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世界を守る仕事、時給980円第16話|営業中の世界


    最後の夜だった。

    少し静かすぎた。

    七曲中央商店街。

    閉まった店。

    風。

    月。

    白黒の猫。

    今日はいた。

    少し安心した。

    でも。

    空は良くなかった。

    継ぎ目。

    かなり開いている。

    向こう側。

    昼。

    明るい世界。

    疲れていない自分。

    やり直した人生。

    少しだけ、

    欲しくなる場所だった。

    事務所。

    ホワイトボード。

    赤字。

    ---

    ### 世界終了予報

    97%

    ---

    嫌な数字だった。

    安里は缶コーヒーを開ける。

    今日一本目。

    そして最後らしかった。

    「どうします?」

    相良が聞く。

    安里は少し考える。

    そして。

    普通に言った。

    「営業します」

    意味が分からなかった。

    「世界、終わりそうですよ?」

    「だからです」

    短かった。

    安里は立ち上がる。

    ホワイトボード。

    紙。

    案件。

    今日もある。

    ---

    本日の案件

    ・未送信 ×1  
    ・存在薄化 ×1  
    ・すれ違い ×1

    ---

    「……今ですか?」

    相良が聞く。

    安里は頷く。

    「今だからです」

    静かだった。

    「世界って」

    少し止まる。

    「こういうので、

    続くんで」

    外へ出る。

    駅前。

    女子高生。

    送れていないメッセージ。

    団地。

    気づかれていない老人。

    コンビニ。

    喧嘩した夫婦。

    少しずつ。

    少しだけ。

    戻していく。

    言葉。

    タイミング。

    気づかれる瞬間。

    大きいことじゃない。

    でも。

    少しだけ。

    明日へ進む理由。

    その間も。

    空は裂けていく。

    向こう側が近づく。

    疲れていない相良が言う。

    ---

    「まだ間に合うよ」

    ---

    静かだった。

    嫌だった。

    かなり。

    でも。

    少し分かった。

    向こう側は、

    “楽”なんだ。

    後悔が少ない。

    傷も少ない。

    ちゃんと眠れる。

    でも。

    途中も少ない。

    失敗も。

    言い直しも。

    「ごめん」も。

    少し少ない。

    その時。

    スマホが鳴る。

    通知。

    ---

    案件 No.4688

    状態:改善

    世界終了率:96%

    ---

    少しだけ。

    下がった。

    安里が笑う。

    珍しかった。

    「ほら」

    短かった。

    「世界って、

    案外しぶといんです」

    夜明け前。

    空。

    継ぎ目。

    少しずつ閉じていく。

    完全じゃない。

    でも。

    戻っていく。

    事務所。

    朝。

    初めてだった。

    窓の外が明るい。

    安里が封筒を置く。

    ---

    退職届

    ---

    「じゃあ、

    自分、終わりです」

    軽かった。

    少し寂しかった。

    「相良さん」

    少し止まる。

    ---

    「次、お願いします」

    ---

    嫌だった。

    でも。

    少し笑えた。

    「時給、

    上がります?」

    相良が言う。

    安里は少し考える。

    そして。

    ---

    「たぶん980円です」

    ---

    安かった。

    世界の割に。

    安里が出ていく。

    朝。

    商店街。

    シャッター。

    でも。

    一つだけ。

    店が開いていた。

    小さな喫茶店。

    看板。

    ---

    営業中

    ---

    相良は少し止まる。

    空を見る。

    普通だった。

    少しだけ。

    普通に戻っていた。

    スマホが鳴る。

    通知。

    ---

    未送信 ×1  
    存在薄化 ×1

    ---

    世界は、

    終わっていなかったらしい。

    少し考える。

    ため息。

    白黒の猫が、

    先に歩いていく。

    仕方ない。

    そんな顔だった。

    相良は小さく言う。

    ---

    「……まあ、行くか」

    ---

    世界は、

    終わっていなかった。

    だから今日も、

    少し営業中だった。

    #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門

     
     
    (さかした・よはく) 小説を書いています。 何も起きない時間、 間に合わなかった出来事、 会話の途中で残る沈黙が好きです。 派手な結末はありませんが、 ちゃんと終わる話を書きたいと思っています。

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