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「忘れ物、うっかり、ちゃっかり、でもやっぱり旅に出る。」



    第1話 アメリカ編「May I help you?しか、通じなかった。」


    短大の海外研修で、2週間アメリカへ行った。
    スチューデントアシスタントという制度があって、アメリカ人が日本人2人に1人ついてくれる。勉強したり、観光案内をしてくれる。

    たまたま、イケメンくんに当たった。
    名前はサミーといった。

    でも、少し気になっていた人がいた。
    ジェルミーだ。

    喋りたかった。喋ろうとした。
    全く通じなかった。

    それでも、みんなでウノをやったり、ダンスをしたり、楽しかった。言葉がなくても、笑いはあった。
    ダンスの時間、手を繋いだ。ジェルミーと。

    胸が高鳴った。

    2泊3日、サミーの家にホームステイすることになった。
    「家に入ったらお客様ではなく、家族になる」と聞いていた。
    ならば、やることがある。

    May I help you?

    さすがにこれは通じた。サラダなど、簡単な料理を作らせてもらった。

    食事中、サミーが言った。
    「もう少し英語、勉強したほうがいいね」
    そうですね。

    それでもジェスチャーで笑い合って、帰り際にはハグしてもらった。大満足だった。

    日本に帰って、手紙を書いた。
    サミー宛に。

    なぜジェルミーに書かなかったのか、今でもよくわからない。

    返事は、なかった。

    きっと、英語がちんぷんかんぷんだったのだろう。

    第2話 タイ編「気に入られたのは、姉だった。」



    義理の姉と2人で、タイとマレーシアのツアーに参加した。

    タイのホテルで、私はノリノリでホテルマンに話しかけた。

    気に入られた。

    私ではなく、姉を。

    ホテルマンの名前は、ティンクといった。

    女性2人だからと、ティンクは友達も連れてきてくれた。4人でワット・ポーへ。ワイワイと観光して、ティンクの家まで見せてもらえた。

    ティンクの友達は絵が得意で、ある芸能人にそっくりだった。

    関根勤だ。

    日本語は全くわからない。でもジェスチャーで、なんとか会話できた。彼のあだ名は「関根さん」になった。

    夜になると、ティンクは姉とデートしたいようだった。

    私はホテルに戻った。

    そして、速攻で寝た。

    めちゃくちゃ歩いたから。

    姉がロマンチックな夜を過ごしている頃、私は夢の中だった。 

    帰りの空港に向かうバス待ちの時、姉とティンクが何かやり取りをしていた。

    なんか渡してるなー。

    バス停に戻ってきた姉が言った。

    「ネックレス、渡しちゃった」

    かっこいいー。

    私にはできない。でも姉にはできる。そんな素敵な人だ。

    後日談がある。

    姉は私ではなく、別の友達とティンクに会いに行った。

    私は呼ばれなかった。

    きっと楽しい旅を過ごしたのだろう。

    番外編 「帰りの飛行機で、体型を比べられた。」

    タイからの帰り道、飛行機の隣にドバイの男性が2人座っていた。

    何気なく目が合った。 

    英語で話しかけてきてくれた。

    英語は喋れない。でもカタコトで、なんとかなった。気に入ってもらえたと思った。

    途中まで、は。
    「なんでそんなに体型が細いんだ?」

    そう言いながら、ジェスチャーが始まった。

    ドバイの女性を表現し始めた。
    胸。でかい。でかい。
    お尻。でかい。でかい。

    つまり、私は物足りないらしい。

    なるほど。文化の違いを、体で学んだ。

    最後に「写真を撮ろう」と言われた。

    でも、飛行機を降りたら、2人の行方がわからなくなった。

    第3話 ハワイ編「ナイスヘアーと、Tomorrow〜」



    ハワイへ行った時、くるくるパーマの茶髪で乗り込んだ。

    すれ違う外国の方に、何人も声をかけられた。

    「ナイスヘアー!」 

    ハングルースポーズ付きで。

    「サンキュー!サンキュー!」
    悪くない気分だった。

    特にこれといった出会いはなかった。
    ただ、やらかした。

    チェックアウトの日、荷物をまとめてフロントへ向かった。
    スタッフが言った。

    「Tomorrow〜!」

    1日、早かった。

    時差というものは、人の判断力を狂わせる。

    第4話 ベトナム編「手を繋いだ人に、国際郵便を送った。」



    友達と2度目のベトナム旅行に行くことになった。

    現地に到着した瞬間、気づいた。

    あっ。

    スーツケースのカギ、家に忘れた。

    友達に打ち明けた。

    「カギ、忘れた」

    「えー?」

    笑われた。でも笑うしかない状況だった。

    とりあえず下着だけ買いに行った。服は友達に借りた。スーツケースは一度も開けなかった。ただ転がして、連れて歩いた。まるでペットだった。

    そんなドタバタの旅で、思わぬ再会があった。

    ガイドさんが、1度目と全く同じ人だったのだ。
    名前はハイさんといった。

    ハイさんの日本語は、独特だった。

    「ちゅかれましたか?」

    疲れましたか、のことだ。

    「にょにゃのかね」

    除夜の鐘、のことだ。

    その発音が、たまらなく可愛かった。

    そういえば、ハイさんとは初めて会ったわけではなかった。

    1度目のベトナム旅行でも、ハイさんがガイドだった。

    2回会った。

    だから、運命を感じてしまったのだ。

    私も思った。
    なんか、縁があるのかもしれない、と。

    向こうも気づいた。気づけば手を繋いでいた。

    2人きりになろうとしてくれた。でも友達を置いていくわけにはいかない。
    「友達も一緒じゃないとダメ」と伝えると、今度はガイド仲間たちに私たちを紹介してくれた。

