カチ。カチ。
祖父の家にはかなり古い柱時計がある。
大きな振り子時計だ。
子供の時から嫌いだった。理由は音。
カチ。
カチ。
カチ。
夜になると妙に聞こえる。そりゃあ夜が静かなのが原因なのだが。
祖父は毎週日曜になると時計を開けていた。
裏の扉を開き、
中を覗き込み、
しばらく何かをして閉める。
子供だった私は聞いた。
「何してるの?」
祖父は笑った。
「餌やりだ」
子供の頃の私でも冗談だとわかった。
実際、祖父は変な冗談をよくいう人だった。
数年後。
祖父は行方不明になった。
時計だけが残った。
私は実家を継いだ。
時計もそのまま置いた。
ある時、家のどこからか「カリ、カリ」と音がした。
最初はネズミかと思ったが、どこを探してもそのようなものは見当たらない。
次の日。
私は時計の足元に米粒が落ちていることに気づいた。
数日後。
魚の骨。
さらに数日後。
鳥の羽。
私は怖くなった。
時計を開けた。
中には歯車しかなかった。
そのはずだった。しかし一番奥に、
乾いた草。
糸くず。
鳥の羽。
そして、
小さな骨。
たくさん。
修理業者を呼んだ。
業者は巣を見て顔色を変えた。
「これいつからありました?」
私は知らないと答えた。
業者はいった。
「時計にこんな空間はありませんよ。」
意味がわからなかった。
私は時計を壊すことにした。
斧で叩いた。
時計のガラスが割れた。
木が砕けた。歯車が飛び散った。
しかし。
骨があったところの奥に穴があった。
時計の大きさからして、ありえない大きさだ。
私は懐中電灯を向けた。
何かが動く。
「目」だった。
無数の。
目が光を反射している。
奥から声がした。
しがれた声。
祖父の声だった。
「お前、餌をやらなかっただろ。」
翌日、気づいたら朝になっていた。
時計は無くなっていた。
砕いたはずなのに。
欠片一つも残っていない。
ただ、床には跡がついていた。
重いものを引きずったような跡。
玄関へと続いている。
そして家の外へ。
森の方へ。
今も夜になると聞こえてくる。
カチ。
カチ。
カチ。