おかん、小学生男子のピュアすぎる一撃にアイデンティティを完全崩壊させられる
おかんは長年、検針員の仕事をしていた。
だから仕事中はいつも作業着。
雨の日も風の日も、作業着に身を包み、スッピンでママチャリを爆走させるのが日常だった。
そんなある日、とあるマンションで事件は起きた。
おかんがエレベーターに乗り込むと、小学校低学年ほどの男の子がトコトコと入ってきた。
「ぼく、何階?」
おかんはいつもの調子で、気さくに声をかけた。
実はうちのおかん、見た目のサバイバル感に反して、声だけは妙に可愛い(ここ重要)。
男の子は「〇階」と答え、特に変わった様子もなく、エレベーターは静かに上昇し、男の子の降りる階に到着。
その瞬間だった。
降り際に、男の子が振り返りざまに放った一言。
「女みたい。」
おかん「……???」
去っていく男の子。閉まる扉。残されたおかん。
脳内に響き渡るメダパニの呪文。
「女みたい……」
突然の混乱。
え?うち、女やけど?
生まれてこのかた50年(仮)、ずっと女として生きてるけど?
あまりに唐突で、意味がわからず、しばらく固まってたらしい。
“女みたい”って、どういうこと?
しばらくして、ようやく真意に気づいたらしい。
――あの子、うちのことを『おじさん』やと思ったんや……!!!
作業着にスッピン、ショートヘア。
確かに、“働くおじさん”に見えなくもない。
でもその“おじさん”から発せられた声は、どう聞いても女性の声。
そのギャップに、男の子なりの違和感が生まれたのだろう。
男の子の脳内コンピューターはバグを起こし、必死のバグ修正の結果ひねり出されたのが、あの「(おじさんのくせに声が)女みたい!」だったのだ。
普段、人からどう見られようと全く気にしないおかん。
しかし、この時だけは違った。
おかん、珍しくションボリしていた。
「うち、女に見えんのかなぁ…」
ぽつりとつぶやく姿が、なんだか切なくて、ちょっと可愛かった。
私はその様子を見ながら、心の中で思った。
ーーああ、完全に野生化して野生動物になったと思ってたけど、まだ胸の奥底に「乙女のハート」が1gくらい残ってたんやなぁ。
普段は人から何を言われようと、どう見られようと全く気にしないおかん。
でも、男の子の正直過ぎるたった一言の「女みたい」で、こんなに傷つくなんて。
そのギャップに、少しだけ安心した。
少年よ、君のピュアすぎるナイフは、無敵のおかんのアイデンティティを粉々に引き裂いたぞ。
今となっては我が家の鉄板ネタだが、当時、鏡の前で自分の顔を複雑そうに見つめていたおかんの横顔は、本気で傷心モードのヒロインだった。
今では笑い話だけど、当時のおかんにとっては、なかなかの衝撃事件だったようだ。
おもしろいネタを提供してくれてありがとう、おかん。
…と締めたいところだが、
実はすごく最近、私も同じような出来事が襲ってきた。
知人のお義母さま(90歳超)とお会いした時、こう言われたのだ。
「○○さん(知人)の息子さん?」
…確かにお義母さまは、認知機能が低下されている様子でしたが、それでも娘ではなく、息子かーい!!
ちなみに私もショートヘア。
おかんの事、笑ってられないなぁー・・。
どうやら私たち親子は、世界を少し混乱させる運命らしい。