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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第一章7

    第一章 第七話「印象」

    「課長お疲れ様でーす!」
    時刻は19時、特段早い帰社ではない。

    定時で上がると豪語した小林は週末になる今もついぞ定時上がりをする気配が無い。

    俺はこいつを買い被り過ぎていたのかもしれんと考えるようになった。

    「おう、お疲れ。少し早く帰れたじゃないか。」

    「あーそうっすね。お客さん関係ない部分なら大体OKっす。」

    「どういうことだ?」

    「どうしてもルート変えようと思うと時間が大きく変わっちゃうお店があるんでそこは要交渉だなと思って。」

    野村さんの言っていた話が一瞬頭をよぎった。
    だが目の前の小林は、そんなことなど最初から存在しなかったかのように、配送コースの話をしている。

    安心した。

    無茶な方法で勝手に帰るかもという心配が無かったわけではない。

    なにせ以前その方法で夕方以降の配送をボイコットしていた奴がいたからな。
    謝罪行脚をしたところで契約を打ち切られた店舗も少なくはない。

    「ところでお前なんでスーツなんだ?米運ぶのにスーツだなんてやりづらいだろう。会社のユニフォームはどうした?」

    「あの作業着っすか?なーんかイマイチなんすよねぇ。まあスーツだと確かに運びにくいしあっという間にシャツがダメになるんすけど、ウケがいいんで。」

    「そんなお前わざわざ自分で金払ってやらんでも・・・毎日スーツってなったら一着とかでもないだろう。」

    「え?そういう感じなんすか?いやまあスーツって言ってもイオンのやっすいやつ3つですよ?シャツはともかくある程度は保つんで。」

    「せっかく稼いだ金を会社のために使わんでもだなぁ。」

    「ふふ、ありがとうございます。まあ気にしときます。ところで課長にお願いがあるんですけど。」

    「どうした?」

    「二課全員の出発時刻ってわかります?7時半組が一番早いってことでいいかなって。」

    「おう、そうだぞ。それがどうかしたか?」

    「朝に5分時間欲しいんすよ。ちょっと二課に話を出来たら助かります。」

    ん?これは例の契約ってやつなのか?
    それなら好きにやらせると言った手前そうせざるを得んだろう。

    「構わんぞ。俺が声をかけておけばいいのか?少し早めに出社ということでいいのか?」

    「あー・・・そうじゃなくてー。5分の出発遅れが致命的な人以外でいいです。」

    ははっ!流石にそんなやつがいるものか。

    「よしわかった。じゃあ出発前に5分時間を取れと伝えておく。」

    「あ、もう一つあるんすけど。」

    「お?一つじゃなかったのか。」

    「リストが欲しいんすよ。とりあえず僕のコースだけでいいんすけど。みんなのコースがわかればベストです。」

    「あぁ、お前のデスクにパソコンはまだなかったか。葛西さんに連絡しておくから一旦それを使ってくれるか?葛西さん歳だから使えなくてなあ。コースについてはそれぞれのパソコンに入っているから時間見つけて聞いてみろ。」

    「あー、そういう感じっすか。了解っす!」

    葛西さんのパソコンをつけて何か驚いた様子の小林を横目に俺は仕事に戻った。


    翌週小林が欲しいと言った5分であいつは驚くべき提案をした。
    なんと昼過ぎに少し時間があるから配送量の多い人間の手伝いに入ると言う。

    1時半から2時半の間で10km圏内なら、という条件はあったが。
    結果近隣のルートでその日配送の多かった須藤が小林に頼み、飛び石でわけのわからない距離の配送を頼もうとした松本は普通に断られていた。
    当たり前だろう。

    小林はその日から定時で上がり始め、近隣コースの須藤も度々定時で上がるようになった。

    ・・・そして奴がやってきた。

    「おい二課長!どうなっとる!!」

    「はい!なんでしょう!」

    「あれだ、二課が弛んどるんじゃないかと言いに来たんだが理由はわかるか?」

    わかっている。
    わかっているが俺はあいつとの契約がある。

    ・・・とはいえやっかみどころではない。
    いきなりとんでもないところから指摘が来ているだけだ。

    契約を果たせ・・・


    「いえ!わかりません!」

    「なにぃ!?あの新人だ!ちょっとこないだ優しくしてやったからつけあがっとるんじゃないのか!!」

    優しく?何を馬鹿な。
    優しくされたのはお前のほうだろう。

    「お言葉ですが小林は彼女の!」
    しまった・・・
    これは絶対に言わなくてもいい話だ。

    「彼女ぉ?」

    「いえ!なんでもありません!小林は客先と正式に時間変更の交渉を結び、ルートそのものの効率を高めることで時間通りに仕事を終わらせているだけだと認識しています!」


    言った、言ってやったぞ・・・

    「それが弛んどるって言っとるんだ!それに須藤も似たような時間に帰ったって言うじゃないか。なにかお前の指示なんじゃないのか?お?」

    ええい、もうどうにでもなれ。

    「はい!全て私の指示です!
    以前より高い離職率に不安を覚えておりました!

    去っていったかつての部下達も私は早く帰してあげたかった!以上です!!」


    終わった・・・
    しかし悔いはない・・・
    これで俺も無職かもしれんが契約は果たした。

    「ふん!つまらんやつだ。売上が下がるようなことがあったらどうする。
    効率化とやらが出来たのならその分飛び込みでも行かせておけ、いいな?」

    「は・・・はい・・・。」

    初めて常務に楯突くことができた・・・
    震える手をなんとか治めるために俺は喫煙所に向かい、工場長と須藤に囲まれ煙草を吸う小林を見て俺は自分の車で吸うことにした。

    ー次回ー 
    第一章 最終話「依頼」

    概要・目次はこちら

     
     
    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

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