
34,000歩歩いて見えた景色
大人になればなるほど、
やったことがないことや、
行ったことがない場所は減っていく。
経験を積むことが成長だから、
それは自然なことだ。
初めての旅行。
初めての仕事。
初めての一人暮らし。
若い頃は何をしても新鮮だった。
でも年齢を重ねるにつれて、
「初めて」は少しずつ減っていく。
そんなことを考えるきっかけになったのは夫だった。
夫は独身時代、日本一周をしている。
気になった場所があれば一人でふらりと出かける人で、私よりずっと多くの景色を見てきた。
だから結婚してから、
「今度ここ行ってみない?」
と提案しても、
「ああ、そこ行ったことあるなぁ」
と言われることが増えた。
もちろん嫌な意味ではない。
ただ純粋に、夫は本当に色々な場所へ行っているのだ。
それでも私は少し困ってしまった。
夫婦でどこかへ出かけたい。
でも行ったことがある場所ばかり。
じゃあ次はどこへ行こう。
夫が提案するのはたいてい遠出だった。
せっかくなら遠くへ。
せっかくなら泊まりで。
それも楽しい。
実際、私たちは今までたくさん遠出をしてきた。
でも毎回それを続けるのは難しい。
お金もかかるし、時間もかかる。
もっと気軽に、
もっと日常の延長で
楽しめる趣味はないだろうか。
そんな時に見つけたのが、
いわゆる「伊能忠敬界隈」だった。
山手線一周を歩いてやってる若い子達。
歩く達成感と、その道中を楽しむ人たち。
それを見た瞬間、
「あ、これだ」
と思った。
遠くへ行かなくていい。
知らない土地じゃなくていい。
まずは自分たちが暮らしている街を歩いてみよう。
そうして始まったのが、夫との街歩きだった。
先日、私たちは34,000歩歩いた。
数字だけ見ると少し馬鹿みたいだと思う。
でも歩いてみると、本当に面白かった。
線路沿いを歩いている時に見つけた看板には、
「見習い」
「技術訓練センター」
「一人前」
と書かれていた。
見習いと一人前の間に技術訓練センターがある。

思わず写真を撮った。
豊洲では巨大なマグロを見た。
市場の活気を感じた。

無料で入れます。
お台場まで歩けば、
水辺の向こうに高層ビル群が見えた。
レインボーブリッジから見た景色は、何度も写真で見たことがあるはずなのに、自分の足でそこまでたどり着いたせいか少し違って見えた。

東京はやっぱり都会だ。
どれも特別な場所ではない。
東京に住んでいれば、知っている人も多いだろう。
でも歩くと、その景色に物語が生まれる。
電車で移動していたら気づかない。
目的地だけを見ていたら出会えない。
途中にある小さな発見が、歩くことで見えてくる。
私は今、体質改善のために
歩く量を増やしている。
正直に言えば、体質改善は地味だ。
数日頑張ったところで
劇的に変わるものではない。
毎日少しずつ積み重ねるしかない。
だから
「健康のためだから頑張ろう」
だけでは続かないと思う。
でも街歩きは違う。
楽しいから歩ける。
夫と話しながら歩くのが楽しい。
知らないお店を見つけるのが楽しい。
今まで気づかなかった景色に出会うのが楽しい。
その結果として健康につながる。
私にはその方が合っていた。
34,000歩歩いた日の夜は、泥のように眠った。
翌朝は少しむくんでいたし、足も重かった。
それでも不思議と、
「また歩こうか」
と思えた。
大人になると、新しいものは減っていく。
それは仕方がないことだ。
でも、大人になったからといって
人生がつまらなくなるわけではない。
新しい場所を探し続ける必要もない。
大切なのは
見方を変えること
なんじゃないかと思う。
同じ街を歩く。
同じ景色を見る。
だけど昨日とは違う発見をする。
若い頃のように世界を広げるのではなく、
今ある世界を深く味わう。
最近はそんな楽しみ方を覚えた。
伊能忠敬にはなれない。
けれど、自分たちの住む街の地図を少しずつ埋めていく暮らしも悪くない。
34,000歩の先にあったのは、
絶景でも達成感でもなかった。
「大人になってからの楽しみ方」だった。