
あいをしるひと⑦
ショウがマキの元に戻った。あぁ、よかった。本当に。そんな言葉と一緒に吐いた息が、白く濁る。
なにか、みゆの生活が変わるわけではない。相変わらず母はどうしようもないし、愛されなかった自分を好きにはなれない。
だけど、よかったなって思う。ショウの復職がかなって、ゴトウも教師としてではないけれど、スクールカウンセラーとして教育現場に戻ろうと頑張っている。よるは探偵になりたいと言っていた。みゆは相変わらずみゆだけど、進んでいく周りに引っ張られてもいる。
「あたし、アンタには毎日バカみたいに笑っててほしいの」
あの夜、あさが言った言葉が心に落ちて、ずっとみゆの中に広がり続けている。どうしようもない自分、ままならない現実。だけどいつか、この言葉がなにかを変えるのかもしれない。みゆの中の果てまで着いたとき、変わるのかもしれない。
「結婚式!」
「そんな、盛大にはしないんだけどね」
「ぼくらの両親と、君と双子。それから、ゴトウさん」
「小さな式よ、だけど見てほしいの」
「そっか、うん。ねぇ、ほんとに嬉しい。おめでとう」
「わたしね、みゆにヘアセットしてもらいたいんだけど」
「えっ!?待って、でもみゆまだ学生だし」
「うーん、やっぱ無理かなぁ。でも、みゆがいいなぁ」
「…みゆがいいの?」
「うん、みゆがいい」
「分かった、ちょっと先生とかに相談してみる」
「いい返事、待ってるね」
結婚。あの日、みゆがなにげなく言ったことが、現実になった。ショウを探しているときみゆは、見つからなかったときよりも、見つかったときの方が怖いかもしれないと思った。誰にも言わなかったけれど、あとを考えると急に怖くなった。
だったら、マキに見つからなかったと言えばいいのでは、そうも思っていたけれど、みゆの迷いのそとで、マキの覚悟は決まっていた。見つかってほしい、確かな声でそう言ったマキに、みゆも見つけなきゃと思い直した。
ショウとたくさんの話をしたとマキは言った。二人が再会を果たしたあの夜、みゆはマキのあの曲を歌ってほしいとよるに頼んだ。ショウとマキがくる保証はなかったけれど、あの日は七夕だったから。根拠はないけどみゆは、大丈夫な気がしていた。
簡単ではないと思う。急に動けなくなって戸惑ったショウ。思い出に動けなくなってしまったマキ。代わりに動いたみゆは、初めて自分を誇らしく思った。
自分を肯定する術を持てなかった。愛されたかった人たちは、愛してはくれなかった。求めても手に入らない、だけど諦められない。
マキは愛を分けてくれた。あさは愛は自分だと教えてくれた。みゆが愛してあげられなかったワタシとみーこを、二人は愛してくれた。
みゆの心はずっと、絶叫し続けていた。さめざめしていた。みゆの世界は傾いているし、歪んでいる。でも今は、別にそれでいいと思う。世界をまっすぐ保てなかった人は、たくさんいるんだと分かったから。そこに触れてきたから。
ただ今は、二人におめでとうと言えることが、嬉しい。みゆは戻そうと必死だった世界を、手放すことにした。新しい世界に行ってみたいと、そう思ったから。
そう、
ワタシはまだ、愛を知らない。
愛という魔法を、まだ知らない。
了