
多工程持ちとは——導入前に確認すべきことと失敗しない進め方
多工程持ちとは、1人の作業者が複数の工程を担当して生産する方式だ。1人が1工程を担当するよりも少人数で同じ生産量をこなせるため、省人化・コスト削減の手段として製造現場で広く使われる。
しかし「多工程持ちをやれ」と言われてそのまま始めると、現場が混乱する。品質が下がる。かえって生産性が落ちる。こういった失敗を20年の生産技術経験の中で何度も見てきた。
多工程持ちは「準備が8割」だ。この記事では、始める前に確認すべきことを整理する。
■ 多工程持ちの基本的な考え方
多工程持ちには大きく2つのパターンがある。
①横持ち(一の字・コの字・U字ライン)
複数の工程を1人が順番に歩いて担当する。ライン配置がU字やコの字になっていることが多く、歩行距離を最小化する設計が重要になる。
②縦持ち(工程飛ばし・分割担当)
複数のラインや工程を掛け持ちする。機械の自動運転中に別の工程を進めるなど、「待ち時間」を有効活用する考え方だ。
どちらのパターンでも、始める前の準備が品質と生産性を左右する。
■ 始める前に確認すること①:タクトタイムと作業時間のバランス
最初に確認すべきは、「多工程持ちでタクトタイムに収まるか」だ。
多工程持ちでは、1人が複数の工程を回るため、1サイクルの作業時間が単純に増える。各工程の作業時間・歩行時間・待ち時間をすべて足した合計が、タクトタイム以内に収まらなければ生産計画が崩れる。
確認手順:
各工程の手作業時間を計測(ストップウォッチ計測)
歩行時間・機械待ち時間を計測
合計サイクルタイムを算出
タクトタイムと比較
余裕率(10〜15%)を確保できているか確認
タクトタイムを超えた状態で多工程持ちを強行すると、残業・手待ち・やり直しが増える。
■ 始める前に確認すること②:各工程の標準作業は整備されているか
多工程持ちの最大のリスクは「人によって作業が変わる」ことだ。
1工程1人のときは、作業が多少属人化していても大きな問題が出にくい。しかし多工程持ちでは、複数工程を1人がこなすため、各工程の手順がはっきりしていないと作業が不安定になる。
確認ポイント:
各工程に標準作業書(手順書)があるか
標準作業組合わせ表が整備されているか
作業の順序・時間・ポイントが明確になっているか
工程品質のチェックポイントが決まっているか
標準作業が整備されていない工程を多工程持ちに組み込むのは、属人化したままでシフトする状態なので要注意だ。
■ 始める前に確認すること③:動作のムダは排除できているか
多工程持ちでは「歩く・待つ・持ち替える」といった動作のムダが生産性に直結する。
1工程だけのときは気にならなかったムダも、複数工程を担当すると積み重なる。
IE動作分析で確認すべき主なムダ:
歩行距離(工程間の距離は最短か)
持ち替え動作(工具・部品の配置は適切か)
待ち時間(機械の自動運転中に別の作業ができるか)
目線の動き(確認箇所が遠くにないか)
動作のムダを計測・分析せずに多工程持ちを始めると、作業者に過剰な負担がかかる。結果として品質のバラつきや体力的な疲労につながる。
■ 始める前に確認すること④:品質確認のタイミングは決まっているか
多工程持ちで品質トラブルが起きやすい理由の一つは、「誰がどの工程の品質を確認するか」が曖昧になることだ。
1工程1人のときは、その工程の作業者が自工程の品質確認をする。多工程持ちでは、次の工程に移るタイミングで品質確認を挟む設計が必要になる。
確認しておくべきこと:
各工程の完了時に確認する品質項目は何か
不良が出たときの処置手順は明確か
QC工程図に多工程持ちを想定した管理点が設定されているか
不良をそのまま次工程に流さないための仕組みはあるか
■ 始める前に確認すること⑤:作業者のスキルは十分か
多工程持ちは、担当する全工程を1人がこなせるスキルが前提だ。
「工程Aはできるが工程Bはあやしい」という状態で多工程持ちを始めると、品質トラブルとスループット低下の両方が発生する。
スキル確認のポイント:
担当予定の全工程で一定品質を出せるか
切り替え時の段取り作業は経験があるか
異常発生時に自己判断できるか、エスカレーションルールは明確か
新人や習熟途中の作業者には、まず1工程を徹底的に習熟させてから多工程持ちに展開するのが原則だ。
■ 多工程持ちの失敗パターンまとめ
よく見る失敗パターンを整理しておく。
タクトタイムの計算なしに始めた → 計画未達が続く
標準作業なしで始めた → 人によって品質がばらつく
動作分析なしに始めた → 作業者が疲弊する
品質確認ポイントが不明確なまま始めた → 不良の流出が増える
スキル確認なしで始めた → 問題が出てから「やっぱり難しかった」になる
■ まとめ
多工程持ちは省人化・生産性向上の強力な手段だが、準備なしに始めると逆効果になる。
始める前に確認すべき5つのポイントをおさえておこう。
タクトタイムと作業時間のバランスは合っているか
各工程の標準作業は整備されているか
動作のムダは排除できているか
品質確認のタイミングは決まっているか
作業者のスキルは十分か
これらをExcelテンプレートで整備しておくと、現場での多工程持ち導入がスムーズになる。
■ 関連テンプレート(BOOTH)
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