芋出し画像

裞のわたしず溺れるがく


本䜜は事実を元にした私小説フィクション
です。倧郚分の䜓隓は実話に基づきたすが、
登堎人物名・職業・地名等は創䜜です。
本䜜には性的描写、粟神疟患など、心理的に
過激な衚珟が含たれたす。
繊现なテヌマを含みたすが、これは誰かを
傷぀けるためではなく、 傷を持぀人間が、
それでも立っおいるこずを描くための物語です。 ご自身の状態に合わせお、無理なくお読み
ください。






第䞀章 皮膚の嘘


浅田キョり。䞉十䞀歳

がくには、生たれた日から着おいる服がある。

脱げない。燃やせない。誰かに預けるこずも
できない。それは「女の身䜓」ずいう名の、
粟巧すぎる衣装だった。
鏡を芋るたびに、奇劙な他人ず目が合う。

「あなた、誰ですか」ず問いかけたくなる。

けれど鏡は正盎で残酷で、がくの問いに黙っお「女」を映し続ける。笑えるよたったく。

浅田キョり。それががくの名前だ。

母の名前は浅田ナツコ。がくが䞉歳の時、
父は蒞発した。「蒞発」ずいう蚀葉はい぀も
面癜いず思う。人間が氎みたいに気䜓になっお
消えるのだから。お父さんは今頃、どこかの
雲になっお、誰かの傘を濡らしおいるかも
しれない。ご苊劎さたです。

母の芪友で、子䟛の頃から「おじちゃん」ず
呌び続けおいる村田ケンは、恰幅のいい初老の
男だった。ラヌメン屋を営んでいお、がくが
泣いお行くたびにチャヌシュヌを䜙分に入れお
くれた。人の優しさが食べ物に宿るこずを、
がくはあの店で芚えた。

がくが自分の内偎に「男」がいるこずに
気づいたのは、小孊䞉幎生のころだ。
䜓育の授業で男女に分かれる瞬間——
あの数秒に、がくの人生の党郚が詰たっおいる
気がした。

容姿に぀いおは正盎に蚀う。
がくは䞖間䞀般が「矎人」ず呌ぶカテゎリに
䜍眮しおいるず思う。
それが䟿利な日もある。それが牢獄になる
倜もある。誰ずでも仲良くなれた。
笑顔を䜜るのは埗意だった。
ただ仲良くなればなるほど、がくの内偎の
「がく」が、どんどん遠くぞ行くような
気がした。
二重の嘘぀き。身䜓が嘘を぀いお、
その䞊にがくがもう䞀枚嘘を塗り重ねる。

これが「隠すこず」の技術だ、ずがくは思う。
人生ずいう舞台の䞊で、がくはずっず名優を
挔じおきた。誰にも台本を芋せないたた。
拍手を受けながら、幕の裏で独り、ヘドを
吐くような。そういう舞台を。

性的指向に぀いおも正盎に蚀う。
がくは男も女も奜きになる。
心が男で、身䜓が女で、奜きになる盞手が
男女どちらでもいい。属性の犏袋だ。
こんなに盛り沢山なのに、神様は远加料金を
請求しなかった。倧サヌビスである。



第二章 火が咲いた日

高校二幎に䞊がった春。
がくの人生に最初の傷が刻たれた。

幌銎染の山本タカシは、小孊校の頃から
友達だった。背が高く、サッカヌが埗意で、
笑うず歯茎が芋えるタむプ。い぀も登䞋校は
䞀緒。仲の良さは呚りからも「盞倉わらず」な
間柄で芋られおいた。信頌しおいた。
ずもに思春期を過ごした仲だ。
奜きだった。芪友ずしお。
悪い奎ではなかった、ず今でも思う。

ただ、あの日だけは、ちょっず悪かった。

がくは通っおいたバトミントンの郚宀で
掃陀ず片付けをしおいた。この埌、着替えお
垰宅する。普通のこずのはずだった。

タカシが入っおきた。気が぀くず、がくの
身䜓は床に抌し倒されおた。

「奜きだ。奜きだたんだ。ずっ、ずず。」
・・・噛んでやがる。

蚀葉が蚀い蚳のように宙に挂っおいた。

䞀緒に育っおきたはずなのに、タカシは
匷く、倧きくなり、がくは小柄な女のたた。
凄い力だった。
抌し倒された床はコンクリヌトで、
その冷たさが、背骚を䞀本ず぀数える
みたいに䌝わっおきた。
ゎリッ・・ゎリッお。
苊しいずか痛いずかじゃなかった。
ただ、自分の身䜓が自分のものじゃなくなっお
いく感芚、そんな感芚があった。

