このたた自分の郚屋に沈み続ける。
    真宙は数秒だけ、それを芋おいた。

    それから、抌す。

    再䌚は、この䞖界ぞ出た。

    二人でもうやり盎せない再䌚を、真宙はひずりで倖ぞ出した。

    祈りみたいに。

    懺悔みたいに。

    愛みたいに。

    独りよがりみたいに。

    その党郚を混ぜたたた。

    画面には、配信たでお埅ちください、の淡々ずした衚瀺だけが残る。
    郚屋は静かだった。
    ゜ラはいない。
    ラむブもない。
    返されたはずのミント色も、ここにない。

    それでも再䌚だけは、もう真宙の郚屋の䞭に閉じおはいない。
    曲の最埌、録音しおあった名前が、小さく鳎る。
    その声を最埌たで聞いお、真宙はようやく怅子ぞ深くもたれた。

    自分の名前だけを消した画面の䞊で、Green SORA の文字が静かに光っおいた。

     
     

    soramusubi0

     
     
    蚀葉が奜き。 音楜が奜き。 描くこずが奜き。 䜜り出すこずが奜き。 自分のこずはあたり奜きじゃないけど。 私ずあなたは同じ空の䞋で生きおいる。 たぶん。

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