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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章11

    第五章 第十一話「会心の一撃」

    事務長のぶちかましは会議の流れを決定的なものにしたと言っていい。

    「このぐらいであれば問題ない。とはいえコストカットか営業利益の増加が無ければ財務状況の悪化は避けられない。
    先ほど確認したところ、そこの新人が音頭をとったとかいう炊飯部業務改善についてだが、
    改善後にあたる今週分のコストを仮に一ヶ月分まで拡張した場合には炊飯部長のおっしゃられた通り、大幅な人件費の抑制が出来ている。
    加えて光熱費もそれなりに数字が改善している。これならばコストカット分だけでも基本給への統合で発生する支出は吸収可能だ。」

    「専務。加えてですが、小林くんの改善計画によって我々炊飯事業部も今までと違い新規営業を複数人員で回ることが可能になっております。
    結果として今週に一件の新規獲得、商談中のものを四件抱えられておりまして、営業利益の増加についても有効な手立てを打てていると確信しております。」

    炊飯部長・・・ナチュラルに俺のせいにしてるけど、あんたが言いだしたんじゃなかった?

    「それは素晴らしいですね。専務どうかしら?私は本当になんとかしたいのよ、せっかくうちで働いてくれている従業員の皆さんが定年後に困窮するというのは・・・私は嫌だわ。」

    「そうですね・・・前向きに考えていきましょうか。つきましてはコストカットが進んでいるという炊飯部と営業二課についての正確な数字が出揃い次第ということと、今後の他部署も含めた形の改善計画の立案も踏まえて再度会議を行いましょう。常務はいかがですか?」


    ・・・常務は震えていた。

    「おかしい・・まるで基本給の是正こそが正義だと言わんばかりに皆一様に前向きだがこれは労基対策のためにやっていることなんだ!
    会社を守るためだ!!たかが基本給だろう!
    従業員が定年後に困窮しようが会社は潰れない!!」


    ・・・俺から言うことはもうないな。

    「たかが基本給!!お前は!今!
    たかが基本給と言ったのか!!
    私が!どんな思いで毎月こんな・・・
    こんな給与明細を作っていたと思って!!」

    「お静かに!!・・・お静かにお願いします。私は本当に何も知らない経営者だという自覚はあります。けれども私は今後、従業員の皆さんが本当にここで働いてよかったと思える会社に変えていきたいと思っています。例え私が力不足であろうともです。皆さん、協力していただけますか?」

    そんな社長の一声で会議は終わり、皆の拍手が鳴り響く中、終始常務は無言だった。

    俺としてはどちらかと言えば炊飯部長が発した謎ワードである『小林くんの業務改善計画』なるものが気になって仕方がない。

    あの殴り書きを計画などと呼ばれても困る。
    あれはあれで理屈はあるがどこでも使えるシロモノでもないのに。

    まあ考えても仕方ないと思い、どうせ会議室の扉の前で聞き耳を立てていたであろう松本くんと須藤くんを追いかけて喫煙所に行くことにした。

    ぶっちゃけ内心息も絶え絶えなのでコーラを用意して一気飲みしつつ煙草に火をつけた。

    「ねぇ、一つ聞きたいんだけど会議で『小林の業務改善計画』とかいうわけわかんない話出たんだけどあれ何か知ってる?」

    「はぁ?なんでお前が知らねーんだよ、なんかお前が色々やり始めたやつ全部だろ。二課は帰れる、炊飯も帰れるってやつ。」

    「えぇ?計画じゃないでしょ。二課はともかく炊飯なんてあれアンジャッシュだぞ?」

    意味もわかってないのにゲラゲラ笑ってる松本くんに普通にムカついて煙を吹きかけておいた。

    「ひどい!」
    「いやそれは笑う方が悪ぃだろ。要は炊飯は言われた通りに仕事してんのに首謀者扱いじゃねーかってことが言いたいんだろ?」

    「それそれ。そもそもよくよく話聞いたら部長は『飲食店経験者の知見が欲しい』とか言っただけだったらしいけど、なんか課長が俺に話を振った時はなんでか一週間であっちをどうにかするって話になってただけだぜ?」

    「ははっ!そりゃ災難すぎる!」

    「えぇー?でもそれお手柄ってやつなんじゃないの?」

    「手柄ねぇ?俺としちゃ手柄の後出しってのがそもそも嫌なんだけど。」

    「え?どゆこと?」

    「普通に考えてよ?炊飯部長がやってくれっつー話持ってきてんだから俺はあくまで下請けっしょ?手柄だの金だの先に話通しといてくれりゃよくねぇ?」


    「・・・はい?」

    「お前それ自営じゃん!会社員しながら自営じゃん!」

    「えぇ?」

    ガラガラガラッ!
    「おい!!俺の退職金は無事か!?」
    三人とも同時に目配せをしていた。

    「うるさいオッサンがきたな。」

    「野村さんも今日上がりー?」

    「それより俺の年金は!?退職金は!?」

    騒がしい人だなぁ。でもそれがいい。

    「知らねーよ高級取り!・・・でも後は社長と専務がどうにかするってさ。」

    ・・・こうして基本給是正の会議は無事に済んだのだがどうやら俺はミスりまくっていたらしい。

    ー次回ー 
    第五章 第十二話「THE VOID」

    概要・目次はこちら

     
     
    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

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