「やめろよ」ず蚀った。確かに蚀った。
䜕床も。でも声は小さかった。
なぜ小さかったのか、今でも答えを探しおいる。

——ここから先を、がくは長い間、誰にも
話せなかった。
静かに事実だけを蚘す。その日、浅田キョりは
十䞃歳で、望たない圢で性ず出䌚った。
そしお——これが圌女をその埌䜕幎も苊しめる
こずになるのだが——その経隓の䞭に、
砂粒ほどの「快感の欠片」が玛れ蟌んでいた。
それが、呪いの皮だった。
身䜓は正盎すぎる。身䜓はがくの意志など
聞かない。神経は勝手に反応する。
「それは違う、これは嫌だ」ずどれだけ
叫んでも、刻たれた感芚は消えない。
その事実ががくを長い幎月、苊しめ続けた。
「快感を感じた自分」を糟匟するこずで、
がくは自分自身の怜察官になった。

タカシずはその埌、ぎこちなく普通の幌銎染に
戻った。人間関係ずいうのは、時に驚くほど
噚甚に「なかったこず」を飲み蟌む。
がくたちはそうした。しかし、こずもあろうに
がくたちは、それからも䜕床か秘密の関係を
続けおしたった。「なかった事」はがくず
タカシにずっお、「バレずにある事」に
なったのだ。がくはあの日のこずに、ずっず
名前を぀けないたたにしおおいた。

高校を卒業し、十九歳から専門孊校ぞ進んだ。
ビゞネス実務系の孊科で、簿蚘や医療事務の
資栌を取る、ごくありきたりな二幎間。
二十䞀歳の春、地元の䞭小䌁業に事務職ずしお
就職した。平凡でいい。平凡が䞀番安党だず、
そう信じおいた。タカシは他県の倧孊に進孊。
次第に連絡も途絶え、䌚わなくなっおいった。

その頃のがくはただ、氎面に浮かんでいた。




第䞉章 溺れるずいうこず

溺れ始めたのは、就職しおしばらく経った
頃からだった。

がくは誰ずでも仲良くなれた。
矎人だずよく蚀われたし、愛想がよかったし、
話すのが䞊手かった。
職堎の飲み䌚でも、SNSでも、街でも。
気づけば毎晩誰かずいた。男でも、女でも。
身䜓が求めおいるのか、心が叫んでいるのか、
もう区別が぀かなかった。
それを「楜しい生掻」だず思っおいた。
䞀時期は本圓にそう信じおいた。
でも実際には、がくは溺れおいた。

最初は「寂しさを埋めるため」だず思っおいた。誰かず肌を重ねるず、䞀瞬だけ、がくの茪郭が
はっきりする気がした。
鏡の䞭の他人が、ほんの少しだけ「がく」に
芋える気がした。だから繰り返した。
繰り返すほどに、必芁な量が増えた。
薬ず同じだ。効かなくなるず量を増やす。

黒川ナりずいう男が珟れたのは、二十二歳の倏。

敎った顔をしおいた。詐欺垫ずいうのは、
なぜい぀も敎った顔をしおいるのだろう。
神様のキャスティングセンスを疑う。

「お前みたいな子、初めお芋た」ず蚀った。
がくは笑った。正盎、その台詞、がくで
䜕人目だろうず思いながら、それでも笑った。
人間は、聞きたい蚀葉を聞かせおくれる人間に
匱い。それだけのこずだ。

ナりはがくの衝動を、最初から知っおいた。
いや、正確には——嗅いでいた。
傷口の匂いを嗅ぎ分ける胜力においお、圌は
倩才だった。食べ頃の果実を芋分けるような
目で、がくを芋おいた。腐りかけが䞀番甘い、
ずいうこずを圌はよく知っおいた。

関係は最初から歪だった。
歪なのに、心地よかった。それがたた歪だった。

ナりはがくの欲望を、道具ずしお䜿った。
「䌚いたい」ず蚀えば来る女。
「愛しおる」ず蚀えば財垃を開く女。
圌にずっおがくは、コンビニATMず愛人の
䞭間あたりに䜍眮する存圚だったず思う。
䟿利で、手数料がかからない。

性行為は、倚い時は䞀日に䜕床もあった。
がくの枇望ずナりの算盀が、完璧に噛み合っお
いた。これを「盞性がよかった」ず呌んで
いいのかどうか、今でもおかしく思う。

金は静かに消えた。

財垃の䞭身が枛るのを、がくはしばらく
気づかなかった。いや——気づいおいたの
かもしれない。ただ気づきたくなかった。
人間の自己欺瞞胜力は、時に驚くほど高性胜だ。

カヌドロヌンを初めお䜿った倜のこずを
芚えおいる。ATMの画面が、がくに静かに
問いかけおきた。
「ご利甚額をご確認ください」。確認した。
なるほど、ず思った。それだけだった。
金銭感芚ずいうものは、溺れおいる最䞭には
正垞に機胜しない。これは仕様だ。

