メインコンテンツへスキップ
見出し画像

タヌキちゃんはタヌキちゃん



    強いクマと、化けるのが上手なタヌキ。

    本当の自分を見てもらえなかった二匹が出会う、大人のための寓話。



    ここはとある山。

    大きなクマが一匹、ひとりで暮らしていました。

    クマは山の中でも有名でした。

    大きくて、力持ちで、頼りになる。

    重たい木も軽々と運べるし、
    とても賢く稼ぐ能力がありました。

    みんな口を揃えて言いました。

    「クマさんは立派だなぁ」

    けれどクマは知っていました。

    夜になると少し寂しくなることを。

    誰かとご飯を食べたい日があることを。

    本当は甘いお菓子が大好きで
    可愛いものが好きなことを。

    画像
    ちょっぴりさみしいクマ

    でも、そんなことは誰にも言えませんでした。

    "自分のキャラじゃない"

    みんなが見ているのは、
    強いクマだけだったからです。


    一方そのころ。

    タヌキは今日も化けていました。

    怖がりで甘えん坊なハムスターの前では、
    まるでお母さんみたいに優しいタヌキ。

    「大丈夫だよ」

    そう言って小さな背中をぽんぽんと撫でてあげます。

    元気いっぱいで駆け回る芝犬の前では、
    一緒になって走り回るギャルみたいなタヌキ。

    「待って待ってー!」

    なんて大きな声で笑いながら追いかけます。

    物知りなフクロウの前では、
    少し背筋を伸ばした大人なタヌキ。

    「それ、私も知ってるよ」

    なんて落ち着いた顔で話します。

    みんな喜びました。

    画像

    ハムスターは安心した顔をして、

    芝犬は楽しそうに笑って、

    フクロウは感心したように頷きました。

    タヌキも嬉しかった。

    みんなが笑ってくれるのは好きだったから。

    でも家に帰ると。

    ぼてん。

    もう一歩も動きたくありませんでした。

    画像
    「もう化けるの疲れたなぁ」

    そろそろ"ぼてん"とした自分を
    受け入れてくれる人と一緒にいたいなぁ

    そう思うようになっていきました。


    そんな暮らしが続いてたある日、
    なんでも自分に合う相性のいい人に巡り会えると噂の"ご縁アプリ"というものが山の中で話題になりました。

    そろそろこのままじゃまずいかなと思っていたクマは、番を見つけたくて効率的な"ご縁アプリ"を恐る恐る始めてみました。

    画像
    最初に出会ったのは猫さんでした。

    「頼れる漢気ある人が好きです」
    とふわふわと長いしっぽを揺らした可愛い猫さんは言いました。
    「私、とっても大事に育てられたから、重いものを持ったことないの。それに危ない時は守って欲しいの」と上目遣いで言います。

    「僕も危ない時は守って欲しいんだけどな」

    クマがそういうと、猫さんはもう興味がなさそうにしっぽを揺らしました。

    「一緒に魚を捕まえてこの山一の富豪になりましょう!」

    白くてふわふわな毛並みを揺らしながら、しろくまさんは言いました。

    「私、小さい頃から夢があるんです」

    「夢?」

    「この山で一番大きなお店を作ること!」

    しろくまさんの目はきらきらしていました。

    「たくさん働いて、たくさん稼いで、たくさんの動物を幸せにするんです!」

    クマは少し考えました。

    「それはすごいね」

    「でしょう!」

    「でも僕は、休みの日にのんびりお茶を飲むのも好きなんだ」

    しろくまさんはぱちくりと目を丸くしました。

    「えっ」

    「お菓子作ったりとか」

    「えっ」

    「昼寝したりとか」

    「ええっ」

    しろくまさんは少し困った顔をしました。

    「クマさんって、思ったよりのんびり屋さんなんですね」

    「そうかも」

    二匹は顔を見合わせて笑いました。

    でも、目指している山は少し違うみたいでした。

    次に出会ったのはうさぎさんでした。

    「クマさんが働いてくれるなら安心です。私はお家で家を守りますね」

    とにっこり笑いかけます。

    クマは少し首を傾げました

    「僕もお家が好きだから、お仕事辞めたいんだけどなぁ」 

    うさぎさんは信じられないという顔をしてぴょんぴょんとどこかへ行ってしまいました。


    クマはいろんな人に出会ったけれど、どれもピンと来なかった。
    クマという力強さに惹かれ動物ばかりで、中身を見てくれる人になかなか出会えなかった。


    そこでたまたま出会ったのが、
    食いしん坊な雑食タヌキだった。

    タヌキもまた、
    化けないまま受け入れてくれる誰かを探していた。

    画像
    「お菓子作りするの??
    クマちゃんの得意なお菓子はなあに?」

    「クマさんはお休みの日なにしてるの?」

    「うーん。お散歩とかお昼寝かな。タヌキちゃんは?」

    「私はお出かけが好き!いろんなところに探検に行って、可愛いお花を見つけるの。あとは、あまーいお菓子を作ること!お菓子好き?」

    「…すき」

    「ほんと!同じだねぇ!!お菓子ならなにが好き?私クッキー!」

    「うーんそれもいいけど、クリームたっぷりの甘いケーキが好き」

    「へぇ!可愛い!」

    クマの耳がぴくりと動きました。

    「可愛いって言われたの初めてかも」

    「そうなの?」

    「だって僕、クマだから」

    また耳がぴくりと揺れます。

    タヌキは思いました。

    “あ、このクマさん”

    “耳が全部教えてくれるんだ”

    「クマだってかわいいもの好きでいいじゃない」

    タヌキはケラケラと笑った。

    それに釣られて

    クマの耳がまたぴくりと揺れました。


    そこからよく一緒にいるようになった2匹。

    タヌキは化けるのが上手だった。

    だからみんなに好かれた。

    でも好かれるのはいつも、

    頑張って化けたタヌキだった。

    本当のタヌキを見せる前に、
    相手が離れていくこともあった。

    だからクマに会った時も、
    いつものように少し化けていた。

    でもクマは、

    「今日はいい天気だね」

    とか、

    「ケーキおいしいね」

    とか、

    そんな話ばかりしていた。

    「ねぇクマちゃん」

    「ん?」

    「もし私が化けるのやめたらどうする?」

    クマはケーキを食べながら言った。

    「別に?」

    「別に?」

    「タヌキちゃんはタヌキちゃんでしょ」

    その言葉を聞いて、

    タヌキのしっぽがふわりと揺れました。

    なんだか胸の奥がぽかぽかしました。

    気がつけばクマは、

    甘いケーキが好きだと
    隠さなくなっていました。

    気がつけばタヌキは、
    化けない日が増えていました。

    外では風が吹いています。

    でも二匹の隣はあったかでした。

    画像
    しあわせなまいにち。



    あとがき

    誰かの前で強いクマになってしまう人へ。
    誰かの前で化けてしまうタヌキへ。

    この物語が、
    少しだけ肩の力を抜くきっかけになったら嬉しいです。

     
     
    知らない世界を覗くのは、案外おもしろい。 ラグジュアリー、お金、美しさ。 一歩踏み込んだから見えた景色を、生活者の目線で。 体験を宝物のように言葉にする。 「なんでだろう?」から始まるエッセイ。 💌: akomaru.cos@gmail.com

    あなたへのおすすめ