
【ショートショート】温かい雨
「暑い……。」
男はそう呟くと、窓を閉めてクーラーのスイッチを入れた。
地球温暖化が叫ばれて久しい世の中。
かつては高くても30度程度だった気温も、最近は50度を超える日が増えてきた。
さらに、数年前からは「温雨」と呼ばれるおおよそ40度に達する雨も降るようになり、冬は温かいシャワーのように感じるが、夏は高温多湿が一層悪化し、とても耐えられたものではない。
クーラーの効いた部屋で、男はぼんやりとテレビを眺めていた。
温雨が海に与える影響についての特集が流れているようだ。
男は故郷で昨年、大雪と洪水が同時に起こったことを思い出した。
異常気象の影響で積雪が15メートルにも達し、その後降った温雨によって大量の雪解け水が洪水を引き起こしたのだ。
「温雨は私たちの生活に大きな影響を与えるかもしれません。」
レポーターは深刻そうな顔で話しているが、音を絞っているせいで、男は目だけ画面を流れる映像を眺めて、上の空だった。
毎日、どのチャンネルを回しても似たような話ばかりで、男はすでに飽き飽きしていた。
つまらない番組の代わりになる刺激を求める気力もなく、テレビを消してそのまま眠りについた。
ある日、外出のため家を出た男は、ちょうど温雨が降り出すのに遭遇した。
「面倒だな」と思いながら傘を広げ、外に出ると、腕にチクリとした痛みを感じた。
左腕を見ると、小さく赤い跡が残っている。
変な虫に刺されたのか、と男は考えた。
最近のこの暑さと温雨で気候が熱帯化して、人を刺すような虫でも発生しているのかもしれない。
そう思いながらも深く気に留めず、外出しようにもスコールのように激しく降り出した温雨を見て、男は家に引き返すことにした。
戻った男は、傘を畳みながら、傘のてっぺんに小さな穴が開いているのに気づいた。
どこかで引っかけたのだろうかと思ったが、新しいのを買えばいいや、と無頓着に傘を放り、部屋でコーヒーを淹れる準備を始めた。
男がつけたテレビからはニュースが流れていたが、やかんの音にかき消されて男には聞こえなかった。
「こちらは緊急速報です。
現在、100度を超える異常な高温の雨が降っているという警報が発令されました。
対象地域の皆さまは、直ちに安全な場所に避難してください。
この雨に直接触れると、深刻なやけどを負う危険性があります。
また、傘を使用しても、熱によって破損する恐れがあります。
最新情報は引き続きお伝えしますので、どうぞご注意ください……。」