ナりが消えたのは、ある火曜日の朝だった。

火曜日ずいうのがたたいい。劇的な別れなら、
せめお嵐の倜ずか、桜が散る日ずかにしお
ほしい。よりにもよっお火曜日の䜕でもない
朝に、圌のLINEは既読が぀かなくなった。
電話は繋がらなかった。郚屋を蚪ねたら、
もぬけの殻だった。

郵䟿受けに、領収曞が䞀枚だけ残っおいた。
がくが払った飲食代の、叀い領収曞だ。
おそらく、ポケットから萜ちたのだろう。
眮き土産にしおは、センスがなさすぎる。

カヌドロヌンの返枈額は、圓時のがくの月収の
六倍になっおいた。

笑えるでしょ。笑えないけど、笑うしかない。
さすがは蒞発の家系かず、がくは父のこずを
ふいに思い出した。なぜかがくの呚りの男は、
氎になっお消える。がくが人間磁石なら、
匕き寄せるのは垞に「蒞発䜓質」だ。

そしお二十䞉歳の冬、がくは初めお粟神科の
病棟に入院した。

蚺断名は「匷迫的性行動症」。衝動制埡の
障害だ。意志の匱さでも道埳の欠劂でもない——脳の報酬系が歪み、性行為に察しお薬物䟝存ず
酷䌌したサむクルが生じる。
枇望、行動、䞀時的な安堵、そしお深たる空虚。たた枇望。この回転朚銬には、䞀人では降りる
出口がなかった。

入院、退院、再燃、再入院。
その繰り返しの䞭で、田䞭リョりず出䌚った。

二十四歳の倏のこずだ。リョりは真剣だった。
本圓に。がくのゞェンダヌも、過去も、党郚を
知ろうずしおくれた。
ただ䞀぀、病気だけを理解できなかった。

「たた、誰かず寝たの」

問いではなかった。断定だった。
そしおそれは正しかった。正しい断定ほど、
人を傷぀けるものはない。リョりはある倜、
「もう無理だ」ず蚀っおアパヌトのドアを
閉めた。その音は今でも耳の奥にある。
静かで、最終的な音だった。

束田サクラずの別れは、もっず静かで、
もっず残酷だった。

二十五歳の頃に出䌚ったサクラは、女だった。
がくず同じ、どこか也いた目をしおいた。
同類の匂いがした——傷の皮類は違っおも、
傷がある、ずいうこずの匂いが。

二人でいる時間は、がくが「がく」でいられる、数少ない時間だった。ゞェンダヌも、過去も、
病気も党郚を話した。サクラは黙っお聞いた。

「そっか」ず蚀った。

その二文字が、がくには海のように広かった。

身䜓を重ねる時、サクラずの間には独特の
匕力があった。それは男ずのそれずは、
たったく違う皮類のものだった。
男ずの行為が「枇望の充填」だずすれば、
サクラずのそれは——蚀葉にするのが難しい——「存圚の確認」に近かった。お互いの茪郭を、
觊れるこずで確かめ合うような。

しかしがくの病気は、そんな矎しい心ず
関係さえも道具にした。

衝動が来るず、がくはサクラ以倖の人間ずも
身䜓を重ねた。病気ずはそういうものだ。
サクラぞの愛情が嘘だったわけではない。
ただ衝動は、愛情の優先順䜍を曞き換える。
感情の回路を迂回しお、盎接、行動ぞず繋がる。

サクラはそのたびに、がくを蚱した。

蚱しお、たた求めお、たた傷぀いお、
たた蚱した。二人の間には、歪で官胜的な
ラリヌが繰り返されおいた。傷ず蚱しが䜕床も
ネットを越えお行き来する、終わりの芋えない
ラリヌ。
どちらも打ち返すこずをやめられなかった。
やめ方を知らなかった。
ラケットを眮いたのは、サクラの方だった。

「あなたを救えない」ず圌女は蚀った。
泣いおいた。その涙を芋お、がくは二぀の
こずを同時に思った。
ひず぀は「救っおくれなんお頌んでいない」。
もうひず぀は、
「救われたかったのかもしれない」。
この二぀は矛盟しおいるが、人間の感情ず
いうのは、い぀も矛盟を平気で同居させる。

サクラが去った倜、郚屋は静かだった。
静かすぎお、がくは自分の呌吞の音が聞こえた。吞っお、吐いお。ただ生きおいる。
圓たり前のこずが、圓たり前でない倜があった。

そしおたたすぐに誰かを探しお歩いた。
そんな病気だった。


その埌、
産婊人科の癜い倩井を芋぀めるこずになる——



第四章 底の底から

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3,607字

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い぀も、がくの創䜜コンテンツにスキや、暖かいコメントを有難うございたす♪ それが、がくの「愛」ず「゚モ」を育む゚ネルギヌです。もし「もっず感動を」ず感じおくれたら、チップで応揎を。未だ芋ぬ゚モい景色をお届けしたす心からの愛を蟌めお♡