    気づけば現地のガイドグループに混ぜても

    封筒に写真を入れて、国際郵便で、旅行会社の住所のベトナムまで。

    2人のツーショットも入れた。全部で10枚。
    返事が来ると思っていた。

    手紙で。

    「好きです」って。

    封筒を送った翌日から、待った。

    1週間、待った。
    2週間、待った。
    1ヶ月。

    もう来ないと、確信した。

    縁があると思っていたのに。

    実はそんなに、気に入られてなかったのだろうか。

    封筒の中の10枚の写真は、今頃どこにあるのだろう。

    モヤモヤだけが、残った。

    第5話 鹿児島編「貸切バスで、3人でランチした。」


    鹿児島に1人で行った。

    おがわの滝を見るために、バスを予約した。
    乗り込んで気づいた。

    乗客が、私1人だった。

    バスガイドさんと運転手さんと、3人旅になった。
    滝は、素敵だった。
    ちょうどその頃、西郷ドンが放映されていた。

    テレビで見ていた景色が、目の前に広がっていた。
    感動した。テレビで見るより、ずっとよかった。

    ランチは3人で食べた。

    運転手さんが聞いてきた。

    「どちらのご出身ですか?」
    答えると、運転手さんの出身地と近かった。
    話が弾んだ。

    貸切バスのはずが、いつの間にか旅仲間になっていた。

    第6話 宮崎編「見知らぬ旅人と、巨人軍を見た。」



    福岡に住んでいた頃、1人で宮崎を旅した。
    鵜戸神宮は、電車とバスでは行きにくい場所にある。宿のオーナーが、車で送迎してくれた。

    旅先で、人に恵まれた。

    翌朝、宿で野球好きの方と出会った。1人旅の男性だった。

    「巨人軍のキャンプ場に行くけど、一緒に行きますか?」

    迷わなかった。

    「行きます。」

    宿のオーナーも加わって、3人で向かった。

    途中、青島神社に寄った。巨人の選手たちも参拝に来ていた。偶然だった。

    本物の野球選手を、こんなに近くで見たのは初めてだった。

    それからキャンプ場へ。

    宿のオーナーと見知らぬ旅人と私。まるで昔からの友達みたいに、並んで野球を見た。

    ラッキーな旅だった。

    第7話 韓国編「釜山行きの船で出会ったおばさまに、海外合コンデビューさせられた話。」



    福岡から釜山へ向かう船の中。カメリアの雑魚寝スペースで、隣になったおばさまが話しかけてきた。

    「すごく揺れたわよねー」

    「はい」

    「こんなに揺れることないのにー」

    「そーなんですかー」

    流暢な日本語だった。てっきり日本人だと思っていた。

    「私、韓国人なんですよ」
    え。

    なのに連絡先を交換して、帰国後にご飯を食べて、気づいたら3人で韓国に行くことになっていた。

    計画を立てた。完璧な予定だった。

    でも、韓国に着いてみると、なんとなくおばさまの様子がおかしい。男性がいるようなそぶりで、レンタカーを借りてくれた人がいるという。

    現地に着いたら、ほんとに男性が3人いた。

    ——なんてゆう方なんだー。

    後々聞いたら、そのひとりはおばさまの彼氏だった。

    観光はお寺へ。夜は現地の有名な鍋を連れて行ってもらった。車の中では、携帯の翻訳機能を使ってトーク。トーク。トーク。

    ふと気づいた。

    全員、既婚者だった。

    家族の話、仕事の話。たまに釣りをやる私は、釣りの写真で場が盛り上がった。

    もうひとつ、笑われた話がある。

    こんにちは、とありがとうがわからなくなってしまって、お店に入る時に「カムサハムニダ〜!」と言ってしまったのだ。

    全員、爆笑だった。

    言葉が通じなくても、笑いは通じる。

    途中カフェに寄って、飲み会の後はボーリングへ行った。

    ボーリングを提案したのは、私だ。

    スペアとストライクで、ハイタッチがしたかった。ただそれだけの理由で。

    スペア。ハイタッチ。
    スペア。ハイタッチ。
    ストライク。ハイタッチ。
    スペア。ハイタッチ。

    気づいたら155点だった。
    ベストスコアだった。

    毎回ハイタッチできた。それだけで、もう十分だった。

    釜山行きの船で出会ったおばさまに、観光と食事とカフェとボーリング付きの、海外合コンデビューをさせてもらった。

    感謝。感謝。感謝。

    ビッグウェーブだった。


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    どの旅も、予定通りにはいかなかった。

    英語が全く通じなかった旅。

    気になっていたのはジェルミーなのに、サミーに手紙を書いた旅。

    気に入られたのが自分じゃなかった旅。

    呼ばれなかった旅。

    体型を比べられた旅。

    1日早くチェックアウトしようとした旅。

    縁があると思ったのに返事がなかった旅。

    貸切バスで旅仲間ができた旅。見知らぬ旅人と巨人軍を見た旅。
    合コンのつもりが全員既婚者だった旅。

    そして私はいつも、旅の後に手紙を書く。

    返事は、来ない。

    それでも懲りずに、旅先で人に話しかける。ジェスチャーで笑い合う。ハイタッチする。迷わず「行きます」と言う。

    旅先で人に恵まれるのは、もしかしたら私の特技なのかもしれない。

    懲りずに、今日も旅の計画を立てている。


    #創作大賞2026

     
     
    10年婚活して、36歳でやっと結婚できた50代です。 コンパは年100回×10年。告白10回。モテる友達に何度もいい人を取られて、それでも諦めなかった。 特殊詐欺、難聴、婦人科疾患…どん底もひと通り経験しました。 きれいごとじゃない、リアルな話を書いています。

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